ア・セイレーン・シング・フォア・ハー・ウイングス #2

遠藤綾だけどMay'nじゃねえか!
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劉度 @arther456

◇◇◇◇◇◇◇ ←九十一式徹甲弾

2015-05-27 20:30:46
劉度 @arther456

(これからSSを投下します。TLに長文が投下されますので、気になる方はリムーブ・ミュートなどお気軽にどうぞ。投下中はTLを余り見ないので、感想・実況などを #ryudo_ss に書いて頂けると、後でチェックして小躍りします。では、宜しければ暫くの間お付き合い下さいませ)

2015-05-27 20:32:15
劉度 @arther456

『合衆国の軌道清掃衛星破損の原因は、デブリとの衝突が原因とされ……』『合衆国政府は調査委員会を設置しました。また……』『事故に巻き込まれた宇宙飛行士の安否は分かっておらず……』テレビのニュースがずっと騒がしい。どのチャンネルを切り替えても、宇宙と機械しか映していない。 1

2015-05-27 20:33:53
劉度 @arther456

何度かリモコンを動かしていた彼女は、諦めて電源を落とすと、テーブルの上に置いてあった革の手帳に手を伸ばした。そこには毎日几帳面に綴られた日記が記されている。空軍に入隊したこと、領空侵犯すら厭わない極秘作戦に参加したこと、その後、僅かな空白。 2

2015-05-27 20:37:11
劉度 @arther456

日記をめくる彼女だけは、その時何があったかを知っている。空白の後、彼女に薬指の指輪が送られる。子供はできなかったが、幸せな日々だった。そして、最後のページ。『今日初めて、私は真に宇宙で生きていると実感した。これから私は宇宙で生き、宇宙で働くのだ』 3

2015-05-27 20:39:08
劉度 @arther456

【ア・セイレーン・シング・フォア・ハー・ウイングス】#2

2015-05-27 20:39:35
劉度 @arther456

アンズ環礁。数十分前までの熊野たちの優位は、たった一曲の歌によって覆されていた。泊地水鬼の歌う呪歌は、数十海里離れた相手には、人間を海に飛び込ませる程度の力しかない。だが、術者に近づけば近づくほど、呪歌の効果は強くなる。ましてや、声が直接聞こえる距離ともなれば。 4

2015-05-27 20:42:25
劉度 @arther456

「ぐああっ!?」繰り出された陸奥の腕は、泊地水鬼に届く寸前で逆方向にへし折れた。同時に、ケッコンの力で付与されていた魔力の炎が霧散する。「陸奥さん!」鈴谷が砲撃、水柱に紛れて陸奥は後退する。砲弾は泊地水鬼に当たる前に急激に失速し、命中することは敵わない。 5

2015-05-27 20:45:43
劉度 @arther456

「付近の重力が異常上昇しています……何なんですかこれは!」艦載機を操る大鯨が狼狽える。「魔法よ!」「これも魔法!?物理法則にまで干渉するなんて、滅茶苦茶です!」大鯨の操る支援機の軌道は頼りない。呪歌のせいで重力が変わっているからだ。そこに泊地水鬼の艦載機が襲いかかる。 6

2015-05-27 20:49:13
劉度 @arther456

「対空砲撃、いくよ!」時雨が高角砲を発射、いくつかの艦載機が撃ち落とされる。だが、呪歌のせいでほとんどの弾が届かない。それ以上に数が多すぎる。大鯨が抵抗しているが、制空権は確実に相手に奪われつつあった。「どうするの提督!?このままじゃ撤退もできなくなるわよ!」 7

2015-05-27 20:52:25
劉度 @arther456

『隼鷹がそっちに行った、制空権は、何とかする……!』マイク越しに、辛そうな提督の声。『むっちゃん、腕、大丈夫?』「……ごめん、提督」ケッコンにより、陸奥と提督の五感は繋がっている。今頃提督の頬にも、陸奥と同じ脂汗が浮かんでいるだろう。 8

2015-05-27 20:55:37
劉度 @arther456

「制空権のお話ではありませんわ!何とかするのは、あの忌々しい歌の方!」熊野が空母水鬼に砲を向けながら叫ぶ。空母水鬼は未だに空を見上げたまま、彼女たちには目もくれない。彼女が歌うだけで、熊野たちは圧倒されていた。「あの口を塞がないと、撤退も出来ませんわよ!?」 9

