山本七平botまとめ/【十五年周期仮説でみる昭和史/昭和における変動⑦】日本の社会保障が高福祉高負担にならない理由/社会的階級意識がなく、一揆的一体感が優先する日本社会

山本七平『1990年代の日本』/十五年周期仮説でみる昭和史/昭和における変動/高齢化社会と変革/211頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①前のアンケートで「70年代に社会保障で暮らせるようになるか」という予測に対して、「ならない」が82%ある。 「なる」と言っているのは、わずか18%。<『1990年代の日本』

2015-06-23 09:39:00
山本七平bot @yamamoto7hei

②80年代のアンケートはとってないが、恐らく同じことが出てくるだろうと思う。 「ならない」が82%から90%以上になってくると思う。 これはいったいどこに理由があるのか。

2015-06-23 10:09:00
山本七平bot @yamamoto7hei

③「なる」とは「そうあってほしい」 「ならない」という予測は、ある面では「そうあってほしくない」 という意識がある。

2015-06-23 10:39:03
山本七平bot @yamamoto7hei

④面白い事に願望はしばしば予想の姿となり 「こうなってほしくない」あるいは「こうはならない」という時は、各人が「そういう社会にはなってほしくない」 という潜在的願望が背後にある。

2015-06-23 11:09:01
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤日本人の大部分が70年代にすでに 「老人全部が平均的に年金で暮らせるような社会になってほしくない」 という潜在的願望を表明したともいえる。 これは「社会福祉充実」の「たてまえ」と大変に矛盾しているが、ではいったいこの人達は、どういう状態を予想しているのか。

2015-06-23 11:39:01
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥日本人の表現は独特だと前に記したが、これは日本政府も独特な表現でものを言うということで、 高福祉高負担を選択するか、あるいは低福祉低負担を選択するか、国民はいったいどっちを選択するか という言い方はしないということである。

2015-06-23 12:09:01
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦西欧の政治家なら 「こちらを選択するならば自分に投票せよ」 という言い方をする。 選挙の時にはこれが当たり前で 「インフレをとるか成長をとるか、お前、どっちをとるのだ」 という形で国民に決断を求める。

2015-06-23 12:39:04
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧”インフレなき成長”などというのは元来あり得ないとするから、どっちをとるかと二者択一になる。

2015-06-23 13:09:00
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨「もし、多少インフレがあっても成長がいいと思うなら、誰々に投票せよ。そうではなくて、インフレは絶対お断りである。成長はとめてもインフレはやめた方がいいと思う人間は、私に投票せよ」 と、常にこういう言い方になる。 公約を掲げて国民に決断を迫る。

2015-06-23 13:38:59
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩彼らの社会では、これは当たり前の方式だが、日本ではそういうことは言えない。 物を買うときにも「くださいな」と言わなければいけない社会でそんなことを言うと総スカンを食う。 そういう場合、どういう方法をとるか。 これはいろいろな方法がある。

2015-06-23 14:08:59
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪たとえば一般消費税は反対されたが、あれはたいへん面白い効果を生んでいる。 というのは、あれは、ある意味において、 高負担高福祉か、低負担低福祉か、どっちを選択するのか という要因を含んでおり、 低負担低福祉を選択したのだ と返事をしたようなものだと受け取りうる。

2015-06-23 14:39:01
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫あれがそういう意味で上げたアドバルーンなら、相当知恵者の参謀が大平さんの後ろにいたのだなと思うが、おそらくそうではあるまい。 しかし結果においては、高福祉高負担という論調は消えてしまう。

2015-06-23 15:08:59
山本七平bot @yamamoto7hei

⑬こういう妙な形の選択を強いることがときどき出てくるわけで、結果においてそうなったのか、初めからたくらんでいたか、それがわからないままに面白い結果が出る。 そして″高福祉″という言葉は消え、低負担がいいという形に、選択が決まってくる。

2015-06-23 15:39:03
山本七平bot @yamamoto7hei

①収入に平均40%の税金を課して、全老人が暮らせるように社会保障をやると言っても、もうだれも耳を貸さないであろう。 なぜそうなるのか。<『1990年代の日本』

2015-06-23 16:09:02
山本七平bot @yamamoto7hei

②これは、社会構造の基本にかかわる問題で、 ある程度は年金は必要であろう、しかしある程度は家族が扶養すべきだ、ないしは、そのうちのある程度はその人間が一生勤めていた企業が負担すべきだ、この二方から負担すべきだ という意識が、おそらく日本人には強いのであろう。

2015-06-23 16:38:59
山本七平bot @yamamoto7hei

③これは 日本人に社会的階級という意識がない ということである。 さらに自分の親を扶養することには、抵抗を感じないが、自分たちが同じ税金を出すことによって、自分の父親の年齢層を同じように扶養する、それを日本人はいやがる。

2015-06-23 17:09:00
山本七平bot @yamamoto7hei

④これはいい悪いは別問題として、我々のもっている意識であり、それを基にして断りたい状態の出現は別表現で断ってしまう。

2015-06-23 17:39:00
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤例えば企業が長い間勤めた人に対して年金を出す。 これは当たり前であって、それはいい。 では同じように、他の企業に居た人にも平等に渡るように各企業で基金を出して、平等な企業年金を作るかというと、これはしたがらない。

2015-06-23 18:08:57
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥なぜこれをしないか、 社会を横断した階級という意識が日本人にはなく、一揆的一体感が優先している からである。

2015-06-23 18:39:05
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦これは、明治以降、特に昭和になってマルキシズムが入ってきてから、”階級”という言葉を安直に使うが、例えば日本人には武士階級という意識はなかった訳で、武士階級が横に全国的に連帯して、武士階級の利益を守る為に何かしたという例はない。

2015-06-23 19:09:00
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧そこで版籍奉還も秩禄処分も簡単にできてしまう。 「これは武士の権利だ、武士は武士として団結して、自分達の権利を守れ」 とはならない。 ヨーロッパとはその点で基本が違うから、そうならないのが、むしろ当たり前である。 これは現在でも同じで企業を横断した労働組合はできない。

2015-06-23 19:38:59
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨アメリカのように何々工が全部組合をつくって、各企業はその組合と契約することによって人を雇用することは、やれと言っても日本では絶対できない。 つまりこれは、社会構造の基本が違うのだから、違うところに同じことを持ってこようと思っても無理である。

2015-06-23 20:09:00
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩つまり年金とか、高齢者扶養とか、高齢者の再就職とか、こういった問題でも同じで、ヨーロッパ式にやろうとすれば、失敗するだろうと思う。

2015-06-23 20:38:59
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪こういう場合、一定の年齢層以上の人の扶養に対して高額に税を控除した方が効率がよい。 次に企業が自己の退職者を、何らかの形で再就職させる。 日本の伝統的な構造から考えると、これがいちばんいい。

2015-06-23 21:08:59
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫それを、いかにうまくシステムとして開発するか。 これがおそらく80年代の問題であろう。 それさえうまくいけば、というのは「維持のための革新」をやっていけば、日本の社会は、そう問題はないと見ていいと思う。

2015-06-23 21:39:00