としまさんのジャズ史概論

シンプルな解説にたまたま遭遇しました
21
戸嶋 久 Hisashi Toshima 🎵🔈 @t_hisashi

アドリブ・ソロこそが命のように言われるジャズ音楽だけど、20世紀初頭に、ニューオーリンズで誕生したごく初期のジャズには、個人のソロというものはなかった。なかったらしい。「らしい」というのは、当然ながら、その当時の録音というものが残っていないので、文献資料でしか分らないということ。

2015-07-15 00:09:02
戸嶋 久 Hisashi Toshima 🎵🔈 @t_hisashi

ビバップがジャズの最先端だった1940年代に、ニューオーリンズ・リヴァイヴァルがあって、ジャズ初期の古老達がどんどん録音するようになったから、そういうもので、発生当時の初期ジャズの姿を垣間見ることはできるけど、それもその後のジャズに多少影響されていたから、そのままの姿ではない。

2015-07-15 00:09:15
戸嶋 久 Hisashi Toshima 🎵🔈 @t_hisashi

もっとも、「ジャズ」の誕生というか第一号を、スコット・ジョップリンのラグタイムに置く考え方もあって、そうなると、ジャズの歴史はもうちょっと古いことになるけど、それでもソロがないことには変りがない。ジョップリンのラグタイム・ピアノは完全記譜音楽で、アドリブは存在しないのだ。

2015-07-15 00:09:27
戸嶋 久 Hisashi Toshima 🎵🔈 @t_hisashi

ラグタイム・ピアノをジャズの起点に置く考え方は、2011年の『ジャズ:スミソニアン・アンソロジー』六枚組CDで示されたもので、そのアンソロジーでは、オープニングがスコット・ジョップリンの「メイプル・リーフ・ラグ」だった。ジョップリンがこの曲を作曲・発表したのは1899年のこと。

2015-07-15 00:10:15
戸嶋 久 Hisashi Toshima 🎵🔈 @t_hisashi

でもそのラグタイム=ジャズの誕生という視点は、若干特殊だろう。シンコペイトするリズムは、かなりジャズ的であるとは言えるけど。やはり南北戦争後の軍楽隊が残した管楽器を基に、ブラスバンドを基本に置いてジャズ発生を考えるのが常識的。その後のジャズ史を見ても、管楽器中心の音楽なのだから。

2015-07-15 00:10:35
戸嶋 久 Hisashi Toshima 🎵🔈 @t_hisashi

もちろん、ジャズ以前の19世紀においては、ラグタイムと吹奏楽は密接な関係があった。フォスターやゴットシャルクといった作曲家は、シンコペイティッド・ミュージックを書いていたし、マーチ王として有名なスーザだって、ラグっぽいマーチをいろいろ作っている。マーチはラグタイムの重要な母体。

2015-07-15 00:10:45
戸嶋 久 Hisashi Toshima 🎵🔈 @t_hisashi

ピアノも、ジャズの初期から2015年の現在に至るまで、一貫して人気の衰えたことのない楽器(特に日本では大人気)だけど、発生当時のジャズにはピアノはなかったし、ジャズの歴史全般を見たら、常に時代をリードしてきたのは、トランペットやサックスといった管楽器であることは明白な事実だろう。

2015-07-15 00:11:05
戸嶋 久 Hisashi Toshima 🎵🔈 @t_hisashi

ジャズ史上初のレコード録音となっているのは、1917年2月26日、ニューヨークで白人バンド、オリジナル・ディキシーランド・ジャズ・バンドが録音した二曲。ジャズ誕生から、既にかなり経過しているし、白人バンドによるものだから、初期ジャズのオリジナルな形を残したものとは言えないだろう。

2015-07-15 00:11:19
戸嶋 久 Hisashi Toshima 🎵🔈 @t_hisashi

ついでに書いておくと、黒人ジャズマンの初録音は、トロンボーン奏者キッド・オーリーのサンシャイン・オーケストラが、ロサンジェルスで録音した1922年6月の六曲(これには異説あり)。キッド・オーリーはニューオーリンズを中心に活動していて、キング・オリヴァーやサッチモとも録音している。

2015-07-15 00:11:42
戸嶋 久 Hisashi Toshima 🎵🔈 @t_hisashi

1922年というのは、ジャズ発生史から見たら、相当に遅い。様々な資料から明らかだけど、その頃既にジャズは誕生当時の姿ではなくなっていたはずだ。そして、そのキッド・オーリーとも録音を残したサッチモことルイ・アームストロングこそが、その後のジャズを運命づける「ソロ」の概念を確立した。

2015-07-15 00:12:23
戸嶋 久 Hisashi Toshima 🎵🔈 @t_hisashi

サッチモの初録音は、キング・オリヴァーのバンドで1923年4月5日にリッチモンドで吹込んだ五曲。既にバンド・リーダーで師匠のキング・オリヴァーを凌駕せんとする存在感を示し始めている。サッチモは先にシカゴに来ていたキング・オリヴァーの招きで、ニューオーリンズから出てきたのだった。

2015-07-15 00:14:00
戸嶋 久 Hisashi Toshima 🎵🔈 @t_hisashi

しかしながら、録音で辿る限りでは、サッチモが自分のトランペット(コルネットだけど)・スタイルを確立するのは、1924年10月にフレッチャー・ヘンダースン楽団に加入した頃のことだろう。その頃には、ヘンダースン楽団のスタイルを、ホットなジャズへ一変させたと言われる強烈な演奏ぶりだ。

