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川上稔さん(kawakamiminoru)の「ばけもの の はなし」

2010/12/30 川上さんがまたも唐突にツイッターで投下し始めた小説です。 今回は前回のようなライブ形式ではなく、一度知人回りに書いてみせたものらしいです。 何かコミケ毎にこういうのやってくれそうでこれからも楽しみです。
川上稔
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川上稔 @kawakamiminoru
んじゃ始めますか。今回はmixiで一度知人回りに書いて見せたものなので、コピペで済むから前のより早く済む筈。逆に改行処理で時間食ったら笑いますが。 http://twitpic.com/3kw88p
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川上稔 @kawakamiminoru
● 無人の夜に、道と住処の空脈を、単車の排気音が通り抜けていく。 響く音は一つだけで、ただ遠ざかるようでいて。 しかし、ある音色をもって響いている。
川上稔 @kawakamiminoru
○ 変わりの無い海辺の町の近くに、化け物が住んでいると人は言う。
川上稔 @kawakamiminoru
● 少年は背が高かった。 少年は力が強かった。 少年は無口だった。 勉強は好きではなく、金も必要最低限で、他人にはもう友人がいて。 嫌うものが近づいてきたら追い払うだけで。 ただ嘘は吐かず、他人を信用せず、それゆえに恐れられた。 そして、いつしか少年は、化け物と呼ばれた。
川上稔 @kawakamiminoru
○ 化け物は人よりも体が大きい。 化け物は人よりも力が強い。 化け物は人の勉強をしない。 化け物は人の生活をしない。 化け物は人の友達を持たない。 化け物は人から怖れられている。
川上稔 @kawakamiminoru
● 少年が教室で座る席は窓際の一番後ろ。 海に近く、そして山も近い土地の空はいつも荒れ、青空であっても空の風は強い。 しかし南側の土地は、外に出ることを促す大気を持つ。 海には真白の砂の堆積があり、山には道を降りたところに広い岩場があった。
川上稔 @kawakamiminoru
○ 化け物は海が好きだった。 化け物は山も好きだった。
川上稔 @kawakamiminoru
● 少年は授業には出る。 が、内容にはもうついていけない。 頭が悪いというよりも、途中をすっぽかしてしまったからだ。 それなのに授業に来ているのは、親が金を振り込んでしまったからだった。
川上稔 @kawakamiminoru
※私事:誰だよ半角スペースなんて入れてんの……! 自分か! 字数オーバー勘弁だわー。
川上稔 @kawakamiminoru
○ 化け物はいつも一人だった。 話しかけることもせず。 話しかけられることもなく。 だから一人で。
川上稔 @kawakamiminoru
● 少年は夜に単車で出る。 着るのは父の革ジャンパー。 コースは沿岸から峠に至り、街の中を行くルート。 父も歳の離れた母を載せ、そうしていたらしい。 父が初めて母を乗せたのは、踏切故障で単線電車が止まったその日の夜のこと。 天使のようだったと、父は照れもせずに言ったことがあった。
川上稔 @kawakamiminoru
○ 街の若者達は化け物を狩りに出る。 化け物はいつも一人で、鋼の声をあげながら夜を行く。 街の若者達は取り囲み、武器をもって戦いを起こす。 だが化け物には誰もかなわない。 幾人もの勇者が、しかし化け物にかなわない。 そして化け物はまた夜を行く。
川上稔 @kawakamiminoru
● 少年が、傷の治療もそこそこに学校に行くと、既に午後だった。 五月から始まる美術の授業は、自由選択の書道。 書道は少年のクラスで行われるため、席を変える必要がない。 他の皆は書道の道具を用意しているが、少年は持っていない。 担当の老講師は教員ではなく、地元の出身だった。
川上稔 @kawakamiminoru
駅前でよく見る顔は、ときに海や山でも見る顔だった。 そして老講師は、皆に和紙を配っていった。 白の、繊維が見える紙は、少年の前にも配られた。 手作りの和紙、と、そういうものだった。
川上稔 @kawakamiminoru
○ 化け物は、それを見るのが初めてだった。 化け物には人のものの価値が解らないが、それが作られたものだというのは解った。
川上稔 @kawakamiminoru
● 少年は考えた。手作り、というものを出すことで、無駄にするなと説教をされているのではないかと。 だがこれは自分だけに配られているものでもなく、自分は道具も持っていない。 大体、道具を持っていても満足な字が書けるはずもない。 最後に、その紙に好きな字を書きなさいと老講師は言った。
川上稔 @kawakamiminoru
○ 化け物は思っている。 自分の中には何かがすっぽ抜けていると。 だから化け物はこう考えた。 目の前にあるものをそっとしておこうと。
川上稔 @kawakamiminoru
● 少年は何も書かず、書けなかった。 授業が終わるとき、和紙は回収された。 老講師は何も言わず、何の表情も見せなかった。 それでいいと少年は思う。
川上稔 @kawakamiminoru
○ 化け物は白い砂浜の海に出た。 化け物は今の時期の海が好きだ。 山は駄目だ。桜の花が散った季節の山は緑に明るいが、人も多くなる。 他はいらない。 化け物は己が一匹であると解っていたし、他のものが自分をどのようにしようとしても、己がどうなるものでもないと解っていたから。
川上稔 @kawakamiminoru
● 少年はまた夜に出ていく。 誰もいない家の中にいることに耐えられない。
川上稔 @kawakamiminoru
単車の整備を行い、音をたてて夜に出ていく。 静けさと冷たさを切り込むように突っ走っていくと、嫌う連中が追ってくる。 少しは解る。彼らは自分を怖れているのだと。 だから切り込んでくる。 同じように自分も怖れている。 夜を。 だから切り込んでいく。
川上稔 @kawakamiminoru
○ 化け物は人をうち砕く。 化け物は人に謝らない。 化け物は人を見下ろす。
川上稔 @kawakamiminoru
● 一週間後のHR授業で、担当の老教員はまた和紙を配った。 そして、少年以外の皆に、手紙を配った。 話によると、これらの和紙は地元の子供達が作っているとのことだった。 手紙は、子供達からのもので、書かれた字のことや、紙を使って貰った事への返答があった。
川上稔 @kawakamiminoru
そんなものが来ると知らなかった皆は、自分が書いた文字について今更顔を青くしたり赤くしていたが、少年はいつものままだった。 少年のところには、手紙が来ていなかった。 だが少年は、やはり何も書かない。また、和紙は何も書かないまま回収された。
川上稔 @kawakamiminoru
○ 化け物はまた夜に出ていく。 いつもの、夜が呼ぶ感覚の他に、何かの不機嫌が腹の中にあった。 外を行けば戦士達に囲まれ、争いが起きた。 勇者が言う。 「貴様の親も人に倒されたのだろうが」 違う、と化け物は思うが言わない。
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