#昨日よりは遅く明日よりは早く
昨日見かけた「びっくりするほど眼鏡がダサいけど一部尖ったスペックを持ったJC」 pic.twitter.com/dIhq2mxvIm
2015-05-19 01:23:40#昨日よりは遅く明日よりは早く 小さい頃の自分はとにかく生意気な餓鬼だった。 教科書の中身を暗記するほど繰り返し読んで全てを知った気になっていた癖に、図書館に書かれていた本には微塵も興味を持たない。そういういびつさを抱え、厄介なことにあまり矯正されずに生きて来た。
2015-05-24 20:34:29#昨日よりは遅く明日よりは早く ちょうど深夜のラジオで中二病なんて単語が流行り始めた頃である。 幸運にも自分にはオカルトの趣味はなかった。しかし上級生や中高生の教科書を生意気にも読もうとして挫折を繰り返した辺りで自分の視力は低下を始め、卒業前に眼鏡の世話になってしまった。
2015-05-24 20:39:12#昨日よりは遅く明日よりは早く 初めて入る眼鏡屋で、両親は随分と嘆いたものだ。 教科書の内容は暗記する癖にテストの成績に結び付かないのだから。塾や家庭教師も本格的に考えねばと思った頃に、視力の低下なのだ。 目が悪く程勉強していないのにねえとチクリと刺されたのを覚えている。
2015-05-24 20:41:45#昨日よりは遅く明日よりは早く が。 両親を慌てさせたのは、実はもう一つの理由が大きい。 教科書ばかり飽きるほど読んでいた自分は、眼鏡屋でこう言ったのだ。 「片眼鏡(モノクル)はありませんか」 嗚呼なんて中二病。 社会に出て十分な収入を得た今の自分なら買わない。
2015-05-24 20:43:58#昨日よりは遅く明日よりは早く そもそも何で片眼鏡だったのか。 要するに教科書に載ってる眼鏡関係の写真が、片眼鏡かダサい丸眼鏡しかなかったのだ。幼い自分は「眼鏡とはこういうものだ」と勝手に定義づけてしまい、店内に並ぶ様々なフレームはすべてサングラスと思い込んでいた。
2015-05-24 20:45:46#昨日よりは遅く明日よりは早く 説得、というよりは半ば脅迫と懇願。 プラスチックのレンズにさえ拒否感を示しガラスじゃなきゃ嫌だと駄々をこねていた自分に対して、両親は妥協点として当時は絶滅しかけていた丸眼鏡のフレームを提示した。 レンズ込の安いセットから外れた別注品である。
2015-05-24 20:47:47#昨日よりは遅く明日よりは早く 当時の財務状況から考えれば相当に値の張る品だったこと。レンズを買い替えた方がまだ安上がりになること。なにより自分が相当の愛着をもっていたことから、小学校から大学卒業まで多少の手直しこそしたものの同じ丸眼鏡で通すことになった。
2015-05-24 20:51:34#昨日よりは遅く明日よりは早く 社会に出て流石に眼鏡ひとつだけというのは寂しいので予備の眼鏡も購入したが、周囲も店員も「マルさんが普通の眼鏡というのは似合わない」と言い出し、丸眼鏡以外を認めようとしない。 なんという自業自得か。 「仕方ないよ、マルさんはマルさんだもの」
2015-05-24 20:53:27#昨日よりは遅く明日よりは早く 誰もがそう言う。 丸眼鏡だからマルさん。誰も本名で呼ばなくなった。職場でもマルさんで通るようになっている。 「マルさんはまだいいじゃない」 朝食時。トーストにブルーベリーのジャムを塗りながら文句を言うのは、従兄の娘だ。
2015-05-24 20:59:17#昨日よりは遅く明日よりは早く 就職先が本家に近い事からダメもとで従兄に頼んだところ、離れの一部屋を格安で借りる事ができた自分は大学卒業時から本家で暮らしている。 家賃もそうだが洗濯物や炊事の負担が減るというのは独身者には地味にありがたい話だ。その代り従兄の娘の世話もする。
2015-05-24 21:01:21#昨日よりは遅く明日よりは早く 世話とはいっても家庭教師の真似事だったり、進路相談の手伝い程度の話なのだが。 「マルさんのおかげで、あたし学校ではコマルさんって呼ばれてるのよ」 「そのダサい眼鏡で学校に行くからだ」 twitter.com/Strangestone/s…
