- riem124blue
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1 決して嫌いになったわけじゃなく、彼よりももっと好きになった人ができてしまったから。 彼はたぶん分かってた、私が別れを切り出すことを。 そして、その理由も。 だから、拍子抜けするくらいあっさりと別れてくれた。 自分から別れたくせに、罪悪感かな…前に進めなくなって。
2015-04-19 01:11:122 彼にも幸せになってほしいから、彼にステキな人が現れるまで、私も…あの人に想いを伝えない…なんて、ただの自己満足だってのは分かってるけど。 そんなんで、結局大学2年で別れて…それから何事もないまま卒業。 私は就職、別れた候隆はあんなに嫌ってた父親の会社に何故だか就職。
2015-04-19 01:11:233 そして、あの人…候隆の親友、信五はこれまた何故か音楽技術系の専門校へ。 2年後に、その2人の行動の意味をやっと知った。 横山「コイツと楽器屋やんねん。」 ☆☆「楽器屋って…、」 横山「親父に負けへん楽器屋作る。その為に親父んとこで勉強してん。」
2015-04-19 01:11:454 村上「俺は調律の技術身につけた。」 横山「で…、おまえは?」 ☆☆「え?」 横山「おまえは今、何してんねん?」 ☆☆「経理の仕事、してるよ…?」 横山「それ、俺らんとこでやってくれへん?」 ☆☆「えっっ?!」
2015-04-19 01:12:075 村上「誰か信用できる人にお願いしたいってなって…俺ら2人ともおまえならってなってん。」 ☆☆「それは…うれしいけど…。」 横山「そりゃ…正直言うて、保証はない。俺やって、やってみんとどうなるか分からへんし、給料も今んとこと同じぐらい出せるか分からへん。」
2015-04-19 01:12:236 横山「少しの間やったら、俺らだけでなんとかやってみるから、ちょっと考えてみてくれへん?待つから。」 2人とも真剣なのが、すごく伝わった。 大学で3人でふざけあってたあの時とは違う…。 卒業してすぐ行動に移したんだもん…あの時からちゃんと考えてたんだな…。
2015-04-19 01:12:367 ☆☆「わかった…ちゃんと考えてみる。」 一週間後、もう開店してるらしいお店に寄ってみることにした。 お世辞にも立地は良くないその場所で、2人は店頭でバタバタしていた。 候隆は彼より少し年上らしい女性に、少し照れながら一生懸命、鍵盤楽器の説明をしてる。
2015-04-19 01:12:438 信五は年配の男性と大きな声で、時々ガハハハって笑いながら、ギターを売ろうとしていた。 しばらくそんな2人をお店の外から眺めてたら、なんだか自然と笑顔になってる自分に気付いた。 村上「なんや!来とるんなら、中入りぃや!」 接客が終わり、私に気付く信五。
2015-04-19 01:12:569 お客さんも居なくなったお店に招き入れられる。 あまり広くはない店舗に、いっぱいいっぱいの商品。 横山「オープンしたてで、物珍しさに来る客がまだボチボチおんねん。」 ☆☆「私もその1人。」 村上「あはは!じゃーいらっしゃいませーやな!」 横山「まー、これからやなぁ。」
2015-04-19 01:13:1510 村上「…考えてくれたん?」 ☆☆「うん…。」 横山「あんま期待できん顔やなぁ…。」 ☆☆「…ここ来るまでは断ろうと思ってた…。」 村上「えっ?来るまではってことは、受けてくれるってことか?!」 ☆☆「うん…なんか、楽しそうな2人見てたら、私も頑張ろうかなって。」
2015-04-19 01:13:4011 村上「おー!まじか!」 横山「ホンマ?ホンマにえーの?!」 ☆☆「うん!…お願いします!あ、でも、明日からってわけには…、」 横山「えーよえーよ!!今の会社、ちゃんとしてからでえーから!」 村上「おー!やったなぁ!」 2人がハイタッチして喜んでくれる。
2015-04-19 01:13:5112 それから、なんと2週間という早さで会社を辞めた。 「通常有り得ませんよ!」なんて、ブツブツ文句言われたけど、それよりも早くあの会社で働きたくて。 苦労はすると思う。 経理業務全てを1人で出来る自信なんてないし。 でも、あの2人となら、なんとかなるような気がして…。
