「ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・フィクション」 #3

B・ボンド&P・モーゼズ作。ネオサイタマを舞台としたサイバーパンク・ニンジャ活劇「ニンジャスレイヤー」の私家翻訳物 詳細はこちら http://togetter.com/li/73867
5
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・フィクション #3

2010-12-19 15:07:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(これまでのあらすじ:マッポーレベル・ダウンタウン「コメダ・ストリート」の安アパート「エトワール・コメダ」807号室で孤独に暮らすイラストレーター、アガタ・マリアは、彼女を執拗に追ってきたダイゴという男に激しい暴力を受ける。)

2010-12-19 15:12:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(彼女の窮地に思いがけず現れたのは隣室808号室に最近引っ越してきたイチロー・モリタという男だった。読者の皆さんは知っている。彼こそはフジキド・ケンジ、すなわちニンジャスレイヤー。)

2010-12-19 15:15:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(偽名を使い住居を転々としながら、彼は宿敵ラオモト・カンを王手する機会をついに捉えつつあったのだ。襲撃決行を数日後に控え、いらぬ騒動を禁物とする彼は、一度は隣室の無法に無視を決め込もうとしたのであるが……)

2010-12-19 15:18:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ザッケンナコ」「イヤーッ!」「アバーッ!」ハンチング帽の男の右ストレートがダイゴの顔面に叩き込まれた!ダイゴは後ろへ吹き飛び、床でうずくまるアガタの頭上を飛び越え、窓ガラスに激突した。

2010-12-19 15:22:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アガタは突然の非現実的な出来事に目を白黒させ、闖入者を見上げた。「 808号室……モリタ……サン……?」「ドーモ。先程はシツレイしました」ハンチング帽の男はオジギしてみせた。

2010-12-19 15:23:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ダイゴの後頭部がぶつかった窓ガラスには蜘蛛の巣状にヒビが入っている。フジキドはこれでも十分に手加減をしていた。ニンジャパンチ力そのままに殴りつければ、ダイゴの首から上は吹き飛んでいたはず。そうとは知らぬダイゴは「テメエ、マリアの男かコラッ!」出血した歯茎を剥き出しにして凄んだ。

2010-12-19 15:29:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ドーモ。私はスシの宅配です。スシを忘れましたが」フジキドは再度オジギした。ダイゴは逆上し、手近のイスを掴んで殴りかかった。「ザッケンナコ」「イヤーッ!」「アバーッ!」フジキドの右拳が、ダイゴの顔面に再パンチ!

2010-12-19 16:06:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ダイゴは再度、後ろへ吹き飛び、今度は窓ガラスを後頭部で突き破ってしまった。「アバーッ!」フジキドは素早く室内へ歩を進め、朦朧としているダイゴのタンクトップを掴んで引き寄せる。「ロウゼキはいけないので、第三者として止めさせていただきたいと考えます」フジキドは顔を近づけた。

2010-12-19 16:12:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「カーッペッ!」ダイゴは血の混じった痰を至近距離のフジキドに向かって吐き捨てる。アブナイ!しかしニンジャ反射神経を持ってすれば、この程度の挑発を無効化することはベイビー・サブミッション!フジキドは最小限の首の動きでそれをかわす!

2010-12-19 16:15:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!」「アバーッ!」フジキドの頭突きがダイゴの鼻面を砕いた!さらに彼はひるんだダイゴの右腕を後ろへねじり、不自然な方向へ力を加え、ナムアミダブツ!「イヤーッ!」「アバーッ!」右肘を骨折!

2010-12-19 16:18:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アーッ!アーグワーッ!」ダイゴはおかしな方向を向いた右肘を押さえ、台所をのたうちまわった。アガタは短く悲鳴を上げ、後ずさった。「テメエ、家庭内の問題に口を挟むのかコラッ!」ぜいぜいと息を吐きながらダイゴが叫ぶ。フジキドはダイゴの髪を掴んで立ち上がらせる。そしてアガタを見た。

2010-12-19 16:25:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「要らぬ事をしてしまいましたか、 アガタ=サン?」アガタは震えながら首を振った。「いいえ……ア……アリガトウゴザイマス」「追い出しますか?」アガタは無言で頷いた。「マリア……覚えておけよ……」ダイゴが呻いた。「イヤーッ!」「アバーッ!」フジキドの再頭突き!

2010-12-19 16:50:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「実際のところ、私はアガタ=サンの隣人だ。二度とここへ来ないと約束するまで、このまま攻撃を加え続ける。約束しろ」「ザッケンナコ、アバーッ!」再頭突き!「約束しろ」「地獄へ、アバーッ!」再頭突き!「約束しろ」「わ……わかった」ダイゴは力無く同意した。

2010-12-19 16:57:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

フジキドはダイゴを片手で吊り上げ、窓を引き開ける。そしてダイゴの体を窓から突き出した。「アイエエエ!」遥か下の地面!ダイゴは失禁した。「こ、殺さないで」アガタは言った。フジキドは短く頷いた。そしてダイゴに言った。「戻ってくれば、今度はコンクリートをめがけて落とす」彼は手を離した!

2010-12-19 17:01:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アイエエエエ!」八階の高さから落下したダイゴの体はシダレヤナギの木にぶつかり、そこから、積み重なった生ゴミの山へ転げ落ちた。満身創痍となった彼が這々の体で路上を逃げて行くのを見下ろし、フジキドは割れた窓を閉めた。「ガラスは弁償します」

2010-12-19 17:04:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ほ、本当に助かりました」アガタが立ち上がり、頭を下げた。前髪が乱れ、額にかかっている。口を切り、頬を腫らしているが、美しい女性であった。フジキドは淡々と台所を横切った。「他人のプライバシーには踏み込みません。サヨナラ」「あのう!」アガタが呼び止める。

2010-12-19 18:54:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「お茶とヤツハシでもいかがですか、モリタ=サン?」「いいえ結構です」フジキドはかぶりを振った。ドアノブに手をかけたフジキドに、「……どうか」アガタは震え声で訴える。「お願いです、30分で構いませんから……情けない話ですが、まだ恐ろしくて……」

2010-12-19 18:59:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「やっと重いモノが動いてポイント三倍点です、さあチャンスですよ!」「もちろんチャレンジです!」「チャレンジを受け付けます、さあ……答えは」「チマキ!」「……アタリ!」「ワー!スゴーイ!」「鬼瓦15枚が三倍点で加算、ヤマドメ=サンなんと逆転優勝だ!」「ワー!スゴーイ!」

2010-12-21 15:48:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

けたたましく騒ぐスタジオの音声は、違法電波を撒き散らすトラックが川向こうのハイウェイを通過する度にゆがむ。アガタの横顔は映像の照り返しを受けて電子的だった。

2010-12-21 15:50:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

フジキドがアガタに乞われ、しばしその心を通わせたのは、一年以上にわたって続くサツバツに倦み疲れ、情けを求めた彼の弱さであったろうか。それとも、ナラクに堕ちようとする彼の魂を救い踏みとどまらせる人間性の灯火だったであろうか。フジキド自身にも、それはわからないだろう。

2010-12-21 16:22:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アガタはフジキドに、とりとめなく己の身の上を語った。マイコセンターでの日々、転がり込んできたダイゴが当初は情け深い男であったこと、浮世絵を必死で身につけ、最終的にセックス・ビズから足を洗ったこと。その後訪れた暴力の日々。

2010-12-21 16:26:06