2015-05-24 21:03:25#昨日よりは遅く明日よりは早く ダサいダサいとか言いながら、従兄の娘は自分と似たような丸眼鏡をつけて学校に通っている。 中学の入学祝として眼鏡を贈ったのは自分で、デザインは好きなのを選べと言ったはずなのだが。彼女が身に付けてる腕時計は自分が学生時代に愛用したモノだ。
2015-05-24 21:05:37#昨日よりは遅く明日よりは早く いくら真面目な女子中学生だからとはいえ、もう少し華やかな服や道具を選んでもいいだろうに。 身内の贔屓目を差し引いたとしても、従兄の娘は可愛い方だと思う。 可愛いけど凶悪ではあるのだけど。あれ水泳の授業とか大変だよな程度には心配もするが。
2015-05-24 21:08:27#昨日よりは遅く明日よりは早く 「マルさん、それにしても今日は随分のんびりだよね。仕事クビになったの?」 「馬鹿言え。有休と代休突っこんで不動産屋巡りだよ」 へー。 といつものように相槌を打った後に、従兄の娘は硬直し、トーストを落した。ジャムの青紫色が畳に染みる。
2015-05-24 21:13:44#昨日よりは遅く明日よりは早く 「不動産? 投機用マンションとか絶対騙されてるから。この辺はただでさえ空き部屋が増えてるのに建設が続いてて!」 「俺がこの家を出ていくから、会社に近いところに部屋を探すんだけど」 「なんで!」 大きな声で叫ぶ従兄の娘。従兄夫婦は目を丸くする。
2015-05-24 21:16:01#昨日よりは遅く明日よりは早く 「なんでって言われてもなあ」 「パパとママがマルさんを追い出したの!?」 女子中学生特有のヒステリーを含んだ激情の目線が従兄夫婦にむけられそうになるが、そうなる前に自分が手を振りそうじゃあないと否定した。 「コマル、おまえ来年高校生だぞ?」
2015-05-24 21:18:06#昨日よりは遅く明日よりは早く それがなによと従兄の娘が反応する。 自分は湯呑に残っていた茶を飲みほし、軽く息を吐いた。 「実体はどうであれ女子高生とひとつ屋根の下で暮らしているってのは色々マズイの」 ヘンに誤解が広まると、自分が女子高生と同棲してるなんて誤報も飛ぶ。
2015-05-24 21:20:59#昨日よりは遅く明日よりは早く 「ど、同棲」 「世の中には家庭教師の教え子の中学生と同棲して、16歳になった途端に入籍を果たして高校卒業時には4人も子供がいたなんて話もあるんだぞ」 「なによそれえ!」 「出向先の会社で聞いた噂話なんだけどね」 多分デタラメだと思う噂だがね。
2015-05-24 21:24:50#昨日よりは遅く明日よりは早く 「そういう訳だから、マルさんとしてはこの家の朝晩の御飯は非常に惜しいのだけど、いい加減に独り立ちの季節が来たわけですよ」 「マルさん自炊なんて」 「大学生の頃はやってたがな」「意外と料理上手よねマルさん」 従兄夫妻の指摘にコマルは唸る。
2015-05-24 21:26:59#昨日よりは遅く明日よりは早く 「パパとママはマルさんの味方なの!?」 いや、そういう問題じゃないでしょうが。 何が面白くないのか従兄の娘は逆上し、畳に落ちたトーストを拾うことなく傍にあった鞄を掴んで立ち上がると出ていってしまった。 「マルさんの馬鹿! ロリコン!」
2015-05-24 21:29:24#昨日よりは遅く明日よりは早く おい待て馬鹿は認めるがロリコン言うな。 そう呼ばれないために極楽のような今の生活を諦めたってのに、と叫ぼうとしてもコマルの姿はどこにもない。 「……思春期の子は何考えてるのかわかんないっす」 「あらそうかしら。分かりやすすぎて困るくらいよ」
2015-05-24 21:31:18#昨日よりは遅く明日よりは早く トーストを片付け畳の汚れを拭きながら苦笑するのはコマルの母だ。 「うちとしてはマルさんだと安心なんですよ」 「いやいや、三十路近い独身男とか女子中高生に近付けちゃいけませんて」 それでなくとも従兄の娘は痴漢とか遭いそうなのだから。
2015-05-24 21:33:28#昨日よりは遅く明日よりは早く 従兄はというと眉間にしわを寄せ顔の筋肉を痙攣させながら茶を啜っている。この家で朝にパンを食べるのはコマルただ一人である。 「高校生になったら分別もつくでしょう」 「そうね、自分の行動に責任取る年齢よね」 「?」 何故か従兄の湯呑が割れた。
2015-05-24 21:36:42