柑橘提督とトップランカー（前編）

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その日、柑橘提督はお茶菓子に静岡名産安倍川もちを食べていた。 軽巡由良が遠征のついでにお土産に買ってきたものだ。由良は気がきくのだ。 お茶はやはり土産の藪北茶である。#柑橘鎮守府

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安倍川もちは美味いのだが、一つだけ気に入らないことがある。 突き刺す楊枝の袋がきな粉もちと白いケースの間に挟まっていて見つけづらい。 最初目にした者は必ずどうやって餡餅やきな粉もちを手を汚さずに食すか戸惑うのだ。#柑橘鎮守府

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信玄もちのように楊枝を上に置けばいいのにな＿＿そんなことを考えながら提督は信玄もちの細かいきな粉をいつも鼻息で飛ばして大気汚染することも思い出した。とにかく美味いおやつに反比例して憂鬱な記憶も蘇った。#柑橘鎮守府

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あのきな粉をまったくこぼさず、容器内にとどめたまま蜜でからめてしれっとした顔で食べられるのは実は粗忽モノに見られがちな愛宕しかいない。その秘書艦愛宕は目の前で安倍川もちを開封すると迷うことなく楊枝を見つけ出して食べ始めた。#柑橘鎮守府

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提督、汚しちゃだめですよ～。」余計なお世話である。#柑橘鎮守府

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「今日は忙しいなあ。これから首都圏方面から第一艦隊を迎えねばならないから。」 首都圏方面＝横須賀鎮守府所属のトップランカーがこの軍港に寄港する。ここを拠点に南方へのさらなる出撃を実施するためである。#柑橘鎮守府

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トップランカーというくらいだから、すでに練度、兵装ともにこの半農半艦な鎮守府など足許にも及ばない。軍令部としては主力出撃のために、近海海域の対潜任務や遊弋敵機動部隊に対する露払いをせよくらいの気分なのだろう。#柑橘鎮守府

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実際、最近対潜任務で成績が思わしくないのが柑橘提督の悩みの種だ。由良も対潜におけるエースで旗艦を任せられるのだがここのところ立て続けに中破した。修復なって骨休みの意味で遠征に派遣したお土産が安倍川もちとお茶だ。#柑橘鎮守府

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今は夢中になっているイベコトラクターのエンジンチューンから無理やり引っぺがした夕張を対潜艦隊の旗艦に据えている。五十鈴も頼りになるが、あいにく田植えで飛び回っていて忙しい。#柑橘鎮守府

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「でも楽しみですねえ。演習でお手合わせも出来るでしょうし。武蔵さんが体が鈍るとこぼしてましたし。」武蔵は『漁労長』のあだ名がつく。沿岸用FRPボートで加賀と赤城を連れて沖釣りによく出る。舵輪を握るのは駆逐艦娘清霜だ。#柑橘鎮守府

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清霜は大戦艦が自分の操る舟の中にお客さんしていることに大いなる満足を覚えているが、隠し持った三式機雷でときどき驚かせて叱られる。#柑橘鎮守府

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首都圏トップランカーの艦隊は定刻どおりにやってきた。戦艦２　空母1重巡1駆逐艦２。いずれもクラスLV100を超える精鋭である。旗艦であるローマが生真面目に提督に敬礼をして挨拶をした。#柑橘鎮守府

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「今回は寄港とお相手をお許し頂き感謝します。柑橘鎮守府は地域密着型の鎮守府と聞き、少しでも汲み取れることがあればありがたいです。」メガネの外国人だが、礼儀正しいし表裏がない素直な子だ。柑橘提督は好感を持った。#柑橘鎮守府

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柑橘側は秘書艦の愛宕が応対した。「こちらこそ。貴艦隊から少しでも得るところがあればと心待ちにしておりましてよ。さ、どうぞ。」歓迎会場にとりあえず案内していく。#柑橘鎮守府

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司令官は長身の爽やかを絵に描いたような男だった。綺麗な歯並びをしている。「いや、船魂出身の船娘とお聴きしていましたが、なんともかわいらしい。」にかっと白い歯で笑った。提督はちと不覚にもどぎまぎしたが、無難な挨拶でかわした。#柑橘鎮守府

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レセプションが始まった。ローマとドイツ戦艦娘はオリーブの塩漬けとオレンジのシャーベットが気に入ったようだ。つくった間宮にさかんにつくり方を聞いている。駆逐艦二人はしかし固まってなにやら額をつき合わせて飲んでいる。天龍が近づいたが暫くして肩をすくめて去った。#柑橘鎮守府

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「柑橘さんはこの戦争の到達点はどこだとお考えですかな？」いきなり振られた。気管にレモネードが入りそうになり噎せた。「そ、そうですな敵深海どもが我々に対する敵対行動をやめたときですか。」「う～ん、甘いですなあ。」「はい？」#柑橘鎮守府

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こういうタイプの人間は前にも会った事がある。提督の船魂が冷凍運搬船にこもっていた頃、荷主として顔をときどき出した商社の人間に多かった。乗船に当たっては入管、税関の許可を代理店で一括して取るのだが、自己責任ですの一言で断ってきた奴もいた。自意識は高い。#柑橘鎮守府

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「閣下はどの時点で私たちの全面勝利とみなせますんで？」「簡単ですよ。殲滅です。」#柑橘鎮守府

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深海棲艦は人類やよき船魂すべての敵です。これを一隻残らず消し去らない限り戦いは終わらないのです。逆に言えば」ぐいっとハイボールを飲み干した。「私たちの仕事は一隻でも多く沈めることですよ。そのためには手段は問いませんよ。」#柑橘鎮守府

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鳳翔と一緒にめまぐるしく会場をアテンドして歩く早霜が目を見張った。「どうしたの早霜ちゃん。」秋雲が怪訝な顔をした。「…今日はボウモアでハイボール作ってたんだけど。一気飲みもったいない＿＿」#柑橘鎮守府

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柑橘提督は少し声を落とした。「ほう、手段。」「手段のためには＿＿まあ柑橘さんもお気づきでしょうが、運営軍令部のトロい作戦指導ではまあ、追いつかないことも多いでしょうし。つまり本当の敵はこちら側＿＿おっと、過ぎましたな。」#柑橘鎮守府

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翌日、演習が開始された。ホスト側は編成をいくつか変えて挑戦できる。 1.重、重、戦、空、駆、駆 2.軽、雷、駆、駆、駆、駆 3.航戦、航巡、空、軽母、潜、潜 この三つを考えたが、いずれもボロ負けした。#柑橘鎮守府

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「ああん、なんなの。これ鎧袖一触じゃないのお。」演習と言えども消耗する。入渠で一汗流した1の旗艦愛宕と3.の山城を提督は部屋に呼んだ。こんなのないわ不幸だわ不幸だわとブー垂れる山城を後回しに愛宕に聞いた。#柑橘鎮守府

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「そうですねえ＿＿戦闘機動も砲雷撃も正確無比というか＿＿火力はお互い違わないんですけどねえ＿＿艦隊運動はこちらが機先を制してるところもあったんですけどねえ＿＿」#柑橘鎮守府