@longfish801さんのアニメルカvol.3感想

興味深い内容だったので自分用まとめ。
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杉本@むにゅ10号 @longfish801

文学フリマでゲットしてから早一ヶ月……アニメ評論集『アニメルカ』vol.3の感想を書くのです。今回は表現論がテーマということで、背景、声優、レイヤ合成、効果音、BGM、ナレーション、モノローグといった、アニメを構成するいろんな要素とその働きについての考察が並んでいる。

2010-12-30 21:30:26
杉本@むにゅ10号 @longfish801

アニメルカvol.3:衝撃的だったのは杉田u「『けいおん』の偽法」。どうすれば記号で人間性を表現できるのか、手塚治虫が苦悩した「アトムの命題」に対し、アニメ「けいおん!/!!」はリアルな風景に描かれないはずの内面が描かれたと錯覚する「逆半透明の身体」を描いたと指摘する。

2010-12-30 21:31:24
杉本@むにゅ10号 @longfish801

アニメルカvol.3:ありのままの写生を通じて表現する「透明な」自然主義的リアリズムに対し、手塚治虫とその後継者たちは内面を有し死を迎えることすらある身体をあくまで記号表現で描く「半透明」な手法を追求した。大塚英志はこの独特なリアリズムを「まんが・アニメ的リアリズム」と呼んだ。

2010-12-30 21:32:26
杉本@むにゅ10号 @longfish801

アニメルカvol.3:「けいおん」は典型的な日常系アニメの特徴として男性性や人間関係の軋轢、家族すら慎重に描写が排除されている。だが、写実的な背景描写、特定可能な実在の楽器や小物といったリアルな描写に、モノローグといった直接的な形ではいっさい描かれていない内面を幻視してしまう。

2010-12-30 21:33:45
杉本@むにゅ10号 @longfish801

アニメルカvol.3:第二期では卒業する四人の先輩を、たったひとりの二年生である梓の視線を通じて描く。梓はあたかも視聴者の代わりに軽音部の日常を覗きこむカメラとしての役割を果たし、手が届きそうで決して届くことのない「逆半透明の身体」が放つ輝きを、その残像のリアルだけを留める。

2010-12-30 21:35:43
杉本@むにゅ10号 @longfish801

アニメルカvol.3:これには藤田直哉「9・11系ハリウッド映画群の謀略」(限界小説研究会編『サブカルチャー戦争』所収)を連想した。「ハリウッド映画のような」ツインタワー崩落映像以降、リアルは手ぶれカメラのざらついた映像の向こうの「手の届かない」場所にしか存在しなくなったという。

2010-12-30 21:37:35
杉本@むにゅ10号 @longfish801

アニメルカvol.3:座談会「背景から考える」は、背景表現の大切さや奥深さはもちろん、とにかく小ネタが面白い! 自然賛歌が描かれた『となりのトトロ』とモデルとなった土地が近い『千と千尋の神隠し』ではバブル経過後の荒廃した場所が陰惨に描かれているという。

2010-12-30 21:39:24
杉本@むにゅ10号 @longfish801

アニメルカvol.3:しかし同様に人工的な都市計画が進められた土地がモデルの『耳をすませば』は肯定的に描かれている。現実にはモデルの聖蹟桜ヶ丘は交通が不便で坂や階段が多く暮らしやすい土地ではない。しかし映像家の視線を通じて美しさが表現された結果、不動産価値まで上がったという。

2010-12-30 21:40:18
杉本@むにゅ10号 @longfish801

アニメルカvol.3:『耳をすませば』では繰り返し同じ場所が描かれ、同じ場所でありながら内面の変化した人物が登場することで場所の象徴する意味合いが変わる。時間とともに変換するニコニコ動画のタグやコメントが、固定された場所(パーマリンク/背景)の意味合いを動的に変化させていく。

2010-12-30 21:41:16
杉本@むにゅ10号 @longfish801

アニメルカvol.3:座談会「声優から遠く離れて」は声優がテーマ。過去の恋愛話を開陳した声優、平野綾が批判された事件に象徴されるように、声優という職業が、やる夫や初音ミクのごとく生の肉体から離れてキャラクタだけが一人歩きし「ゴースト」化しているという。

2010-12-30 21:42:18
杉本@むにゅ10号 @longfish801

アニメルカvol.3:ちょっと関連してると思ったのがさかさドンブリ「眼-〈触覚〉-耳」が指摘するオーディオコメンタリーと声優の関係。アニメ『化物語』では(声優がスタッフとしてではなく)キャラクタが自身にメタな立ち位置からツッコミを入れ、ときに本編映像の意味合いさえ変えてしまった。

2010-12-30 21:43:24
杉本@むにゅ10号 @longfish801

アニメルカvol.3:座談会でも「サザエさん」などの声優交代劇が触れられていたけれど、声優とキャラクタとは固定された関係ではない。けれど、いったん演じ始めるとキャラクタの身体と声とは分かちがたく結びつき人工空間を制御する。こうして声優は触れることのできない世界に触れる巫女となる。

2010-12-30 21:44:33
杉本@むにゅ10号 @longfish801

アニメルカvol.3:ちょっと私感。今回、個人的にいちばんインパクトがあったのは杉田u「『けいおん』の偽法」の、逆半透明の身体や届かないリアルという考え。ミステリの場合、もちろん社会派的なリアリティに基づく人間性もあったけれど、人間性の否定を通して描かれた人間性もあったと思う。

2010-12-30 22:17:35
杉本@むにゅ10号 @longfish801

アニメルカvol.3:故郷を飛びでた若者が遠い空を眺めるときの横顔とか、愛する人が遠くへ去るときに残してくれたいくつかの言葉とか、そういう悪く言えば手垢のついた人間性もまた人間性には違いない。けれど、そういった自然主義的リアリズムで描かれる人間性だけが唯一の人間性ではない。

2010-12-30 22:18:22
杉本@むにゅ10号 @longfish801

アニメルカvol.3:論理的思考どころか、現実にはありえないSF的状況にすら人間性は表れる。それはもはや「人間性」という言葉では表せないなにかだ。人間性とは、人間性とはこういうものだという固定観念が無残に吹き消されたとき放たれる、最期にして最大の輝きだと思う。

2010-12-30 22:19:37
杉本@むにゅ10号 @longfish801

アニメルカvol.3:「ひぐらしのなく頃に」では愛らしいキャラクタの性格が豹変し、日常が惨劇に転じた。謎解きを通じて過去が明かされることでプレイヤーはキャラクタの事情を理解する。あれほど恐ろしかった非人間性が活き活きとした内面へと転じることで、人間として親しむことができる。

2010-12-30 22:21:26
杉本@むにゅ10号 @longfish801

アニメルカvol.3:けれど「うみねこのなく頃に」は、もっと遠い。謎解きを通じてプレイヤーが得るのは真実ではなく、真実という名の虚妄の果てに遠く隠れた、手の届かないリアル。それにただ一瞬だけ触れえたかのように錯覚するEp.7のあの場面の美しさは……あれ、目から塩水が……。

2010-12-30 22:22:04