連続ついーとSS さちまゆ物語〜幸子、下着を買う。編〜
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連続ついーとSS
さちまゆ物語〜幸子、下着を買う。編〜
それは、よく晴れた日のとある女子寮。
ランドリールームの一角で起きたボクの悲劇であった。
「むにゃ、ねむ…せっかくのオフなのに、なんでこんなにカワイイボクがお洗濯なんてしなくちゃなんです…」
午前10時。
眠い目をこすりつつ、ボクはランドリールームへ。もちろん洗濯のためです。
ボクの右脇には、ちょこんとしたサイズのピンクの洗濯カゴ。カワイイボクみたいでしょ?
寮で暮らすボク、休暇の日にはここで洗濯をしてるのです。
毎度のこととは言え、だからこそ少し面倒だなあ。そう思うボクなのでありました。
ボクが独りごち、ドラム型の洗濯機を睨みつけていると、扉からひとりの少女が現れました。
「…あら、幸子ちゃん?おはようございます。今朝は随分と早いですね」
「まゆさん、おはようございます。今はもう10時ですよ。さすがのボクも起き出します」
同じプロダクションの佐久間まゆさんです。
休暇でも朝からおめかしバッチリの、これまたピンク色のお洋服。今日も今日とて素敵なファッションです。
まゆさんの身につけているものは、実に女の子らしいふりふりしたデザインばかり。
休暇の朝ということもあり、適当な寝間着姿でいたボクは少し恥ずかしくなってしまいました。寝間着のボクももちろんカワイイですけどねっ!まゆさんのおめかしもなかなかですけどねっ!
「あら?いつも幸子ちゃんはもう少し遅いですから…珍しいな、と思っただけですよ?」
「ボクだって、天気のいい日くらいガンバってお洗濯しますー」
「さっき、聞こえましたよ?幸子ちゃん、お洗濯面倒に思ってるみたいで…どうしました?」
「うっ…さすがまゆさんの地獄耳…」
「?」
(この人笑顔がわらっていない。
笑顔なのに!)
「あっ、いえ、なんでもないですよ?カワイイボクがお洗濯を嫌がるなんて、あるわけないじゃないですかー!」
「仕方ないですよ、幸子ちゃん。自分で身につけたものはお洗濯しなくちゃいけません。まゆは、そう思いますよ?」
完璧に見透かされていました。
まゆさん、今日もいろいろコワイ。
ボクは背筋に冷たいものを感じ、そっとその場を立ち去ることにしました。
幸いにも(幸子じゃなくて!指名されるほどボクはカワイイですが!)、お洗濯は始まったばかり。まだしばらく時間がかかることでしょう。
…と、その時。ボクが目にしたモノはっ!!
「ま、まゆさ、まゆさん…その、そのカゴに入っているものは…」
プルプル震えるカワイイボクの指の先には、まゆさんの洗濯カゴが。
そしてその中には………
とっっってもえっちな下着が!
しかもさんまいも!!
ボクは耐え切れなくなりました。
これは事件です。
まゆさんはボクと年齢が二つ違うだけ。それなのに、まゆさんの着けている下着は、ボクよりももっと、とってもとってもえっちなデザインだったのです。ボクにとってはとっても悲劇です!イヤですこんなの!!ウソですこんなの!!
たった2歳離れているだけで、ここまで下着力に差をつけられてしまうとは。さすがのカワイイボクでも動揺してしまいました。
そんなボクの様子をみて、まゆさんは不思議そうな顔を浮かべています。
「…?幸子ちゃん?どうか、しましたか?」
「いえ違うんです、なんでもないです!」
「なんでもないわけ、ない、ですよね…?まゆには分かりますよ?」
「ひぃっ…わ、わかりました。あの、その、まゆさんの、カゴの…下着…したぎが…」
「まゆの下着ですか?…うふ、これはですね」
「…Pさんのために買ったものなんですよ♪」
!!!
やっぱりいいい!!!
ボクはさらに衝撃を受けました。
ボクたちのPさんと言えば、ボクたちより遥かに年上の社会人さんです。まゆさんがPさんにメロメロなのは、カワイイボクにはお見通し。でもまさか、二人の関係がここまで進んでいるだなんて…!
これはもしや。いつの日か早苗さんに教わった事ですね。
お二人は、すっかりオトナ…そう、男女の仲なのですね!キャー恥ずかしい!
まさかその様子を隠されることもなく、このカワイイボクにはっきり伝えてくるとは。まゆさんは相変わらず読めない方です。カワイイボクに嫉妬して恥ずか死させようとしてるんですか?
