再処理原子力発電の現状についてのわかりやすい解説

再処理に関してブレイクスルーを必要とする技術的課題は少なく、むしろ社会的課題の方が大きいというお話。原発再稼働や新規建設に関しても恐らく同じことが言えると思います
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Flying Zebra @f_zebra

使用済燃料の最終処分について断片的に色々な話をしているが、今日は少し趣向を変えて直接処分と再処理の比較について整理してみたい。原子力に関わる人であってもバックエンドの専門家以外は馴染みの薄い話なので、ほとんどの人はよく分かっていないと思う。

2015-06-14 22:46:34
Flying Zebra @f_zebra

再処理というのは使用済燃料からウランとプルトニウムを取り出す技術で、取り出した残りをガラスで固めたものが廃棄物となる。一方直接処分というのはそうした処理をせず、燃料集合体をそのままの形で処分する方法だ。どちらにしても、最終処分は地層処分となる。

2015-06-14 22:48:42
Flying Zebra @f_zebra

日本はこれまで全量再処理の方針で、直接処分についてはほとんど検討されていなかった。ところが再処理の前提となる核燃料サイクル、つまり再処理で取り出したウランとプルトニウムを再利用する計画に対する不信から、再処理についても改めて見直そうという動きがある。

2015-06-14 22:50:20
Flying Zebra @f_zebra

計画を決めた頃から何十年も経てば社会情勢も変わるし技術も進む。その時々の状況に合わせて適宜見直しするのは合理的だが、見直しに際しては現時点と将来予測を勘案し、メリットとデメリットを定量的に比較する必要がある。「○○はケシカランから全部やめてしまえ」は合理的な態度ではない。

2015-06-14 23:02:06
Flying Zebra @f_zebra

メリットとデメリットを冷静に比較しようにも、現状ではまず情報がほとんど見当たらないし、たまに目にするのはどちらかを一方的に持ち上げるかこき下ろすものばかりだ。そこで、私の主観が入るのは避けようがないにしても、なるべくニュートラルで検証可能な情報を提供しておきたい。

2015-06-14 23:05:47
Flying Zebra @f_zebra

核燃料サイクル計画が順調に進んでいないことは議論の余地がないだろう。六ヶ所の再処理工場もなかなか難産だったが、一番の理由は高速増殖炉「もんじゅ」が動いていないことだ。管理体制の問題もあり、まともに稼働できる目処は全く立っていない。

2015-06-14 23:11:31
Flying Zebra @f_zebra

原子力の関係者の中にも高速増殖炉の実現性には疑問を持っている人が少なからずいるが、なるべく客観的に判断するためには何が原因で動いていないのかを押さえておく必要がある。何らかの意見のある人でも、具体的に何が問題なのか明確に指摘できる人はあまりいないのではないだろうか。

2015-06-14 23:15:09
Flying Zebra @f_zebra

実は、技術的な課題は大きな問題ではない。長期間停止するきっかけとなったナトリウム漏れにしても、その後の中継装置を落としてしまった事故にしても、安全上重大な事故ではないし、原因の特定も対策もとっくに済んでいる。

2015-06-14 23:18:16
Flying Zebra @f_zebra

もちろん新しい技術なので実際の運用が始まれば細々としたトラブルは当然出てくるだろうが、技術的には大きなブレークスルーがなければ解決できないような未解決の問題が残っているわけではない。現に、ロシアでは少しタイプが違うが原型炉、実証炉が順調に運転している。

2015-06-14 23:20:38
Flying Zebra @f_zebra

では何が問題かと言えば、電力会社と比べると考えられないほど杜撰な管理体制と、そのために完全に信頼を失ってしまったことだ。技術的な問題が解決しても、信頼を失ったままだとプラントを動かすことはできない。今の体制で信頼を回復できるかどうかは、私自身も懐疑的だ。

2015-06-14 23:22:42
Flying Zebra @f_zebra

逆に言えば、電力会社並の管理体制を確立し、信頼を回復するという社会的なハードルを越えることさえできれば実現可能性は一気に高くなる。技術的な課題についてはある程度予測が付くが、社会的な問題というのは全く予想が付かないのでこればかりは何とも言えない。

2015-06-14 23:25:31
Flying Zebra @f_zebra

高速炉(必ずしも増殖炉である必要はない)が実現できない場合は再処理のメリットは小さくなる。現在は再処理で取り出したウランとプルトニウムはMOXに加工して軽水炉(普通の原子炉)で利用する計画としていて、和製英語でプルサーマルと呼んでいる。

