山本七平botまとめ/【日本資本主義の精神/まえがき】明治と戦後の”発展”をもたらし、太平洋戦争という”破滅”をもたらした「呪縛(伝統)」に無自覚なままの日本人
- yamamoto7hei
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①【まえがき】『日本資本主義の精神』などという標題は、何やらいかめしい″学術書″のように誤解されそうなので、まず最初に、本書が成立した経緯を記しておきたい。 ある経営雑誌に「日本的経営を忘れてはいないか」という一文を発表したことがあった。<『日本資本主義の精神』
2015-07-01 10:38:52②これが英訳され、その結果、外国人の友人から説明会を開催してくれと申し込まれた。 日本的経営はそれだけ、海外からも注目されているのであろう。 また、注目されて当然である。 それでありながら、それに関する日本側の発言が殆どない事が、この要請になったのであろう。
2015-07-01 11:09:03③これが本書成立の一つの動機となった。 もう一つは、カッパ・ブックス編集部の依頼で「日本の伝統とキリスト教」という連続講演を行なったことである。 日本の伝統、特にそれがもつ独特の宗教性は、いうまでもなく日本資本主義の倫理の基礎である。 これが本書成立の第二の契機となった。
2015-07-01 11:38:51③…さて、第一の契機で特に感じたことは、 本書でとりあげたような日本的特質を、日本人自身が自覚していない、 という彼らの指摘であった。 彼ら自身、もはや「日本人はモノマネがうまいだけだ」などとは考えていない。
2015-07-01 12:09:03④だが日本人自身がそう考えているためか、明治における発展であれ、戦後の経済的成長であれ、「なぜそうなったか」を把握しておらず、外部に説明しえない状態である。 いわば 「何だかわからないが、こうなってしまった」 のである。
2015-07-01 12:38:51⑤勿論、その「ノウ・ハウ」を外部に説明する必要はないといえばその通りである。 ただこの状態は、 自己がそれによって行動している基準を、自ら自覚していない ことであり、言葉をかえれば、伝統に無自覚に呪縛されている状態である。 私はこれが最も大きな問題であると考えている。
2015-07-01 13:09:12⑦この事は、日本に発展をもたらした要因はそのまま、日本を破綻させる要因であり、無自覚にこれに呪縛されている事は 「何だかわからないが、こうなってしまった」 という発展をもたらすが、同時に 「何だかわからないが、こうなってしまった」 という破滅をも、もたらしうるからである。
2015-07-01 14:09:04⑧明治のこの無自覚状態は、太平洋戦争に帰結している。 一度の失敗は許されても、二度の失敗は許されない。 したがって、いま必要なことは、この「呪縛」の対象を分析し、再評価し、再把握して、自らそれを統御することである。
2015-07-01 14:38:49⑨もちろん、それを外部に説明する必要はないが、要請されればそれができるように、各人が明確な自己を把握して、自らを統御することは必要である。 それは国家に要請されるだけでなく、企業にも、個人にも要請される。 本書は、それを行なうための一提案であり、いわば視点の提供である。
2015-07-01 15:39:02⑩なお、本文中で、鈴木正三、石田梅岩の多くの言葉を引用した。 それらは原則として、『鈴木正三道人全集』鈴木鉄心編(山喜房仏書林)と『石田梅岩全集』(清文堂出版)によった。 両先人のことを、もっとよく知りたいと思われる方に、私の『勤勉の哲学』…とともにご一読をおすすめしたい。
2015-07-01 16:08:56