山本七平botまとめ/【1990年代の日本/潜在化する意識の転換⑥】「倫理を叫ぶマスコミ」ではなく「商法改正」によって封じ込められた総会屋

山本七平『1990年代の日本』/1990年代の日本/潜在化する意識の転換/「する論」の現われ/237頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①【「する論」の現われ】80年代の休養・休止願望「なるなる論」的行き方も、もう二、三年すれば、90年代の「する論」の、潜在する筋がある程度は見えてくるであろう。 そしてその兆候は一、二すでに現われている。<『1990年代の日本』

2015-06-27 08:08:59
山本七平bot @yamamoto7hei

②小さなことだが、その一例をあげれば「商法改正と総会屋」である。 この日本独特の「総会屋」という奇妙な存在が法の改正で消えて行ったこと、 これは決して小さいことでなく、私はある徴候と見る。

2015-06-27 08:38:58
山本七平bot @yamamoto7hei

③というのは、私の友人のアメリカ人のコンサルタントが日本に来て何よりも驚いたのが総会屋の存在であり、それへ流れるカネは日本の全企業で年間約一兆円になるであろうということであった。

2015-06-27 09:09:05
山本七平bot @yamamoto7hei

④なぜこんな不合理なことが行われるのか。 これは一般株主への背任行為ではないか。 といっても、皆、日本では総会屋はなくならないでしょう、アメリカとは事情が違いますから、と言う。 事情を聞いてみると、日本の社長は皆サラリーマン社長、そのためスキャンダル恐怖症だといってよい。

2015-06-27 09:39:00
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤いわばブラックジャーナリズムに根も葉もないことを書かれたり、巧みにデマを流されることを極端に恐れる。 これをされて銀行や取引先の信用を失い、社員のモラールが低下することは、会社に損害を与え、自己の失脚につながるから、それらの損失を思えばいくらかのカネで封じておいた方がよい。

2015-06-27 10:08:57
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥彼らの中には新左翼の雑誌をもっているものもあるから、それを使っての会社攻撃も恐ろしい。 その場合、名誉毀損その他で訴えても判決までには恐ろしく時間がかかるし、訴えれば逆に「何かあったんだろう」と思われるのが日本の実情である、等々…。 この説明も一種の「なるなる論」である。

2015-06-27 10:38:59
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦そしてこういう場合しばしば出てくるのが「経営者倫理の確立」といった主張なのである。 「政治倫理」であれ「経営者倫理」であれ、常に「倫理」が叫ばれる点、日本はやはり徳治主義の伝統の強い国と思わざるを得ない。 だが新聞がいかに倫理、倫理と言ったところでそれは何の解決にもならない。

2015-06-27 11:08:57
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧そして現実に総会屋を封じ込めたのは商法の改正であった。 だが法治国家ならこれが当然なのである。 もちろん法は万能ではない。 しかし、法の規制があることと、法の規制なき野放し状態とは同じではない。 それを無視し、法をそのままにして倫理のみ叫ぶのは正しくない。

2015-06-27 11:38:57
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨だが不思議なことに、私の調べた範囲内では今まで新聞に 「商法を改正して総会屋を一掃せよ」 といった主張はなく、その法案を掲げたという例もない。 だが、新しい状態の招来に、新しい法が必要だということは、アメリカのような国なら当然の発想なのである。

2015-06-27 12:08:58
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩もっとも、少々、行き過ぎと思われる面もあるが、日本はこの逆の行き過ぎであるといえる。 だが明治は必ずしもそうではなかった。 社会を変えるためには新しい法の制定が必要であり、これなしに日本の近代化などは不可能であることは、自明のことであった。

2015-06-27 12:39:00
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪勿論その事は新しい法が伝統的規範と齟齬矛盾し、多くの日本人に「法不信」というべき感情をもたせ、代言人(弁護士)が三百代言の名のもとに一種の蔑称となった事は否定できない。 確かに法は常識の結晶であるといえるが、一面、 合理的な新しい法は新しい常識を作る ともいえるのである。

2015-06-27 13:08:58