CDBさん、アメコミ『シビル・ウォー』を語る

アメコミの『シビル・ウォー』シリーズ3冊についてのCDBさんによる紹介と感想。アメコミもまた子供向けに留まらず、深化して遥かな地平を目指していることがよく理解ります。僕自身が不明にして、アメコミの邦訳版の出版状況とその内容に関してほとんど無知であるため、このようなブックガイドは大変ありがたく、自分のための覚え書き的な意義も含めて、まとめを作成しました。『シビル・ウォー』読んでみたい!
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CDB@初書籍発売中! @C4Dbeginner

今日はアベンジャーズの放送日だから、ここ一ヶ月で買い集めたアメコミ版のキャプテン・アメリカの感想を書こうかな。 pic.twitter.com/e1nKI8JC2g

2015-06-26 21:16:56
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まず、こんなに多くの邦訳が出版されていることを不勉強にして僕は知らなかった。邦訳版にはアメコミ初心者向けに解説ブックレットまで挟み込まれている親切ぶり。 pic.twitter.com/JDTYPEsEd9

2015-06-26 21:28:50
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ブックレットの内容はこんな感じで、ページごとに出てくる地名や用語の解説がぎっしり。単にコミックの内容だけではなく、アメリカの読者には自明である歴史的人名の解説まで。日本スタッフの作品に対する愛情と知識が注釈からビンビン伝わってくるぞ pic.twitter.com/aLLxYPUEit

2015-06-26 21:36:17
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まずはマット・ソーン先生@matt_a_thorn に紹介してもらった「シビル・ウォー」の感想。とは言っても、この「シビル・ウォー」はいわば物語の幹になる一冊に過ぎなくて、「内戦」における一人一人の内面に迫った「外伝」がこんなにある。 pic.twitter.com/uz2yPYvuhG

2015-06-26 21:47:20
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帯にもある通り、来年のハリウッド映画化が決定しているストーリーなので内容は詳しく書かないけど、”超人登録法”を巡ってアメリカンコミックのヒーローが真っ二つに分かれて戦うこのストーリーは、そのまま911以後の「愛国法」をめぐるアメリカの保守とリベラルの対立の隠喩になっている。

2015-06-26 21:54:55
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僕が購入して読んだのはこの膨大な「シビルウォー・シリーズ」のうち、本編と「反対派」キャプテン・アメリカ編、そしてもう一冊、「賛成派」トニー・スタークの内面に迫ったアイアンマン編の三冊。どれも面白かったけど、とりわけアイアンマン編がすごく良かった。キャプテン・アメリカも登場する。

2015-06-26 22:00:11
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映画版でロバート・ダウニー・Jrが飄々と演じるトニー・スターク像とは違い、ここでのスタークは「保守」の重責を背負って現実とのギャップに苦悩する姿が描かれる。あくまでアメリカの自由の理念、高潔な理想を求めて政府に背くキャプテン・アメリカとは対象的。そしてその二人の対決が物語の中心。

2015-06-26 22:13:26
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いやあ、これはでも一度読んだらみんなびっくりしますよ!ただリズムがまったく違うんですよね。アメコミはすごく凝縮されて展開が速い。「シビルウォー」1冊で日本の漫画の手法で書けば優に5~6巻は埋まる。だから高くても損したとは思わない。なかなか読み終わらない@matt_a_thorn

2015-06-26 22:18:03
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すごく重要なのは、このトニー・スタークとキャプテン・アメリカ、アメリカでの一般的な社会的地位と政治傾向を入れ替えてるんですよね。アメリカでは一般的にトニー・スタークみたいなセレブはリベラル、キャプテンアメリカのような「退役軍人」が保守の傾向がある。もちろんそうでない人もいるけど。

2015-06-26 22:21:35
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星条旗のコスチュームに身を包みながら政府に反旗を翻すキャプテン・アメリカ。「私と共に内部から国を変えよう」と彼を説得するトニー・スターク。特に素晴らしいのがキャラクターの台詞の「言葉」の質の高さで、まるでハードボイルド小説を読んでいるように短く濃密な言葉で議論が交わされる。

2015-06-26 22:31:26
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「アメコミは善悪がはっきりしていてストーリーは子供向け」というかつてのイメージとは正反対に、アインシュタインやルーズベルト、過去の世界史を引用してキャラクター同士が何が善で何が悪なのかという議論を交わす。正直「アメリカの漫画読者ってこんなにリテラシー高いの?」とびっくりしてしまう

2015-06-26 22:45:04
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アイアンマン編のラスト近くには、キャプテン・アメリカを前に(どういう状態かはあえて書かない)内戦を制したトニー・スタークが慟哭しながら「保守の内面」を告解する番外編があって、この告解が本当に読み応えのある内容なんだけど、これは2016年の映画化を待ちたい!だから秘密!

