山本七平botまとめ/【日本のこれまでを支えたものは何だったのか⑤】終身雇用契約のない終身雇用

山本七平『日本資本主義の精神~なぜ、一生懸命働くのか』/第一章 日本の伝統と日本の資本主義/日本のこれまでを支えたものは何だったのか/終身雇用契約のない終身雇用/25頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①【終身雇用契約のない終身雇用】いや、他人事ではない。 私自身も一再ならず「見えざる原則」にふれられて、立ち往生に陥ったのである。<『日本資本主義の精神』

2015-07-03 12:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

②その典型的なものは、日本に相当に詳しい外国人から「日本は終身雇用制度だそうですが、どういう雇用契約を結ぶのですか。」という質問を受けた時である。 私はこれに答ええない。 日本は確かに終身雇用を原則としており、それなるが故に人々は一流企業を目ざし、その為に一流大学を目ざす。

2015-07-03 13:09:04
山本七平bot @yamamoto7hei

③年功序列制か能力序列制(?)かを云々したところで、それはあくまでも一企業もしくは一企業群という枠内の昇進の問題であって、この論議自体が終身雇用を前提とした議論である。 では、入社の時「終身雇用契約」を会社との間に結ぶのであろうか。 勿論そんなものは存在しない。

2015-07-03 13:38:54
山本七平bot @yamamoto7hei

④第一、その採用に際して 「終身雇用制でと社会に向かって表明している以上、入社の際に、終身雇用契約を締結するのが当然だ。」 といえば、はじめから採用されないか、採用取消しになるであろうということを、すべての人が「見えざる原則」によって知っている。

2015-07-03 14:09:02
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤したがって、前記の問いに対しては、 「終身雇用制ですが、終身雇用契約などはありません。そんな契約を結んでくれと言ったら、どの会社からも採用されず、その人自身が終身雇用制から除外されるでしょう。」 という以外にない。

2015-07-03 14:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥さらに質問者が、 「理解できません。終身雇用制だと言いながら、終身雇用契約をしてくれと言ったら終身雇用制から除外されるとは――。一体それはどういう事なのか説明して下さい。」 と言えば、こちらは立ち往生するか、「その質問に答える用意は何もない。」と言うか、そのいずれかである。

2015-07-03 15:09:00
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦だが、こういうことを奇妙と言ったら、日本の社会全体が奇妙であり、その奇妙の弊害を論じていること自体がまた奇妙なのである。 まず、何かの拍子で、ある局面が取り上げられる。 最近では、子供の自殺だが、それはベつに急激に増加したわけでもなければ、戦後の特徴でもない。

2015-07-03 15:38:53
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧また世界各国と比較して、日本が特に多いという訳でもない。だがそれがすぐさま教育問題、大学入試、偏差値と結びつけられ、何かが「諸悪の根源」ときめつけられ、それさえ切除すればこの問題はすぐ片づくように言われる。 はたしてそうであろうか。その局部を変えれば万事解決するのであろうか。

2015-07-03 16:09:06
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨もちろん、そんなことはありえない。 その背後には人びとが一流大学を目ざすという現実があり、その現実の背後には、それを出れば一流企業、終身雇用、年功序列という、最も有利な位置に進みうる可能性があるからに外ならない。

2015-07-03 16:38:50
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩そして、そこへ入ってしまえば、何らかの事故でも起こさない限り一流企業の社員という社会的序列から転落する事はない。 いわば下限が保障され、同時に将来への可能性も保証されている位置である。これはリスク皆無の賭けのようなもの、言いかえれば「買戻し条件つき宝くじ」のようなものである。

2015-07-03 17:09:02
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪たとえ外れても「一流大学卒」への投資は必ず返ってくると人びとが信じており、この信仰が事実で裏づけられている限り、人びとが「買戻し条件つき宝くじ」に殺到するのは当然である。 この殺到は当然に犠牲者を生む。 新聞はそれを批判する。

2015-07-03 17:38:54
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫しかし新聞社にいてその批判ができる位置にまで昇るには、まず入社しなければならず、入社するには一流大学にはいらねばならない。 となれば、 殺到を批判しうる位置に昇るためにまず殺到しなければならない、 という矛盾を生じてしまうのである。

2015-07-03 18:09:01
山本七平bot @yamamoto7hei

⑬一体、この背後にあるものは何であろうか。 それは「年功序列」である。 それは、企業ではじまるのでなく、当然のことだが大学で既にはじまっている。 入社ならぬ入学をすれば、外国の大学のように不適格として排除される心配はなく、卒業という停年まで、必ず在学できる。

2015-07-03 18:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

⑭そして単位制度があっても、進級は結局「年」と「功=成績」であり、それの積み重ねで卒業すれば「大卒」という「社会的序列」にはいる。 そしてこの「序列」にはいってはじめて、一流企業の「年功序列」に加入できる資格を得るわけである。

2015-07-03 19:09:04
山本七平bot @yamamoto7hei

⑮ここにある原則はすでに 「功」すなわち成績もしくは業績が、ある種の「序列」に転化する ということである。

2015-07-03 19:38:53
山本七平bot @yamamoto7hei

⑯そして、会社における能力主義もまた「年の功」即ち経験の蓄積という「功」と、それによらぬ才能に基づく「功」とを、その「序列転化」においてどう評価するかという問題だけであって「功」が「序列」に転化するという基本には何の変更もない。 そして、この原則は中小企業でも同じだったのである。

2015-07-03 20:09:03