ええ、ええ。おかげで効果は抜群です。ボクは今、猛烈に恥ずかしいです。
まゆさんとPさんの顔が交互に浮かぶことよりも、ボクのことが。
まだまだ子どもっぽいボクが、恥ずかしくなってしまったのです。ボクともあろう者が!
ボクにはまゆさんのような…そんなことできない。
……なんてことあるわけないじゃないですかあーっはっはっは!
まゆさんにできてボクにできないことなど、あるはずがありません!ボクにはなんでもできます!見ててください、今にまゆさんを驚かし返してあげますよ!
「まゆさん!!」
「うふ、どうしました?」
「ちょっとその下着を借りますね!!」
「えっ、えっ?」
「借りますね!!」
「待って、幸子ちゃ…」
ボクはまゆさんの下着を掴み、無我夢中で走り出しました。
まゆさんには負けていられない。ボクだって、自称・オトナになれるんだ…!!
〜10分後〜
「…まゆさん」
「うふ。なぁに?幸子ちゃん」
「ごめんなさい」
ボクはいろいろと忘れていました。
今が洗濯中だったこと。
思い切り寝間着だったこと。
ノーメイクだったこと。
そして、まゆさんの下着を持ち出しても、それがどこのお店で売られているか知らなかったこと…。
まゆさんにひたすら謝り倒し、下着を買えるお店を教えてもらいました。
もちろん、洗濯を済ませ、身支度も済ませたカワイイボク。もう言うことなしですね!
しっかり財布を握りしめ、やって来たのは駅前のランジェリーショップ。
カワイイボクと同じくらいにカワイイ外装に、期待してみてもいいかなって思えてきますね。
「いらっしゃいませ〜」
「こんにちは」
「本日は、どのようなご用件で…」
あれ?
何かがヘンですね。お店の中の様子がヘンです。
ひょっとして、ボクがここの商品を買うように見えていない…?
なんて失礼な店員ですか!
怒ったボクはこう言いました。
「カワイイボクにふさわしい、えっちな下着はどれですか!」
お店の中の声がピタリと止まりました。
どういうことなんですか。
なぜか困惑している店員は、いくつか下着を持ってきました。彼女はめちゃくちゃ慌てていたため、3枚同じデザインのものが紛れ込んでいます。カワイイボクに向かって、なんて失礼な。
「…お客様、ご試着はいかがなさいますか?」
「もちろんしますよ!」
なんですか、その「ああやっぱり貴女が買うのね」とでも言いたそうな目は。
失礼しちゃいますね。
ともあれ、これでボクもまゆさんと同じ、オトナの仲間入りです。もうショックなんてなくなりますよ!見せつけてやりましょう!
そんな、高揚感に満ち試着室に入ったボクを待ち受けていたのは。
店じゅう全ての下着のサイズが合わない、ボクのカワイイ身体という現実でした。
まゆさんが紹介してくれたお店は、オトナ向けのもの。子どもっぽ…もとい、スリムなボクにはふさわしくなかった…そんなの、ないですよ…。
苦笑いする店員をバックに、ボクは何も買えず寮に飛び帰りました。
帰り道では絶対に泣くまい。カワイイボクだから。そう決めて。
「まゆさあああん…!」
「あら、幸子ちゃんお帰りなさい。…どうしました?無事に買えましたか?」
「ボク、ボク…!カワイイボクが、カワイイボクなのに…!」
まゆさんは、自分の腕の中で泣きじゃくるボクを見て、全てを察したようでした。
少し困った顔をして。でも、すぐに優しい顔になって……。
とても穏やかに、優しく、傷ついたボクを撫でてくれました。
「幸子ちゃんは、今のままでも十分可愛いですよ」
「だって、だってボク、まゆさん、みたいに、オトナに…」
「いつの日か近付けますよ。わたしだってそうでした」
まゆさんに慰められ、落ち着きを取り戻したボクは、寮のみんなとご飯を食べて元気を取り戻しました。
やっぱり、寮の華であるボクの元気がないと、この建物は暗くて暗くて仕方が無いですからね!
そして……
「まゆさん、こんばんは。あれ、何ですか。その支度?」
「うふ。幸子ちゃん、これはエステに行く支度ですよ。これからまゆ、エステできれいになってくるんです」
「えええええエステ!!?まゆさん、それってもしかして…」
「もちろんPさんのために、です」
「ボ、ボクも行きます…!!オトナですから!一緒に、行きましょう!」
それから、ボクが年齢的な理由からエステの入店拒否をされるのは、言うまでもないお話なのでした。
おしまい。