《空に手を》

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《空に手を》side-A 1 えー。 「もしもひとつだけ願いが叶うなら、何をお願いしますか？」 そんなんないわぁ...。 しっかしまあ、雑誌の取材っちゅーのは飽きもせんと同じことをようきくなぁ。

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《空に手を》side-A 2 クリスマスの思い出、バレンタインに欲しいチョコレート、もし一週間休みあったらなにします？、女子に作って欲しい料理は...。 たまには宇宙人にオススメな日本食はナンデスカくらいのこときいてこいや。

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《空に手を》side-A 3 「もう一度、生まれ変わりたいです」 隣に座ってる亮の声が聞こえた。 あれ、そーゆー心境？ 珍しくしおらしいやんけ...。 明日発売の写真週刊誌に夜遊びすっぱ抜かれた亮は、さっきまでチーフマネージャーにこってり絞られてた。

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《空に手を》side-A 4 何度目やねん。 フライデーに連載持ってんのかお前は！ いつからそんなんなったんやろなぁ。 昔はかわいいかわいい亮ちゃん、やったのに。

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《空に手を》side-A 5 それにしても...。 先に取材終えて、バカ話で盛り上がってる他の奴らを眺める。 ヒナは同棲中やし、よこはあんま多くを語らんけど、最近なんかええことあったっぽいし...。

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《空に手を》side-A 6 マルはいっつも手作り弁当やろ？ ヤスはあれでなかなかオンナ切らさんタイプで、大倉は...よー知らんけど、たまにウザい感じでオンナいるアピールしてくるから、まあつまりそーゆーことやな。 あれ...。 もしかして。

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《空に手を》side-A 7 絶賛ソロ活動中なのは俺だけですかそうですか。 まあ...。 別にええけど。 ー渋谷さんは？ 急に名前を呼ばれてハッとする。 そーやった。 願い事。

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《空に手を》side-A 8 「...あぁ...えー...そっすねぇ...特にない...ですねぇ...」 ーえ、ないですか？ ライターが明らかに困った顔をするから、仕方なく錆び付いた頭に油を刺した。

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《空に手を》side-A 9 地雷探査機。 仲良いヤツらは面白がって俺をそう呼ぶ。 ダメ磁石。 メンヘラホイホイ。 爆弾製造所。 だからつまり、“その手の女”にハマりやすいってこと。

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《空に手を》side-A 10 別にそーゆー女を好んでるワケちゃうねん。 付き合うなら、精神的に健康な女がいい。 いつも、心底そう思ってる。 でも、こいつは絶対大丈夫やろって思ったヤツが、俺と付き合ってしばらくすると、みるみるうちにバランスを崩して行く。

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《空に手を》side-A 11 んで、あれよあれよと言う間に生きるか死ぬかの話になる。 何でやねん。 まぁ、俺にも問題あるんやろけど。 気分に波あるし、なんて言うか共依存？なとこあるし。

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《空に手を》side-A 12 昔、ライブの直前に「今から死ぬ」ってメールきたときは、こっちが生きた心地せんかった。 他にも別れた後にストーカーみたいになるヤツとか、毎日いつでもどこでも求めてくるヤツとか。 まあとにかく、だから、恋愛って俺にとっては結構命がけ。

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《空に手を》side-A 13 「えーっと、だから...ないっていうのは、ですね」 そうそう。 願い事の話せな。 「これまでなんだかんだ望みが叶えられてるので、これ以上なんか願ったらバチ当たるんちゃうかって」

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《空に手を》side-A 14 アイドルっぽい？ 俺っぽい？ そんなことを言ってみると、ライターはホッとしたようだった。 ほんまのこと言うと、一個だけ思い浮かんだことあったけど。

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《空に手を》side-A 15 もしも願いが叶うなら。 今度こそ、最高にハッピーな恋がしたい。 なんて。 うわ。 恥っず。 何考えてんの俺。

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《空に手を》side-B 1 え...。 私のせい？ 「何勝手にしゃべらせてんだバカ！！！」 本番が終わってから、スタジオの前の廊下でお天気コーナー担当のディレクターに怒鳴られた。 「もーちょっとで放送事故だぞ放送事故！フォロー遅い！」

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《空に手を》side-B 2 確かにすぐフォローできなかったのは私のせい...だけど。 でも、何で私がこんなに怒られなきゃいけないの？ あえて言うなら悪いのは、本番中にいきなり黙り込んで、進行無視して勝手にしゃべったゲストの錦戸さんじゃ...。 「でも...」

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《空に手を》side-B 3 「でも...」 「あぁっ？でもじゃねーんだよ」 いいじゃない、あれくらい。 そんなに騒ぐようなこと？ 私は嫌いじゃないけどなぁ。 人生ガチンコで生きてるって感じで、なんかかっこよかった。

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《空に手を》side-B 4 「お前の代わりなんかな。掃いて捨てても湧き上がってくるフナムシくらいたくさんいるんだからな」 はいはい。 どうせ私はフナムシ以下ですよ。 朝の情報番組のお天気キャスターになって...気づけばもう2年。

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《空に手を》side-B 5 朝...っていうか夜の一時半起きだし、昼夜逆転で友達はいなくなるし、彼氏にはフラれるし、土日は泥のように眠るだけ。 “お天気お姉さん”なんて、ポップな名前の割に超ブラックな仕事なのに、志望者はフナムシどころかアリンコくらいたくさんいる。

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《空に手を》side-B 6 「でも！」 もー。 大声出さないでよね。 みんな見てるし...。 「俺の代わりもたくさんいるんだよ。お前がミスったら俺クビになんの！！」 そーだった。 このディレクターさん、局の人じゃなくって制作会社の人だった。

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《空に手を》side-B 7 言わば、出入りの業者。 私と一緒。 何かあればすぐ切られて、次の日からは別の人が同じ仕事をする。 誰も、困らない。 同じ境遇だって思うとちょっとだけ仲間意識...。 「おい、聞いてんのかよ！」 芽生えない。 全然！

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《空に手を》side-B 8 丸めた台本で頭ポンってやられたし！ 信じらんないこの男！ 「...はい...すみませんでした...」 「ったく、どーせお前もあれだろ？野球選手捕まえて早いとこあがりにしたいとか思ってんだろ」 すっごい偏見...。

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《空に手を》side-B 9 っていうか私、女子アナじゃないんですけど...。 プロフィールの肩書き、まだ一応女優なんだけどな...。 あ...。 自分で“まだ”って言っちゃったし...。 私はいつまでお天気お姉さんなんだろう。

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《空に手を》side-B 10 仕事があるだけ感謝しなきゃいけないのは分かってるけど...。 そもそも代わりがいない仕事なんてあるのかなぁ。 総理大臣だって替えがきくし、マイケル・ジャクソンがいなくなっても地球は今日も回ってる。