2015-04-19 01:14:0713 初出勤日、申し訳なさそうな2人が私を迎えた。 村上「いやー、なんや色々溜まってんねん…。」 横山「経理だけやなくて、商品の整理もイマイチでなぁ…。」 はぁー…覚悟はしてたけど…。 ☆☆「…じゃー、信五!」 村上「はい!!」
2015-04-19 22:11:5114 ☆☆「店頭で、接客しながら陳列のし直し!あと、値札作り!あ、それと、みっともないから、端に置いてる並びきれてない商品はお客様に見えないところに置いて!」 村上「はい!!」 ☆☆「候隆!」 横山「はいっ!!」 ☆☆「私と一緒に事務所内の書類整理から!」
2015-04-19 22:11:5715 横山「はいっ!!」 まさか大学の時のバイト経験が、こんなとこで役に立つとは(笑) ☆☆「これ、注文書、納品書、請求書、あと…送り状かな…それぞれ分けて。」 横山「はい。」 ☆☆「あ、もちろん会社別、日付順にね?」 横山「はい。」 従順すぎてちょっと笑いそう…。
2015-04-19 22:12:0216 一応、伝票やら帳簿らしきものもあって、中を確認すると、努力の跡はあったけど、どうやら断念したらしい。 開店から3週間…これは、なかなか大変そう…。 私が来なかったら、どうするつもりだったんだろう…? 横山「帳簿?ってゆぅん?そんなんで足りんの?」
2015-04-19 22:12:0717 ☆☆「うーん…足りない分は書き出すね?その前にやり方とかも考えないと…。」 横山「…ホンマに…来てくれて、ありがとうな?」 ☆☆「あら、素直。」 横山「…いや…ホンマに。すげー嫌々親父の会社行って、ホンマに勉強したつもりやってんけどなぁ…。」
2015-04-19 22:12:1118 横山「販売の方ばっか勉強して、こっち全然やったわ…。」 ☆☆「…聞いていい?」 横山「ん?」 ☆☆「…なんで楽器屋なの?」 横山「それは…。」 ☆☆「お父さんの楽器屋継がないばかりか…、同じ楽器屋始めるなんて…。」 横山「おん…。」
2015-04-19 22:12:1519 横山「まぁ…、男の意地ってゆーか…かっこよく言えば、親父を越えたいってゆーか?…まぁ、でも…当て付けやな…。」 ☆☆「…お父さん、知ってるの?」 横山「おん…そこはもー、かっこ悪いことしたで…?…頭下げて金貸してもろた。」 ☆☆「そうなんだ…。」
2015-04-19 22:12:2020 ☆☆「反対されなかったの?」 横山「もちろんされた。そんなんせんと会社継げって。そりゃそー言うわな?それに、馬鹿にもされた。おまえにできるわけないやろって。でも、絶対成功させたるって言うて…ほんならやってみろってさ。金は返さんでえぇ言われたけど、意地でも返す!」
2015-04-19 22:12:2421 ふふ…彼らしい…。 ☆☆「そうだね…一緒にがんばろ!」 横山「・・・・、」 ☆☆「ん?どしたの?」 横山「や…ちょ自信なくしててんけど…、またがんばろ思えてきたわ…。」 候隆…。 ☆☆「もー!社長がそんなんで、どうすんの!!ほら!手動かして!」
2015-04-19 22:12:3222 候隆のそんな様子に説明しようのない…なんとも言えない気持ちになった。 守ってあげたいというか、抱きしめてあげたいというか、泣きたいような…。 なんだろう…。 こんな気持ちになるなんて…自分から別れを告げた相手なのに…。 でも彼が大切な友達ってことも間違いないし。
2015-04-19 22:12:3823 そう…友達だから…。 それから毎日のように残業して、なんとかなりそうな感じになった。 ☆☆「…うん、これでなんとかなりそうじゃない?お店も一通り片付いたし、伝票上げるのはまだちょっと残ってるけど、書類整理はできたから、あとは私ががんばって…うん!」
2015-04-20 23:42:4324 村上「ホンマぁ~?良かったー!」 横山「ホンマ、☆☆のおかげやわ!ありがとぉ!!」 ☆☆「明日はお休み!ゆっくり休んでね!」 村上「おまえこそやん。あれ、今何時?」 横山「もーすぐ、11時。」 村上「夜中やん。」 横山「あっ!!」
2015-04-20 23:42:4825 候隆が事務所の奥にある小さい冷蔵庫へ向かう。 そこから何かを取り出して、振り返った彼はなんだかニヤニヤして、たっぷりと間を取ってそれを見せた。 横山「ビール~!!」 村上「おーっ!!」 ☆☆「わっ!!」 歓喜する私たちにビールを手渡す。 横山「気が利くやろ?」
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