オリジナル徳パンク小説『黄昏のブッシャリオン』第三章#1

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碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

◆黄昏のブッシャリオン◆ ◆黄昏のぶっしゃりおん◆ ◆黄昏の◆ ◆たそがれの◆

2015-07-04 20:15:40
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

「徳エネルギー」。それは、人の功徳から取り出されるエネルギー。善行を熱に変え、水を沸かし、蒸気でタービンを回す夢の力。だが、その本質は……『情報』にある。 それが徳と呼ばれることになったのが、偶々だったのか、それとも必然だったのか。今となっては誰にもわからない。1

2015-07-04 20:22:16
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

兎に角、最初に人類が形而上世界から取り出すことに成功したエネルギーが『それ』だった。理論物理と純粋数学と哲学の最も幸運にして不幸な出会い。意識のモデル化とランダウアーの原理。悟りのメカニズム。それらについて語ることは、慎重に避けなければならない。2

2015-07-04 20:34:00
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

だが、最終的に「事実上(人類がより良き生を目指す限り)無限」である徳エネルギーは、暴力的なまでに既存の価値・倫理・宗教・経済・その他考えうる限りあらゆるものを蹂躙した。何故ならそれは、人類が有史以来求めてやまない「より良い生」の絶対的基準だったからだ。3

2015-07-04 20:35:59
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

繰り返しになるが、徳エネルギーの元となる「徳」とは情報だ。そしてその性質は、それが必然であるか偶然であるかはさておき、人類がそれまで「徳と呼んでいたもの」によく似た性質を持っていた。およそ善行とされる行為によって放出され、情報であるが故に、あらゆる経路を通じて伝播した。4

2015-07-04 20:42:18
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

物理的接触、電磁波、音波、その他の媒介による伝播、情報的接触、精神的接触、血縁、地縁、etc。兎に角、徳の伝播を止めることはできなかった。物理的に完全に遮断された人間の徳総量が変動することは珍しくはなく、宇宙ステーションからでさえ地上の徳に影響を与えることができた。5

2015-07-04 20:46:45
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

人類の文明は新たな段階へと突入した。そう……徳カリプスが訪れる、その日まで。人類は、新しい世界を謳歌していた。6

2015-07-04 20:47:33
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

「……つまり、大気での徳レベルを0と仮定する。このとき個人の徳レベルがxなら、徳エネルギー流の強さは以下の定数を用いて対数平均徳エネルギー差をまず求め……」「ちょ、ちょちょちょっと待った!」「どうかしたか?ガンジー」「徳カリプスの話をしてたのに、なんで数式が出てくるんだ!?」7

2015-07-04 20:54:18
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

「徳カリプスの説明には、まず徳エネルギーのメカニズムの説明をしないといけない。だが、その話をしていたら『もっと具体的に』と言われたから、具体的かつ単純な例を出して、徳エネルギーの原理について公式から天下りで説明をしている訳だが」「そうだぞ、ガンジー。大人しく聞いた方がいい」8

2015-07-04 21:00:58
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

「うぐっ……」ガンジーはグゥの音も出なかった。「それでも、もっと簡単に説明しろ!何のことかわからねぇ!」「それは基礎教育が足りていないからだ。それに、クーカイ殿は理解されている様子だが」「まぁ、半分ってところだがな……」「ぐぬぬぬ……」9

2015-07-04 21:05:48
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

荒野のただ中を走る車の中。ハンドルを握るのは、頭にバンダナを巻いた大柄の男、クーカイ。そして、助手席にはガンジー。後部座席にはガラシャとシャリオンが横たわっている。結局、移動しながらシャリオンと情報交換を行うことになったものの……それは見ての通り難航を極めていた。 10

2015-07-04 21:14:01
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

「確かに、私も徳エネルギーの全てを理解している訳ではないが……そもそも、今生き残っている人間で、徳エネルギー理論を完璧に理解しているのはせいぜい5、6人だろう」「それだ!そういう情報が欲しいんだよ!!」「その辺は有料だ」「諦めろ、ガンジー。貴重な情報だ」「ぐぬぬぬ……!!」11

2015-07-04 21:16:04
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

とまあ、万事こんな感じの彼等の旅路である。 ---------12

2015-07-04 21:16:45
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

徳パンク小説『黄昏のブッシャリオン』まとめ - Togetterまとめ togetter.com/li/797219 #bussharion

2015-07-07 22:47:55
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

ハーフブッダマスクの男が眺めるモニタの上で、七つの光点が消えた。『モデル過去七仏の全滅を確認』経文朗読めいた電子音声が状況を告げる。 男はモニタ表示画像を切り替え、気象データ画像を表示する。「……天変地異は無し」意味するのは、異常事態。 13

2015-07-07 22:57:16
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

機械的欠陥では有り得ない。「また自殺か……」得度兵器は仏になることは無い。だが、ある程度高度な知性と状況判断能力を持っている。救済の希望無きまま、永劫の時を過ごす。その果てにあるのは、自我の摩耗。即ち緩やかな自殺だ。 14

2015-07-07 22:59:55
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

得度兵器の自殺は、ワーカーホリックの過労死の如く突如訪れる。幸いにして代替は容易。ハーフブッダマスク男は、極東地域へ追加で得度兵器を配備するための『進言』を送信した。得度兵器のコントロールは、厳密には彼の権限下にはない。彼はあくまでアドバイザーなのだ。誰の?15

2015-07-07 23:03:56
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

……それは無論、『自我を持つ』得度兵器のだ。未だ、その数は少ない。だが、その萌芽は確かに存在し初めている。「黄昏の終わりは、近い」徳カリプスより十年。得度兵器は急速に進化している。人類救済という原則(ドグマ)すら……或いは『疑う』ことが出来るようになる日も近いやもしれぬ。16

2015-07-07 23:10:21
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

だが……ハーフブッダマスク男は、そこで首を左右180度回転させ、モニタに目を落とす。彼の中の『人間』の部分が、何かを訴えていたからだ。「近辺の得度兵器の喪失状況リストを……」男の声に反応し、リストが表示される。直近での得度兵器喪失は10体。 17

2015-07-07 23:15:35
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

過去七仏型。半休眠状態のブッダ・タイプ。そして、飛行偵察用の天使型が一体。麒麟型が一体。個々の喪失事例には、不審な点はない。休眠状態から機能停止するのは珍しくないし、飛行偵察型のロストも無いことではない。だが……「固まりすぎている」多すぎるのだ。18

2015-07-07 23:19:34
碌星らせん(ろくせい・らせん) @dddrill

そして、更に不自然なことに……ラマ・ミラルパの解脱地点は、そこからさほど離れていない。「何かあるな……」得度兵器が異常をきたす何かがあるのか。それとも、得度兵器を誰かが狩っているのか。男は詳しく調査することを決意し、調査を要請する。 19

2015-07-07 23:25:03
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