SWEET

かおり @orange_shake_

【SWEET・1】 はー、疲れた。 もう何連勤目かわからない…いや、そんなことはいいんだけど。 仕事が忙しいことはありがたいことだ。 ただ、どうにも苛々することが多くて。 これもしょうがないんだけど。 自分1人でやってるわけじゃないんだから、そんなこともある。

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【SWEET・2】 でも、そろそろ限界近い。 ＊＊＊ 爆発する前に駆け込んだ、お気に入りのケーキ屋さん。 頑張った自分へのご褒美、にすらならないけど。爆発しないための現実逃避。 「どれにしようかな…」 ショーケースの前で、さっきまで会社でついていたのとは別のため息。

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【SWEET・3】 ここのケーキはどれも綺麗で可愛くて、すっごく美味しい。 見てるだけでうっとりしてため息、どれにするか悩んでまたため息。 幸せなため息をつかせてくれる、甘い空間。 『いらっしゃい』 顔を上げると、ここのパティシエの安田さん。 「こんばんは…」

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【SWEET・4】 『お誕生日以来やんな。元気しとった？』 顔見知りだから世間話的に声かけてくれてるだけなのに、その優しい笑顔と声に目の奥が熱くなって思わず下を向く。 『えっ、どうしたん？』 急に俯いた私に、慌ててショーケースの後ろから出てこようとする。

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【SWEET・5】 「だっ大丈夫です！今、真剣にケーキ選んでるんで！」 こんなところで泣くわけにはいかない。 ぐっとこらえて、ショーケースに目を移す。 生ものだからたくさんは買えないしなぁ… あ、季節限定のタルトだ。 でもその隣には新商品のプリン。 ああ、迷う迷う。

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【SWEET・6】 『ふふっ、』 やけに近くで笑い声が聞こえたと思ったら、ショーケース越しにプリンの向こうからこちらを見てる安田さんと目が合った。 「うわっ！」 びっくりしてよろけると、 『わわ！ごめんごめん！びっくりしたなぁ』 眉を下げて笑う。

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【SWEET・7】 『あまりにも真剣にプリン睨んでるんやもん。その向こうから俺ずっと見てんのに全然気づかへんし！(笑)』 「す、すみません…」 ずっと見られてたの？恥ずかしい…！ 『タルトとプリンでええかな？』

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【SWEET・8】 言わなくてもわかってたみたいで、プリンとタルトを箱に詰めてくれる。 きょろきょろと厨房の方を気にした後、 『ナイショやで』 ウインクして、箱の隙間にクッキーとマドレーヌを詰めてくれた。 「え…ありがとうございます。」 『あんま無理したらあかんでぇ？』

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【SWEET・9】 安田さんには私が何で今日ここに来たのかなんてお見通しだったみたいで、恥ずかしくて俯く。 『はー、俺もプリンになりたいなぁ』 「へ？」 メルヘンな人だとは思ってたけど。 唐突な謎の願望に顔を上げると、困ったみたいな顔でニコニコしてる。

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【SWEET・10】 『あんなに君にじーっと見てもらえて、欲しがってもらえて。羨ましいわぁ。』 「え…」 それは、どういう… 『…また、おいでな。』 ケーキの箱を渡すときに、頭に触れた手。 ぽんぽんと撫でると、もう一度笑った。

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【SWEET・11】 疲れたときに求めてしまう甘さがケーキのことじゃないと気づいてしまうのは、それからすぐのこと。 【おしまい】 pic.twitter.com/syKCA7Ntk9

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