青葉島鎮守府 第十二話

鎮守府の朝と、加古達の話 11話(http://togetter.com/li/820066
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跡地 @kkkkkkmnb

【青葉島鎮守府 第12話】

2015-06-11 21:35:09
跡地 @kkkkkkmnb

客車の床で寝ていたはずの川内が目を覚ますと、そこは柔らかいベッドの上だった。もう既に日はどっぷりと暮れており、隣のベッドでは、綾波と叢雲が静かに寝息を立てていた。それを見た川内は、安心したかのように笑うと、大きく伸びをしてから、ふらふらと何処かへ行ってしまった。

2015-06-11 21:39:43
跡地 @kkkkkkmnb

そのころ、水城提督は執務室で資料作りに勤しんでいた。今回の出撃任務はその任務報酬で逼迫した資材状況を少しでも改善するために受けたようなものなので、自然と資料作りにも熱が入り、気が付けばこんな時間になっていた。しかし戦闘報告書や通信記録などを整理している提督の顔はどこか曇っていた。

2015-06-11 21:49:42
跡地 @kkkkkkmnb

矢矧は、自室で艤装の手入れをしていた。特にこれといった趣味もない彼女が最近覚えた時間の使い方の一つで、非番の日はもっぱらこれに時間を使う。しかし彼女の顔も浮かなかった。作業の手を止めてはしきりに溜息をついている。傍らには昨日提督から渡された、作戦計画書が置かれてあった。

2015-06-11 21:55:30
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次の日の天気は、雲一つない快晴だった。しかし、波が高いので海は決して穏やかではなかった。窓辺に立てば波が打ち付ける音がはっきりと聞こえてくる。起床の鐘は定刻通りに鳴り響き、艦娘達は着替えを済ますと、ぞろぞろと食堂へと降りて行った。

2015-06-11 22:01:23
跡地 @kkkkkkmnb

水上蒸気機関車は昨日の戦闘において、古鷹によって機関全開で走行し凄まじい馬力を発揮した。しかしどうやらエンジンは燃える一歩手前だったらしく、その排熱作業のためだけに多くの技術士と妖精達が徹夜で作業に追われたそうだ。

2015-06-11 22:09:53
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なので食堂では艦娘達よりも一足早く、作業明けで腕や顔が真っ赤な技術士や作業員たちが、朝からそうめんをつついていた。大量の氷と一緒に桶の中に入ったそうめんを箸ですくい、もう薄くなっためんつゆに浸して豪快にすする。そして声にならない歓声を上げる彼らは、作業を終えた充実感に満ちていた。

2015-06-11 22:14:22
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追加の桶を給仕に頼まれて摩耶がもっていくと、技術士たちの歓声が巻き起こった。まだ喰うのかよと摩耶が呆れた声を上げるのもお構いなしに、今度はめんつゆが薄いと騒いでいた。

2015-06-11 22:18:03
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朝食を終えた初風は給仕係りから、金平糖の入った巾着袋を受け取った。すると、初風の足になにか柔らかいものが思いっきりぶつかってきた。それを皮切りにして、次々と妖精たちがどこからともなく現れて、初風の足元にわちゃわちゃと集まってきた。金平糖が彼女たちの朝ごはんなのだ。

2015-06-11 22:23:14
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初風の足元にわちゃわちゃと集まって朝ごはんをせがむ妖精たちは、押し合いへし合いの大騒ぎだ。初風がせめて邪魔にならない場所でと、妖精を踏まないように爪先立ちでおっかなびっくり歩き出すとそれに合わせて妖精たちも、とてとてとついて行った、この朝の風物詩は駆逐艦娘達が交代制で行っている。

2015-06-11 22:29:01
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それから暫くして、叢雲が重い体を引きずりながら食堂に姿を見せた。あの耳の様な艤装がいつもより後ろの位置で浮いている。起床時刻に合わせて起きたのか起こされたのか、とりあえず食堂まできたは良いがまだ頭は夢の中のようだ。その後ろからついてきている綾波の顔もいつも以上にとろんとしている。

2015-06-11 22:32:39
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摩耶が冷たい水を2人に飲ませたのでなんとか目だけは開いたようだが、叢雲が朝ごはんを食べている間にもどんどんと耳の艤装が下におちるので、後ろを誰かが通るたびに手で押し上げてもらっていた。昨日の疲れが残っているらしく、今日一日ゆっくりと休むのだろう。

