オカルト探偵あきつ丸 -深淵の呼び声-
はじめに
#落ちぬい二次 、はじまります。本作は #不知火に落ち度はない 及び #人造人間あきつ丸 の二次創作であり、オフィシャルではありません。意見、指摘などは #落ちぬい タグでお願いします
2015-07-02 20:13:20本編
■ある島で発見された老学者の手記■ 私はオカルティストを自称する男に接近した。オカルト談議に花を咲かせたり互いの研究を開陳しあったりするためではない。そもそもその男は自称オカルティストであって、実際その道に造詣が深いわけではなかった。 私が求めているのは男の蔵書だ。#落ちぬい二次
2015-07-02 20:15:21古き良き古書肆が軽薄な中古本チェーンに取って代わられた現代では、古本屋を巡ったところで掘り出し物を見つける事はまず不可能だ。そこで私が目を付けたのが、小金持ちであちこちから本を買い漁っているこの岸という男だ。#落ちぬい二次
2015-07-02 20:16:59幸いにも私には国立大学の教授という肩書がある。彼の信頼を得るのは容易い事だった。 岸の邸宅に招かれた私は中身のない自慢話に一々相槌を打ち、一時間後には彼の蔵書を見る事を許された。#落ちぬい二次
2015-07-02 20:18:31平凡な一戸建てならばリビングルーム程はありそうな書斎はほぼ三面が書架になっていて、そこには胡散臭い本がみっしりと収蔵されていた。胡散臭いというのは言葉通りの意味で、絶版なだけでありきたりな怪談本や、果てはムーまでもがそれなりのスペースを確保していたのだ。#落ちぬい二次
2015-07-02 20:20:07しかし念入りに見ていくと、それらとは一線を画すものがあった。 かなり古い和綴じでだいぶ傷んでいたが、開いてみると私がこれまで見たことのない伝承が記述されていた。どうやら地域伝承を記したものらしかった。#落ちぬい二次
2015-07-02 20:22:41「それですか。どこかのお寺さんが亡くなった時に処分されたものだそうですよ。お恥ずかしい話ですが、買ったはいいもののさっぱり読めませんで」 岸はこの書の価値に気付いていないらしかった。私はつとめて興奮を抑えて返す。#落ちぬい二次
2015-07-02 20:25:08「ふむ……たしかに古いですが、見たところ地域の幽霊話ですね。日本全国、よくあるパターンの話ばかりです」 岸は大して落胆する素振りも見せず、まあそんなものでしょうな、などと訳知り顔をして見せた。#落ちぬい二次
2015-07-02 20:27:03それからしばらくは岸の蔵書を開いては伝承の読み方や関連性を知るための基礎知識を教えてやった。金に飽かして文献を買い漁るだけであった岸はこれを喜び、上機嫌になって私にウイスキーまで振る舞った。#落ちぬい二次
2015-07-02 20:28:08岸にも酒が入って饒舌になってきた頃合いを見計らって、慎重に切り出す。これこそが私がわざわざ無知な成金の機嫌を取った目的なのだ。失敗はしたくない。 「ところで、先ほど書斎を拝見していて気になったのですが、幾冊かはかなり傷みがひどいように見受けられますね」#落ちぬい二次
2015-07-02 20:28:50私がそう言ってやると、たしかに、と首肯する。うまくいけばよいのだが。 「和綴じの本の事ですな。私も気にはなっていたのですが、お話を伺って大したものではないとわかったのでいっそ処分してしまおうかと思っております」#落ちぬい二次
2015-07-02 20:32:36「いや、それはやめたがよろしい。ああいった文献というのはそれ自体に価値があるものですから」 つくづく、物の価値を知らぬ男だ。学者の端くれならば読み捨ての漫画本ならばともかく、あのような文献を捨てるなどと軽々しく口にできるものではない。#落ちぬい二次
2015-07-02 20:34:47「しかし、ああいった本を保管する設備はありませんのでなあ」 「では、どうでしょう。図書館なり博物館なりに寄贈なさっては。書は適切に保存されますし、岸さんのお名前も寄贈者として残ります」#落ちぬい二次
2015-07-02 20:36:44「それはよいですな!とはいえ、いきなり持ち込んで引き受けてもらえるものでしょうか?」 「私が引き受けましょう。仕事柄そちら方面には顔が利きますので」 岸はならばと先ほど目を付けた書と他数点の和綴じをさっそく持ち出してきた。#落ちぬい二次
2015-07-02 20:39:04「では、お願いしますよ先生!」 苦笑している事を自覚しながら、突き出されたそれを受け取る。ここまでとんとん拍子に事が運ぶとは思わなかったが、うまくいく分には文句はない。書を鞄に納め、岸邸を辞した。#落ちぬい二次
2015-07-02 20:41:41書を手に入れた二週間後、私はそれが本来あった地に向かった。 具体的な場所はいずれ纏める論文に記載するためここでは省くが、東京都下の離島の一つである。今では小さな集落が一つあるだけの島だが、かつては漁業の拠点として多少は栄えていた時期があったらしい。#落ちぬい二次
2015-07-02 20:43:33島には旅館などはないため、朝早くに漁船を借りて島に行き、日中に調査をして夜に同じ船で旅館がある島まで帰る予定だ。 取り寄せた地図には目的の場所が記されていなかったが、それはおそらく既に荒廃しているかもともと地図に載るほど大きくはない物だったのだろう。#落ちぬい二次
2015-07-02 20:46:44現代の地図と古文書の手書きの地図を照らし合わせておおよその場所は掴めたので、調査には問題はないはずだ。 私は船を出してくれた漁師に礼を言って迎えの時間を確認してから桟橋に降りる。散々船に揺られたせいで逆に陸が揺れているように感じられて気持ちが悪かった。#落ちぬい二次
2015-07-02 20:48:49そうしている間にも帰りの時間が迫っているのだが、足がもつれてはかなわない。数分ばかり埠頭で落ち着くのを待ってから目的の場所へと足を向けた。#落ちぬい二次
2015-07-02 20:51:13その目的の場所とは、おそらく神社あるいは祠であるはずだった。 山の入り口に傷んだ鳥居があり、その奥には古びた神社があった。が、目的はここではない。一応立て看板の社史を見てみたが、やはり創建は書にあった伝承よりも後だった。#落ちぬい二次
2015-07-02 20:53:27それから三時間ほど山を登り続けた。丘というのがふさわしい程の小山だが、普段ろくに運動していない身にはかなり堪えた。ハイキングシューズが新品だったせいで足が痛むのは迂闊だった。#落ちぬい二次
2015-07-02 20:56:35やがて山頂に出たが、社のようなものは見えなかった。しかし地図によればこのあたりに何かがあるはずなのだ。 書の写しと地図を確かめながら、山頂から逆方向に分け入る。注意深く探すと、獣道の脇に小さな洞窟があるのが見えた。#落ちぬい二次
2015-07-02 20:58:28そこには朽ちた縄が懸けられており、紙垂の成れの果てと思わしき紙屑もまとわりついていた。 ついに見つけたのだ。#落ちぬい二次
2015-07-02 21:01:09