鉄、ヘプシジン、トランスフェリンレセプター

ヒトの鉄代謝の概略と、新たに注目される鉄関連分子の解説。自分用の備忘録もかねて。 まだ作成中のためsTFR関連の記述がありません。後ほど更新予定です。
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枇杷 @loquat_priest

鉄は生体に不可欠な元素。鉄というと赤血球のヘモグロビンばかり目がいきがちだが、鉄を含む生体分子は他にも重要なものがたくさんある。その多くは、鉄を錯体として結合するヘムを持つヘムタンパク質。 図:ヘムの分子構造(wikipediaより) pic.twitter.com/yMh3iFxPqu

2015-03-01 19:23:06
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枇杷 @loquat_priest

中でもシトクロム(cytochrome)は、電子伝達系を構成し、細菌から植物、動物に至るまで多くの生物に共通する重要なタンパク質。鉄は生命活動の維持そのものにとても重要。 図:drgelo.club/?tag=atpより pic.twitter.com/Eq3rL0bhIK

2015-03-01 19:31:37
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枇杷 @loquat_priest

細胞内呼吸に鉄を含むシトクロムを使い、細胞外呼吸にも閉鎖循環系に鉄を含むヘモグロビンを酸素運搬体として使う脊椎動物では、さらに多くの鉄を生体全体で必要とするようになった。 図はMT誌より(ishiyaku.co.jp/magazines/mt/M…pic.twitter.com/qb2MMbP3ab

2015-03-01 21:55:15
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枇杷 @loquat_priest

生体内の鉄の総量に比べて、経口摂取で得られる鉄の量が限られているため、約120日の寿命で脾臓で壊された赤血球中の鉄は、ほぼ全量がトランスフェリン鉄として再利用される。

2015-03-01 22:09:11
枇杷 @loquat_priest

鉄の経口摂取が限られていることから、ある程度の量の鉄が肝臓を中心にフェリチンの形で蓄えられている。裸の鉄イオンは酸素と反応して活性酸素種(ROS)を産生し、細胞や生体にとって有害なので、生体内ではほぼ全ての鉄は何らかのタンパク質と結合して存在する。

2015-03-01 22:15:35
枇杷 @loquat_priest

ヒト生体から失われる鉄は、汗などの体液や、皮膚・粘膜の脱落によって約1mg/日で、これ以外に鉄を積極的に体外に排出する仕組みはない。貯蔵鉄があることからも、ヒトにとって鉄は足りなくなりこそすれ余って困るものではなく、後述する消化管からの吸収の調節で十分間に合っていたと考えられる。

2015-03-01 22:22:21
枇杷 @loquat_priest

食事中の鉄は、主に十二指腸上皮で吸収される。ヘム鉄と無機鉄(非ヘム鉄)で吸収の経路が異なり、ヘム鉄の方が吸収率が高い。ほうれん草より赤身の肉を食べましょう。 図:tatsumi-sunrise.co.jp/oyakudachi/83/ pic.twitter.com/Q7asuChy6q

2015-03-01 23:02:18
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枇杷 @loquat_priest

ヘム鉄がヘムキャリアタンパク質(HCP1)で直接細胞内に取り込まれるのに対し、無機鉄は二価金属トランスポータ(DMT1)で吸収される前に膜上で還元される必要がある。 図:Am J Gastroenterol 106, 1872-9 pic.twitter.com/yBUtDqHc7o

2015-03-01 23:10:27
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枇杷 @loquat_priest

細胞内にこうして入った鉄は、血中に出て担体であるトランスフェリン(Tf)と結合し、Tf鉄として血中を循環する。これが血清鉄。 細胞内から鉄はどうやって血管(細胞外)に輸送されるか? ここでやっとこさ登場してくるのがフェロポーチンとヘプシジン。

2015-03-01 23:19:42
枇杷 @loquat_priest

フェロポーチン(Fpn)はヒト生体で唯一知られている鉄輸送膜タンパクで、十二指腸上皮細胞で吸収された、あるいはマクロファージや肝細胞に蓄えられた鉄を効率よく血管内に放出する。 図:Blood 112, 219-30 pic.twitter.com/szplunMXoi

2015-03-01 23:42:18
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枇杷 @loquat_priest

ヘプシジンは21世紀初頭に4つのグループがほぼ同時に別個に同定したタンパク質。肝細胞で合成され血中に分泌されたヘプシジンは、Fpnと結合して細胞内に取り込まれ、ライソゾームで分解されることでFpnの膜密度を低下させ、結果的に細胞から血中への鉄の放出を抑制する。

2015-03-01 23:47:01
枇杷 @loquat_priest

要するに、肝細胞からヘプシジンが分泌されると、腸管からの鉄の吸収が低下し、貯蔵鉄の動員も制限され、血清鉄が下がる。ヘプシジンが減るとその逆。 ヘプシジンは血清鉄を適正なレベルに保つのに中心的な役割を果たしている。このような因子の存在は以前から想定されてたが、見つかったのは今世紀。

2015-03-01 23:53:27
枇杷 @loquat_priest

肝細胞のヘプシジン産生はいろいろな調節を受ける。貯蔵鉄量、循環鉄量の増加は肝細胞に感知され、ヘプシジン産生を増加させる。低酸素や赤血球造血の亢進は逆にヘプシジンを低下させる。面白いのは、炎症が起きるとIL-6などの増加に応じてヘプシジン産生が増強すること。

2015-03-02 00:04:58
枇杷 @loquat_priest

炎症の存在下でヘプシジンが増えると血清鉄は低下し、この状態が長期間続くと、生体全体では鉄は不足していないのに造血系への鉄供給が不足して、鉄欠乏性貧血様の小球性貧血をきたす。これがいわゆる「慢性疾患に伴う貧血」(ACD)の本態と考えられている。

2015-03-02 00:08:57
枇杷 @loquat_priest

鉄キレート剤として知られるdeferoxamine(デスフェラール)は、放線菌由来のシデロフォアで、除鉄剤として用いられる反面、ムコールやエルシニアなどこれを鉄源として利用できる微生物の感染症リスクとなる。 pic.twitter.com/8jqawWN3HS

2015-03-02 00:23:44
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枇杷 @loquat_priest

最初にツイートしたように、鉄は広く生命にとって不可欠で、それは微生物にも当てはまる。各種の微生物がシデロフォアと呼ばれる鉄結合タンパク質を産生し、シデロフォアはその強い結合力でヘム、トランスフェリン、フェリチンなどから鉄を奪うことが知られている。

2015-03-02 00:16:56
枇杷 @loquat_priest

ヒトにとって炎症を起こす第一の原因は感染症で、その原因となる微生物の増殖を抑えるため、血清鉄を下げることは合目的的で、生存に有利だったと考えられる。ヘプシジンによるACDが問題となるのは、感染症がある程度コントロールされた近現代だからこそとも言える。

2015-03-02 00:27:05