2015-06-11 22:36:41
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朝食を終えた谷風は食堂を出てすぐの掲示板に目を通した。すると、掲示物を留めている画鋲のうち下半分、丁度背の小さな艦娘が届きそうな範囲の画鋲だけが思いっきり差し込まれて、道具無しでは取れないようになっていた。谷風も手ごろな画鋲を思いっきり差し込んでみると案外楽しくて笑みがこぼれた

2015-06-11 22:39:49
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そのまま軽く掲示物に目を通してから、谷風は加古を探すことにした。加古はこの鎮守府に来て日が浅い谷風の教育係を務めているのだが、もう大切なことは粗方教わってしまった現在、世話好きな谷風はずぼらな加古の世話係に落ち着いてしまっており、そのことを知った卯月に睨まれることに苦慮していた。

2015-06-11 22:48:46
跡地 @kkkkkkmnb

たしかに加古はなかなかのずぼらで呑兵衛だが、調子に乗ってする話はおもしろくて、面倒見も決して悪いわけではないので、谷風は加古のことが気に入っていた。今日は演習予定なんかも入っていないので、午前中は加古のところでゆっくりしようかと思案していた。

2015-06-11 22:51:06
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谷風はまず、加古の部屋に行ってみた。食堂では姿を見かけなかったので、まだ部屋にいるのかと思ってノックをしてみたが返事はなかった。さすがに起床時間を守ってはいるだろうが、果たしてどこにいるのやら……加古が寄り付きそうな場所を探すことにした。そこに卯月がいないことを祈りながら。

2015-06-11 22:56:20
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休憩所や、三階のテラス、この時間は日当たりのいい要塞上部の10番機銃や8番高角砲にまで足を運んでみたが、加古はいなかった。もしやと思い、秘書官娘の控室も覗いてみたが、もぬけの殻だった。どうやらめぼしい所にはいないようだ。

2015-06-11 23:00:10
跡地 @kkkkkkmnb

谷風が加古の名前を呼びながらふらふらと歩き回るのを、そっと遠目から見つめる艦影がひとつ。万策尽きた谷風が人気の減った食堂の机の下を覗いていると、どうやら痺れを切らしたらしく、谷風の服の襟を掴んでぐいっと持ち上げた。谷風は彼女の顔をみて、思わず叫んでしまった。

2015-06-11 23:09:25
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「げぇ、死神だ!!」

2015-06-11 23:10:27
跡地 @kkkkkkmnb

谷風がとっさに叫んでしまったこのあだ名は、彼女が最も呼ばれるのを嫌う呼ばれ方の一つで、谷風はその報復として思いっきり地面に叩きつけられた。グエッと、谷風が奇妙なうめき声を上げる。 「随分とご挨拶ですね駆逐艦「谷風」。ところで青葉のどこが死神なんですかあ?」

2015-06-11 23:13:32
跡地 @kkkkkkmnb

谷風があははと笑いながら後ろに下がる。谷風の顔を覗きこむ青葉の顔は、露骨に不機嫌だった。

2015-06-11 23:15:12
跡地 @kkkkkkmnb

青葉が死神とささやかれる理由は、彼女が歴戦艦であることと関係がある。その艦歴はとても古く、青葉島はもちろん、トラック島に泊地がまだ最前線基地であった頃にまで遡る。彼女はその後の大小さまざまな制海権争いを初めとした諸作戦に参加し生還を果たしている。

2015-06-11 23:22:52
跡地 @kkkkkkmnb

その中には、負け戦の被害を最小限に食い止めるための出撃や、誘導作戦の囮役等も含まれ、青葉一隻だけしか帰ってこれなかったことも一度や二度では済まない。同期も、昔の自分を知る仲間たちが次々と沈んでも、青葉は沈まなかった。

2015-06-11 23:29:23
跡地 @kkkkkkmnb

そんな青葉に対して、周りの反応は冷たかった。彼女の功績を妬むものはありもしない噂を流し、自分の親友や姉妹が沈んだ海戦で生き延びた彼女に対して、私の仲間を見殺しにしたからお前は生き延びたんだと、やり場のない怒りを彼女に向けた。そして次第に死神青葉と呼ばれるようになった。

2015-06-11 23:33:39
跡地 @kkkkkkmnb

死神の名前は独り歩きを繰り返し、真相をしる古参の艦娘達は次々と沈むか転属して青葉の前から消えてしまい、根も葉もない噂は泊地中に広まった。そのことに嫌気がさした青葉がこの青葉島に鎮守府がつくられると聞いて、その第一艦隊に志願し輸送用列車に乗り込んだことさえも随分と前の話だ。

2015-06-11 23:39:00