山本七平botまとめ/【変革期にみる日本人の柔軟性/科学技術の導入②】新しい技術や製品に対し、宗教規範や生活規範に基づく拒否反応が一切無かった明治の庶民
- yamamoto7hei
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①【明治の庶民と新技術】日本ではしばしば何かが「一日でなくなる」、 そしてなくなったことを人はほとんど気づかない、 これは山本夏彦氏がしばしば指摘されるが、この変動が一番大きく行われているのが前記の明治元年から十年までである。<『1990年代の日本』
2015-06-13 12:38:59②その後の変化は、終戦時であれ経済成長期であれ、このときほど大きくはない。 その一端を当時の新聞から拾ってみよう。 まず灯火と時計だが…そのほかのものを取り上げてみよう。 もっとも余り多いので明治五年に限って、記事、広告あわせて日付順に記す。 (…記事略…)
2015-06-13 13:08:56③…以上は一年間の新聞から拾った記事と広告で、煉瓦建築、洋食(精養軒)、採炭業、ルツボの発明、トマトの栽培、人力車の発明等だが、これらはすべて加藤弘之のいう「無智文盲」の「迷信の徒」によって行われたといって過言ではない。
2015-06-13 13:38:57④いわば一般民衆に至るまで、新しい技術や製品に対して伝統的な宗教規範や生活規範に基づく拒否反応は皆無といってよいだけでなく、庶民は庶民なりにむしろ積極的なのである。 もちろんこれらの発明も外国技術の採用も社会に影響を与え、さまざまな変化を生じたはずである。
2015-06-13 14:08:56⑤しかしそれらにはほとんど触れられていない。 石油と時計の場合も同じだが、それまた、よくもこれだけの大変化に社会が耐えられたものだと驚く。 そしてこの変化に対しても、前記の加藤弘之が「迷信」と呼んで嫌悪した日本の伝統的宗教が、これを阻害したと思われるケースは皆無といってよい。
2015-06-13 14:39:00⑥確かに「迷信的」と思われるものに「電信線には処女の生血を塗る」という明治五年の風説がある。だが…記事略…を読んでも何らかの宗教的理由で電信を否定しようというような意志が背後にあったとは思えず、強いていえば長い反キリシタン政策から生じた「西欧=キリシタン」に基づく嫌悪感であろう。
2015-06-13 15:08:59⑦ただ加藤弘之のような考え方をすれば「宗教という迷信がある故にこういう迷信が派生する」ということになるかも知れない。 しかし、これは以上のような背景から生じた単純な「未知への恐怖」から派生したデマにすぎず、宗教と関係なく、発生もすれば消滅もすると見るベきであろう。
2015-06-13 15:38:56⑧そしてこの実情はまた現代でも変わっていまい。 というのは遺伝子工学に対してさえ、明確な宗教的教義に基づく反対は日本にはないからである。
2015-06-13 16:09:02