【はやぶさ物語2010】寮美千子

2010年の小惑星探査機「はやぶさ」の地球への帰還の物語。2010年6月13日22時51分、60億kmの旅を終え、地球に大気圏再突入。
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大川拓也 @star_hacks

ひと筋の火球が、人生を変えることもある。 「はやぶさ」大気圏再突入 国立天文台観測隊 hayabusa.little-hp.net

2015-06-13 08:31:37
寮美千子 @ryomichico

【はやぶさ物語】 大地を掘り起こして得たアルミニウム。 石油から作ったポリイミド樹脂。 空気から集められたキセノンガス。 ぼくの体のすべては、地球の物質。 地球が、ぼくの母だ。 ぼくの父。それは人間の「知りたい心」「求める心」。

2015-06-13 11:34:11
寮美千子 @ryomichico

宇宙の始まりを知りたい、太陽系の始まりを知りたい、 どうしてわたしたちが生まれ、いまここにいるのか、 その謎を知りたい、という、とてつもなく強い願い。 それが、ぼくを生みだした。>【はやぶさ物語】@ryomichico

2015-06-13 11:34:41
寮美千子 @ryomichico

ぼくの使命は、遠い遠い空の彼方 30億キロ彼方の「小惑星」に、星のカケラを取りに行くこと。 そこには「太陽系の化石」があるんだよ。 それを地球に持ち帰るのが、ぼくの「使命」。 そのために、暗い宇宙へとはばたいた。>【はやぶさ物語】@ryomichico

2015-06-13 11:35:29
寮美千子 @ryomichico

ぼくは胸に88万人もの「夢」を抱いている。 ミッションを応援してくれた人たちの名前が刻まれているから。 それが、どれだけぼくを勇気づけてくれたことか! さみしくなんかない。 みんなの夢といっしょに旅するんだもの。>【はやぶさ物語】@ryomichico

2015-06-13 11:37:02
寮美千子 @ryomichico

小惑星に追いつき、 時速10万キロで、ともに走らなければならない。 東京から弾を打ち、ブラジルで猛スピードで 飛んでいる5ミリの虫のすぐ脇を、 いっしょに飛ぶようなもの。 気が遠くなるようなミッション。 ほんとうにぼくに、できるだろうか。>【はやぶさ物語】@ryomichico

2015-06-13 11:39:20
寮美千子 @ryomichico

地球がどんどん遠のいていく。 発射から18日目。 イオンエンジン点火。 宇宙の闇に紫色の光を放ちながら、 イオンエンジンは、ぼくを静かに加速していった。>【はやぶさ物語】 @ryomichico

2015-06-13 11:40:01
寮美千子 @ryomichico

地球の管制室から、うれしいニュースが届いた。 目的地「小惑星1998SF36」に名前がついた。 「イトカワ」日本のロケットの父・糸川博士の名前だ。 ああ、小惑星イトカワは、どんな星だろう。 なにがぼくを待っているのだろう。 >【はやぶさ物語】@ryomichico

2015-06-13 11:41:24
寮美千子 @ryomichico

1955年に、糸川博士が作ったオモチャのようなペンシルロケット。 それが日本のロケットのはじまりだった。 そこから半世紀を経て、惑星間航行をするまでになった。 ぼくはいま、その最先端にいて、 一瞬一瞬、歴史を塗りかえているところなんだ! >【はやぶさ物語】@ryomichico

2015-06-13 11:42:12
寮美千子 @ryomichico

出発から5ヶ月が過ぎた2003年10月。 地球では、不思議な現象が起きていた。 北極や南極、高緯度地方にしか見えないオーロラが、 北海道や東北の空に輝いたのだ。 不吉な予感がした。 太陽が活発な活動をはじめたのだ。 >【はやぶさ物語】@ryomichico

2015-06-13 11:43:51
寮美千子 @ryomichico

10月31日、観測史上最大の太陽フレア爆発が起こった! 太陽風は、容赦なくぼくの翼を打ちつけた。 痛い、痛いよ。 ぼくの翼は、激しく傷ついてしまった。 それでも、ぼくは飛んだ。 傷ついた翼のまま、ひたすらイトカワを目指して。 >【はやぶさ物語】@ryomichico

2015-06-13 11:46:18
寮美千子 @ryomichico

「地球スイングバイ」 地球がみるみる近づいてくる。 もう目の中いっぱいだ。 なつかしい地球、美しい惑星。 でもぼくは、また離れなければならない。 きっと戻ってくるから。必ず戻ってくるから。 さよなら、さよなら、ふるさとの星。 >【はやぶさ物語】 @ryomichico