2015-07-15 00:14:40
戸嶋 久 Hisashi Toshima 🎵🔈 @t_hisashi

そして、その1924年頃が、サッチモがジャズにおける個人のアドリブ・ソロを一般的なものにした時期なんだろう。もっと前からそうかもだけど、録音されたもので辿る限りではそうだ。ヘンダースン楽団にしてからが、スウィートなダンス・バンドだったのが、ホットなソロを聴かせる楽団に変化した。

2015-07-15 00:16:35
戸嶋 久 Hisashi Toshima 🎵🔈 @t_hisashi

その後のサッチモの快進撃と、後世に与えたあまりに大きすぎる影響力については、既にいろんな人によって語り尽くされているし、日本語で手頃に読めるものでは油井正一さんの『ジャズの歴史物語』にも詳しく書いてあるから、僕が今更繰返す必要はない。「ソロ」の呪縛は、あまりに強力すぎるくらい。

2015-07-15 00:16:49
戸嶋 久 Hisashi Toshima 🎵🔈 @t_hisashi

ジャズで「ソロ」というものを吹いたのが、果して本当にサッチモが初めてだったのかどうかは、実ははっきりしない。少なくとも、録音でそれを辿って証明することは非常に難しい。しかし、サッチモが初めてではなかったにせよ、ソロ概念を確立・普及させたのが、サッチモであったことは、疑いえない。

2015-07-15 00:17:00
戸嶋 久 Hisashi Toshima 🎵🔈 @t_hisashi

そして、サッチモの貢献によって、集団即興演奏だった発生当時のニューオーリンズ・ジャズから脱却して、ソロを演奏の中心に据えるようになって以後は、ジャズとジャズ周辺音楽が、ソロ中心の演奏スタイルでなくなったことは、2015年に至るまで、一度もない。「全て」がソロ廻しメインの音楽だ。

2015-07-15 00:17:08
戸嶋 久 Hisashi Toshima 🎵🔈 @t_hisashi

ジャズとその周辺音楽は、そういうアドリブ・ソロ(譜面化されていることも、時々あるけど)を演奏の中心に据えたからこそ、これだけ様々に発展してきたのだと言える。ビバップだって、その後のモダン・ジャズだって、フリー・ジャズだって、ジャズ・ロックだって、フュージョンだって、全部そうだ。

2015-07-15 00:18:06
戸嶋 久 Hisashi Toshima 🎵🔈 @t_hisashi

つまり「ソロ」を取らないジャズ(とその周辺音楽)は存在したためしがないわけで、その意味でもこの「ソロ概念」を確立したサッチモの偉大さを、どれだけ強調してもしすぎることはないんだけど、ジャズ史上、たった一つだけ、このソロの呪縛から逃れようとしたバンドがある。ウェザー・リポートだ。

2015-07-15 00:18:25
戸嶋 久 Hisashi Toshima 🎵🔈 @t_hisashi

ザヴィヌルのではなくショーターの言葉だったと記憶しているけど、”We always solo, we never solo.”という有名な台詞がある。この言葉の意味するところは、初期のウェザー・リポート、特にデビュー・アルバムと『ライヴ・イン・トーキョー』を聴くと、よく分るはず。

2015-07-15 00:18:37
戸嶋 久 Hisashi Toshima 🎵🔈 @t_hisashi

それら二作で聴けるウェザーの演奏は、テーマ演奏があって、その後に個人のアドリブ・ソロが来るという手法ではない。一曲毎に、演奏全体がバンド・メンバーよって集団で展開されて、たまに個人のソロのように聞える瞬間があるが、実は全員が一斉にソロを演奏している一部分であるというのが正しい。

2015-07-15 00:18:45
戸嶋 久 Hisashi Toshima 🎵🔈 @t_hisashi

全員が一斉にソロを演奏しているということは、誰もソロを演奏していないというのと同じだから、さっき紹介した”We always solo, we never solo”というショーターの言葉通りのことになっているわけだ。特にヴィトウスが在籍していた1974年頃までは、そうだった。

2015-07-15 00:19:11
戸嶋 久 Hisashi Toshima 🎵🔈 @t_hisashi

そういうのが無秩序な集団即興にならず、完璧な構築物になっていたのは、ザヴィヌルの強力なリーダーシップがあったからだ(とうようさんはその辺が嫌いだったんだろう)。特に、ヴィトウスが在籍中最後の『ミステリアス・トラヴェラー』以後は、譜面化されていた部分もかなりあったと推測している。

2015-07-15 00:19:41
戸嶋 久 Hisashi Toshima 🎵🔈 @t_hisashi

実際、ヴィトウスが抜けて、ショーターも個人的な事情で音楽活動だけに集中しにくくなってからは、ザヴィヌルの独裁体制が強くなって、当初のソロ=非ソロの理想はそのままに、スタジオ録音ではほぼ譜面化されて、それが実現していたようだ。ジャコの弾くベース・ラインすら、全て譜面があったらしい。

2015-07-15 00:20:37
戸嶋 久 Hisashi Toshima 🎵🔈 @t_hisashi

全て譜面化されているのなら、それはアドリブでもソロでもないのではないかという意見もあるだろう。しかし、それはジャズにおける「アドリブ・ソロ」に対する一種の幻想みたいなものではないかと僕は思っている。重要なのは、実際に即興で演奏したかどうかではなく、即興らしく聞えるかどうかだろう。

2015-07-15 00:21:15
戸嶋 久 Hisashi Toshima 🎵🔈 @t_hisashi

ザヴィヌルは、そういう発想を1968年頃に持っていたらしい。マイルスの『ネフェルティティ』一曲目のタイトル・チューン、一切個人のソロがない曲を聴いて、これは自分の考えている方向性と同じだと感じたらしい。それでマイルスに共感したわけだけど、マイルスはその方向性は発展させなかった。

2015-07-15 00:21:39