日本の金融市場と資本コスト

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樋口耕太郎 @trinity_inc

株式上場と資本市場が事業会社に要求する資本コスト(http://togetter.com/li/76975)は「法外」の一言尽きると思うのだが、日本の金融市場のコストがこれほどまでに「高価」になったのは、比較的最近のことではないかと思う。

2010-12-23 16:32:43
樋口耕太郎 @trinity_inc

特に95年以降、アメリカ主導で世界経済が一気に金融化する流れに呼応するように、日本ではバブル崩壊を機に、およそ過去15年くらいで急上昇したというのが私の肌感覚だ。

2010-12-23 16:33:57
樋口耕太郎 @trinity_inc

日本は伝統的に、その目覚しい経済成長率にもかかわらず、社会全体で見たときには最も資本コストが低い国ではなかったか。日本の金融は銀行によるメインバンク制度が中心で、資本市場はいつもおまけのような存在だった。

2010-12-23 16:39:17
樋口耕太郎 @trinity_inc

メインバンク制度の本質は、銀行がデット(負債・ローン)へのリターンを対価に事業リスクを積極的に取るということだ。経済成長率が高い時期の日本社会において、資本の大半がデットによる銀行中心の金融は、社会の資本コストを特に低く維持し、事業を支え、エクイティリターンは事業会社が享受した。

2010-12-23 16:44:47
樋口耕太郎 @trinity_inc

日本のメインバンク制度とは、少なくとも資本コストの観点からは、デットのコストでエクイティをファイナンスできる、事業会社にとっては夢のような金融メカニズムではなかったか。

2010-12-23 19:20:06
樋口耕太郎 @trinity_inc

事業会社は低い資本コストによる余剰利益を事業に再投資し、長らく日本の慣行であった終身雇用を守ってきた。金融と事業の両面からカイシャ共同体が支えられていたのだ。一方、資本市場では株式の持合が常識で、四半期ごとの決算で必ず増収増益を求めるような「ガイジン株主」もIRも存在しなかった。

2010-12-23 19:23:08
樋口耕太郎 @trinity_inc

どの会社の株主総会も15分間で終了し、「モノ言う株主」ということばすらなかった。利益の額と成長よりも、シェアの拡大、組織の拡大、影響力の拡大が重要で、規制が多く、競争原理が社会に浸透していなかったため、おおよそどの業態においても利益率は確保されていた。

2010-12-23 19:27:11
樋口耕太郎 @trinity_inc

確かに業界の序列を争うような熾烈な競争は存在した。だが重要な点は、価格競争が存在しなかったのである。シェア争いにしのぎを削り、市場を獲得さえすれば、利益は後から付いてきた。

2010-12-23 19:29:33
樋口耕太郎 @trinity_inc

単年度の利益よりも、長期的、総合的な影響力や事業規模が重要視されたため、現在のように短期的な株価の上下によって経営者が追及されるようなことはそれほど一般的ではなかったと思う。株価が下がっても責任追及されなければ、経営者の認識の中で、エクイティの資本コストは限りなくゼロに近づく。

2010-12-23 19:33:30
樋口耕太郎 @trinity_inc

バブルのエクイティファイナンス最盛期においては、株式は発行し放題、資本コストという概念は殆ど経営者の意識に上らず、時価発行増資を発表した企業の株価は軒並みストップ高をつけた。当時は配当の額が株式の資本コストだと考えていた経営者も(そして証券マンも)少なくなかったと思う。

2010-12-23 19:40:11
樋口耕太郎 @trinity_inc

91年から米国で勤務するようになった私は、為替レートで計算できる通貨価値以上に、米ドルの価値は日本円に比べてずいぶん高いと感じた。米ドル建ての投資案件から生まれるリターンは日本円のそれよりも明らかに高かった。やはり、ドル資本は高価なのだと実感した。

2010-12-23 19:43:24
樋口耕太郎 @trinity_inc

メインバンク制度による豊富なデット資本、利益率の確保された規制市場、株式持合による低エクイティ資本、長期的な高度経済成長。90年代中頃までの日本において、金融市場は低コストの資本を大量に事業会社に提供し、国家の経済成長と社会の安定に最大限貢献した。