2015-06-13 11:48:34
寮美千子 @ryomichico

光る点でしかなかったイトカワの形が見えてきた! ああ、なんておもしろい形!  まるで星の海にうかぶラッコだ。 あいさつするをように、イトカワはくるりと回転した。 >【はやぶさ物語】 @ryomichico

2015-06-13 11:49:24
寮美千子 @ryomichico

わずかにぐらつきながらも、 イトカワの地表が近づいてくる。 わあ、まぶしい。やけにまぶしい。 いや、暗い。あんまり暗い。 どこだ、どこに向かえばいい? どうすればいいんだ?  わからない、わからないよ! >【はやぶさ物語】@ryomichico

2015-06-13 11:50:58
寮美千子 @ryomichico

ミネルバは、掌にのるくらいの超小型探査ロボット。 コメツキムシのように飛び跳ねて、 イトカワの地表を撮影して送ってくれるはずだ。 「がんばれよ、ミネルバ。さあ、行くんだ!」 その背を押すように、 ぼくはミネルバを小惑星に向かって放った。 >【はやぶさ物語】@ryomichico

2015-06-13 11:52:32
寮美千子 @ryomichico

けれど、タイミングが合わなかった。 「あ、ミネルバ、そっちじゃない!」 叫んだが間に合わなかった。 ミネルバは、別れの言葉のように、 ぼくに向かってシャッターを切った。 そこには、ぼくの翼が映っていた。 ぼくに「がんばれ」というように。 >【はやぶさ物語】@ryomichico

2015-06-13 11:53:34
寮美千子 @ryomichico

ごめんよミネルバ、ぼくの小さな弟。 おまえは確かに証明した。 掌に載るほどの小さなおまえが、 過酷な宇宙空間でちゃんと作動することを。 ごめんよミネルバ、 おまえを着地させてやれなくて。 >【はやぶさ物語】@ryomichico

2015-06-13 11:55:05
寮美千子 @ryomichico

眼下には「ミューゼスの海」 88万人の名を刻印したターゲットマーカーが光っている。 「大丈夫だよ、さあ、おいで!」と招くように。 地球から指令が来た。行くぞ!  こんどこそ、きっと、こんどこそ! >【はやぶさ物語】@ryomichico

2015-06-13 11:56:17
寮美千子 @ryomichico

そう、すべてはうまくいくはずだった。 それなのに……なぜだろう。 火薬は爆発せず、弾は発射されなかった。 最後の最後に、ぼくの安全装置が働いたらしい。 失敗した。ぼくは最大のミッションに失敗したんだ……。 >【はやぶさ物語】 @ryomichico

2015-06-13 11:57:20
寮美千子 @ryomichico

「はやぶさ。がっかりするな。 そこは微少重力の星だ。 少しの力で、塵は高くまで舞いあがる。 あきらめるな。 もしも一粒でも星のかけらがあれば、 それを持ち帰るのがおまえの使命だ。 地球に戻ってこい!」 「はいっ!」 >【はやぶさ物語】 @ryomichico

2015-06-13 11:59:58
寮美千子 @ryomichico

地球へ帰ると決意したその時、 ぼくの体がまたぐらつきだした。 アンテナも地球方向からズレはじめた。 化学燃料のヒドラジンが漏れていたんだ。 このままでは、地球との連絡も取れなくなる。 ぼくは、宇宙で迷子になってしまう。 どうしよう! >【はやぶさ物語】@ryomichico

2015-06-13 12:01:56
寮美千子 @ryomichico

暗い宇宙を漂っていた。 とても寒かった。 ミネルバが宇宙の闇に吸いこまれていったように、 ぼくもこのまま、この暗闇を 永遠にさまようことになるのだろうか…。 >【はやぶさ物語】@ryomichico

2015-06-13 12:02:51
寮美千子 @ryomichico

宇宙をあてもなく漂って46日目。 どこからか、ふいに声がした。 「はやぶさ、応答せよ。はやぶさ」 夢じゃないかと思った。 けれど、それは聞こえてきた。 「はやぶさ、応答せよ。応答せよ」 まさか、まさか地球から! >【はやぶさ物語】@ryomichico

2015-06-13 12:04:38
寮美千子 @ryomichico

こんな広い宇宙で、 周波数もわからなくなっているのに、 辛抱強く、ずっと、ぼくのことを 探し続けていてくれていたなんて! >【はやぶさ物語】 @ryomichico

2015-06-13 12:05:11
寮美千子 @ryomichico

ぼくは、微弱な電波で、やっとの思いで応えた。 「ここにいます。ぼくはここにいます」 そのほんのかすかな声を、 管制室はキャッチしてくれた。 「はやぶさ! 生きていたんだ!」 「すいません。壊れてて、もう帰れません」 >【はやぶさ物語】 @ryomichico

2015-06-13 12:09:02