2015-06-26 22:49:15
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続いては映画化された『ウィンターソルジャー』なんだけど、これも映画版とはかなり違う内容になっている。もう内容が濃すぎて説明するのが大変なんだけど、回想シーンでWWⅡ時代のキャプテンアメリカがナチスと戦うためにスターリングラード戦線でロシア軍と手を組むシーンとかあるわけですよ。

2015-06-26 23:00:49
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「仮定の話をするなら彼らがポーランドを侵略した時あなた方の指導者があんなにナチに好意的でさえなければ、こんな風に自分の家の玄関先を狼どもがうろつく羽目にもなっていなかったのではないですか」これキャプテンアメリカのロシア軍将校に対する台詞なんだけど、漫画の台詞ってレベルじゃないよね

2015-06-26 23:06:55
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そんなわけで本当はウィンターソルジャーもデス・オブ・キャプテンアメリカも読み所満載なんだけど、たぶん2016年の映画にも関わる可能性あるし、アベンジャーズの放送ももう終わっちゃったので、これだけは絶対書きたい一冊!「ニューディール」! pic.twitter.com/Nq3niP9pOu

2015-06-26 23:24:13
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英語版wikiによればこの作品は驚くべき事に2003年にはもう描かれていたらしい。驚くというのは、この作品が隠喩でもなんでもなく、もう直接的にあの911テロ事件をテーマにしているから。en.wikipedia.org/wiki/List_of_C…

2015-06-26 23:43:51
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あまりにも信じがたいので何度も確認したんだけど、アマゾンレビューでもファンサイトでもやはりニューディールの初出は2002年6月から2003年にかけてのCaptain America Vol.4となっている。信じがたいというのは、あの当時のアメリカはもう怒りで国が一丸となってたから

2015-06-26 23:53:05
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確か当時のブッシュ政権への支持率が90%に近づくような異常な状態で、即座にアフガニスタンへの派兵が展開している真っ最中のはずだ。そんな真っ最中に描かれた作品の中で、キャプテン・アメリカは作品の序盤、復讐心に我を忘れてアラブ系移民の少年に襲いかかる911の遺族の前に立ちはだかる。

2015-06-27 00:00:09
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キャプテン・アメリカのあの象徴的な盾、シールドが、娘をテロで殺された父親のナイフを折るという象徴的なイラストレーションの後で、「人として、国として、アメリカであらねば、さもなくば負けだ」というキャプテンアメリカの内心の独白が挿入される。でもこれはまだこの物語のプロローグにすぎない

2015-06-27 00:04:50
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アメリカのクラスター爆弾の不発弾や地雷で手足を失った中東の少年兵が義手義足でキャプテンアメリカに襲いかかり、彼らを操るテロリストがテレビの画面に向かって「お前たちこそがテロリストだ」と告げる。繰り返すけど、これが「あの時代」に描かれていたっていうことに本当に驚くしかない。

2015-06-27 00:09:50
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物語の中盤、仮面を脱ぎテレビの前で正体を明かしたキャプテン・アメリカは(漫画版では映画のように顔がバレていない)ドイツへ向かう。そしてドレスデンの街で空襲によるドイツ市民の死者を思いながら、「9月11日になってようやく、自分たちのやったことの意味がわかった」と独白する。

2015-06-27 00:19:24
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キャプテン・アメリカにとってというより、アメリカにとって対ナチス戦争というのは絶対的なよりどころというか、ベトナムはともかくあのナチスを叩いたことだけは間違っていなかったはずだ、というアイデンティティがあったわけだけど、その最後の正当性すらキャプテンアメリカその人が疑うわけです。

2015-06-27 00:25:27
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この『ニューディール』という作品、装丁も素晴らしくて、表紙はこの画像のように「すべての人に自由と正義を」という碑文の上で盾を高々と掲げるキャプテン・アメリカが描かれている。 pic.twitter.com/LIFxFHynrn

2015-06-27 00:33:40
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でもこの本を裏返すと、裏表紙にはこんな絵が描かれているんです。薄い暗がりの中から、まるで死者のように無数の物言わぬ人々がキャプテン・アメリカの「盾の裏側」を無言で見つめている絵。 pic.twitter.com/1TuyQkNfvH

2015-06-27 00:36:13
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物語の終盤で対決する最後の敵が吐く「知っているはずだキャプテンアメリカ、俺がどこで生まれたのか」という台詞とか、おそらくいかにハリウッドといえど『ニューディール』だけは映画化できないのではないかと思う。一冊完結という意味では一番おすすめなんだけど、既刊売り切れ状態なんですよね。

2015-06-27 00:42:56