2010-12-23 19:45:15
樋口耕太郎 @trinity_inc

その中でも特に、世界的に低い(かった)日本の資本コストが、日本経済の強さに相当貢献してきたのではないかと思う。そして、バブルの頃からこの弊害が出始めた。ジャパンマネーがアメリカの土地を買い漁ったが、これは底値を拾ったのではなく、安価なお金が高額の投資価格を正当化したためだ。

2010-12-23 19:48:17
樋口耕太郎 @trinity_inc

余りに低い日本の資本コストに恐れをなしたアメリカと国際金融の面々は、BIS規制を導入し、橋本内閣に日本版金融ビッグバンを迫り、日本の金融構造を銀行中心のデット型から、投資銀行中心のファンド、エクイティ型への転換を強く促した。

2010-12-23 19:52:21
樋口耕太郎 @trinity_inc

外資系金融機関を中心に「投資銀行」のステイタスが「商業銀行」を抜き始めたのはこのあたりからである。クリントンが政権における金融政策の基点となった95年、ゴールドマン・サックスの会長を務めたロバート・ルービンが財務長官に就任するや否や、史上前例のない強烈な円高となる。

2010-12-23 19:55:10
樋口耕太郎 @trinity_inc

1995年3月、日本の決算期のタイミングで付けた、1ドル80円の超円高ドル安は、邦銀のドル建て資産価値を著しく減少させ、純資産比率が急速に低下した。その後大量の不良債権処理開始の狼煙となった。私は、ルービンの就任、超円高、日本の金融市場開放の流れは偶然ではないと思う。

2010-12-23 20:00:31
樋口耕太郎 @trinity_inc

100兆円と言われた日本の大量の不良債権処理が始まったのが97年。そのタイミングに合わせて日本版金融ビッグバンが進み、高コストの資本を大量に運用する外資が、日本の金融市場に参入する環境が急速に整った。

2010-12-23 20:04:23
樋口耕太郎 @trinity_inc

瑣末なエピソードだが、当時、不良債権の大量購入を進めた外資系金融機関のヘッドの自宅が放火されたとか、猫の生首がオフィスに届けられたとか、まことしとやかな記事がWSJなど米系の新聞に掲載されて、日本に噂が還流した。

2010-12-23 20:07:08
樋口耕太郎 @trinity_inc

・・・穿った見方をすれば、外資系が(資本コストが圧倒的に低い)日系金融機関の不良債権市場への参入を防ぐために、脅かしのためのリークだったように思う。現に野村證券は不良債権処理に関する悪い噂に恐れをなして、当時の膨大な事業機会をほぼ完全にやり過ごしている。

2010-12-23 20:10:28
樋口耕太郎 @trinity_inc

金融ビッグバンによって規制緩和の流れが決定的となり、株式持合いは日本の金融市場が「非効率」なことの象徴とされ、モノ言う株主が登場し、IRが導入され、米国流の企業統治が進み、経営にストックオプションが付与され、かくして企業は四半期ごとに短期的な利益を積み上げることを余儀なくされた。

2010-12-23 20:14:07
樋口耕太郎 @trinity_inc

95年以降、僅か15年間で資本コストが急速に上昇し、経済成長が停滞し、規制緩和によって価格競争が始まり、企業の利益が急速に奪われた。企業は人件費を大幅に削り、正社員を派遣に置き換え、企業利益の大半は資本家へと配分されるようになった。

2010-12-23 20:16:19
樋口耕太郎 @trinity_inc

つまり、日本において、今の資本市場は「初めての問題」なのだ。これほど法外な資本コストが社会全体をを痛めるという大問題が生まれているのは、70年代以降で初めてだからだ。社会のトレンドを逆転することができない以上、我々は金融の資本コストを強烈に低下させる方法を開発しなければならない。

2010-12-23 20:23:03
樋口耕太郎 @trinity_inc

そうでもなければ、デフレ環境の中、事業会社は金融のために滅んでしまう。この問題を解決する機能こそが次世代金融の重要な役割になるだろう。・・・ただし、現在の金融業界のパラダイムの中にその解は存在しない。Black Swanはつねに既存の世界観の外から訪れるのだ。

2010-12-23 20:25:10