2015-05-27 20:58:56
劉度 @arther456

「……熊野さん、陸奥さんを、お願いします」か細い声が、そう言って前に出た。熊野の前に立って泊地水鬼を睨みつけるのは、高波であった。「高波、あなた一体何を」「この歌、重い船はもっと重くなります。だから陸奥さんじゃ駄目かもです。でも高波みたいに軽い艦なら、近づけるかもです」 10

2015-05-27 21:02:11
劉度 @arther456

「何をするんですの!?」「高波、突撃します!皆さん、今のうちに逃げて下さい!」叫んで、少女は飛び出した。『マズい……熊野!高波を止めてくれ!』「承りましてよ!……でも、一体どうなってるんですの!?」熊野でも一目で分かるほど、高波の様子は尋常ではない。 11

2015-05-27 21:05:31
劉度 @arther456

『あの子に憑いてる艦霊にはちょっと嫌な癖があってね……ルンガ沖の記憶が強く出てる』「ルンガ沖?その戦闘は確か、日本軍は損失一隻で済んだはずですが……」『それだよ』通信の向こうから、溜息がついた。『自分の損失だけで大戦果を収めたこと、それを誇りにしてる艦霊だ』 12

2015-05-27 21:08:45
劉度 @arther456

熊野は息を呑む。先を進む高波は航空爆撃の中を猛進している。『よりにもよって高波の一番嫌なところが出た分霊だ。あの子には西方海域でゆっくり艤装に慣れて、艦霊を使いこなしてほしかったんだけど……』「使いこなせないと、どうなるんですの?」 13

2015-05-27 21:12:02
劉度 @arther456

『自分が犠牲になれば、全部解決すると思うようになる』もう一度、熊野は先を進む高波を見た。降り注ぐ爆弾を避けようともしない。刺し違えて空母水鬼の口に魚雷をねじ込む、そのことしか考えていない動きだった。熊野の心の奥底が、不機嫌そうにざわめいた。 14

2015-05-27 21:15:21
劉度 @arther456

機関を更に強く回す。だが、呪歌のせいで高波の後を追うのが精一杯だ。「高波!」先を行く少女は振り返らない。その頭上に、急降下する爆撃機。とっさに機銃を浴びせる。被弾し、機体はバランスを崩す。だが、爆弾は。落下したケシ粒が、高波の体を吹き飛ばした。 15

2015-05-27 21:18:37
劉度 @arther456

「高波ィィィッ!」熊野は手を伸ばし、高波を掴んだ。小さな体を抱え上げ、追撃の爆撃を避ける。「しっかりしなさい!何をしているんですの!?」「すみません!突撃再開します!」高波は熊野の手を離れ、再び前進しようとする。「ちょ、ちょっと待ちなさい!」その袖を熊野は掴む。 16

2015-05-27 21:21:51
劉度 @arther456

「駆逐艦一隻で何ができるの!?頭を冷やしなさい!」「できます!先行して魚雷を撃ち込んで、黙らせることぐらいはできます!その間に、撤退を!」「あなたが帰れないじゃない!」「皆さんの代わりに沈むことが、私の役目です!」高波は迷うこと無く言い切った。 17

2015-05-27 21:25:03
劉度 @arther456

「皆さんを助けるためなら、高波、喜んで沈みます!無駄死にならないんですから!」そう語る高波の顔は、笑いすら浮かべていた。「なぶり殺しにされるより、役に立って死ぬ方がいいじゃないですか!熊野さんなら分かるでしょう!?一ヶ月も死にきれなかった、熊野さんなら!」 18

2015-05-27 21:28:25
劉度 @arther456

パシン。乾いた音が、高波の頬を打った。「高波……あなた、何か勘違いしているのではなくって?」「え……?」張られた頬を押さえる高波は、何が起きたのか分かっていない。「この熊野が、一ヶ月もただ黙っていたぶられていたとお思いなのかしら?」 19

2015-05-27 21:31:39
劉度 @arther456

熊野は、いや、熊野の艤装を身に纏った少女、火熊麗は、心の奥底に宿った艦霊がざわめいているのを、はっきりと感じ取っていた。重巡熊野の最後の一ヶ月は、確かに悲惨なものであった。レイテ沖海戦の敗走の最中、執拗に潜水艦と攻撃機に追いかけられ続けた。 20

2015-05-27 21:38:26
劉度 @arther456

だが、熊野はそれをなぶり殺しだとは思わない。「敵を見つけ、砲を撃ち、魚雷を放つ。それも結構。間違いなく戦いですわ。ですが、それだけが戦いとは、勘違いも甚だしくってよ!」無抵抗だったわけではない。惨めだったわけでもない。熊野はあの中でも戦い続けていた。 21

2015-05-27 21:41:43