2015-06-14 23:28:07
Flying Zebra @f_zebra

ちなみに、プルはもちろんプルトニウムで、サーマル(熱)というのは「熱中性子」のことだ。高速中性子に対して、減速材で減速された中性子のことだ。軽水炉はこの熱中性子で臨界を維持するように設計されている。高速中性子で臨界を維持する設計の原子炉が「高速(中性子)炉」というわけだ。

2015-06-14 23:32:20
Flying Zebra @f_zebra

この場合、核燃料「サイクル」と言いながら輪が閉じていない。軽水炉で利用した後の使用済MOXの行き場がないのだ。もう一度再処理することもできなくはないのだが、効率が悪いし技術的なハードルも高くなる。使用済MOXを直接処分するのであれば、わざわざ一度再処理する意味はあまりない。

2015-06-14 23:34:51
Flying Zebra @f_zebra

さて、再処理、核燃料サイクルのメリットだが、当初言われていたのはウラン資源の有効活用ということだ。資源に乏しい日本としては大切なポイントで、しかも以前はウラン資源の枯渇がかなり心配されていた。これについては、現在の状況はかなり変わってきている。

2015-06-14 23:37:18
Flying Zebra @f_zebra

ウランも限りのある資源であることは間違いないが、政情的に安定した多くの地域で埋蔵が確認され、当面の供給不安は和らいだ。その意味ではメリットが小さくなったわけだが、一方で当初はあまり認識されていなかった別のメリットがあることも明らかになってきた。それが最終処分だ。

2015-06-14 23:39:17
Flying Zebra @f_zebra

再処理で出る廃棄物はガラス固化体に加工されている。これは半永久的な「処分」(管理を前提とする「保管」ではない)のために作られたもので、化学的に極めて安定だ。何しろガラスなので、人間の日常的な時間感覚では地下水などの水に溶けることもない。

2015-06-14 23:41:09
Flying Zebra @f_zebra

もちろん数万年以上の時間を考慮すれば僅かには溶けるのだが、非常にゆっくりとしか溶け出さないため、仮にそれが人間環境に到達したとしてもそれぞれの個体の生涯という限られた時間の中では、何らかの影響を与えるほどの量が到達することはあり得ない。

2015-06-14 23:43:40
Flying Zebra @f_zebra

一方、直接処分というのは発電に使った燃料集合体をそのままの形でキャスクに納めて処分する。燃料集合体というのは基本的に数年間の発電と、その後せいぜい数十年間の冷却期間に健全性を維持するよう設計されている。100年以上の健全性など、全く担保されていない。

2015-06-14 23:44:49
Flying Zebra @f_zebra

人間世界との隔離は、キャスクの健全性と天然バリアだけに依存していることになる。それでもそうそう危険が増すわけではないが、漏れたとしても元がガラスのガラス固化体と比べると安定性は劣ってしまう。また、当初の発熱が大きいために処分場の面積を広くしなければならないのもデメリットだ。

2015-06-14 23:47:18
Flying Zebra @f_zebra

もう一つ、見落とされがちだが非常に大きなポイントとして核不拡散の問題がある。再処理の技術があれば使用済燃料からプルトニウムを取り出すことができるのだから、使用済燃料というのはある種のテロリストにとっては非常に価値の高いターゲットとなる。

2015-06-14 23:49:37
Flying Zebra @f_zebra

処分した直後は高い放射線と熱のため近付くことすら困難だが、強い放射能を持つ短半減期の核種は50年から100年もすればほぼ崩壊し尽くしてしまう。ウランやプルトニウムはほぼそのまま残っているので、処分場はテロリストにとって非常に魅力的な「鉱山」となってしまう。

2015-06-14 23:52:02
Flying Zebra @f_zebra

古代エジプトのピラミッドの例を出すまでもなく、価値のあるものを未来の盗賊から数千年以上に渡って完全に守るというのは、なかなか容易いことではない。そしてこのミッションは数千年どころではなく、凡そ人類が存在し続ける限り続くのだ。

2015-06-14 23:53:38
Flying Zebra @f_zebra

再処理の場合、処分されるのはウランやプルトニウムをほとんど含まないガラス固化体だ。苦労して盗んだところで、嫌がらせくらいにしか利用価値がない。嫌がらせにしても、同じ質量の毒物や爆発物と比べるとかなりケチ臭いことしかできない。ターゲットとしての価値は非常に低い。

2015-06-14 23:55:56
Flying Zebra @f_zebra

そのため、保障措置においても地層処分開始前にIAEAの検認を受けた後は基本的に包括保障措置(INFCIR153)の適用対象外となる。ただし、この取り決めの後イラクなどで未申告施設が見つかったことから制度が強化されて追加議定書が採択されており、そこでの扱いは決まっていない。

2015-06-14 23:57:21