チョコレート粉砕機#4(終)
(前回までのあらすじ1:チョコを贈り合う季節に、輸送中の新兵器が奪われる。それは見えない兵器だった。犯人のアジトを突き止め奪還作戦を始めるが、すでに兵器は第三者の手に。それは見えない誰かの、見えない攻撃だった)
2015-07-18 16:38:41(前回までのあらすじ2:解決策が見つからないまま、見えない兵器による犯罪は続く。銀行が襲撃され、なすすべなく金品が奪われる。そこでエリオとミヒルはチョコが溶けるという異常に気付く。そして、見えない兵器の弱点が明らかになったのだ)
2015-07-18 16:41:20(前回までのあらすじ3:見えない兵器の弱点から犯人の行動を予測し、そして事件現場近くの詰所で偽憲兵を発見する。偽憲兵は見えない兵器を持ってデパートに逃げ込んだ。包囲が狭まっていく。逃げ場を失い、逃走する偽憲兵。事件は解決に向かっていく)
2015-07-18 16:45:36エリオとミヒルは衣料品売り場の階の上へと辿りついた。すでに客の避難は終わっており、辺りはがらんとしている。ただ、陽気なチョコレートソングだけが流れていた。「これは……」 その階層の装飾を見て驚いた。チョコレートフェア会場なのだ。そこらじゅうが、チョコレートだ! 99
2015-07-18 16:50:20会場の中心に火柱が立つ。エリオは息をのんだ。見えない兵器の異常起動だ。偽憲兵が……いや、テロリストの魔法使いがそこにいた。「どういうことだよ……どうしてなんだよ、最強の……絶対に見えない兵器じゃなかったのかよ!」 怒りに満ちた声で魔法使いが叫ぶ。 100
2015-07-18 16:53:46「絶対なんて、誰にも分からない。それこそ、見えないものだ。完璧なものなんてあるはずない。あると信じているのなら、それは妄想だ」エリオはチョコを棚から掴み取り、魔法使いに向けてかざす。あっという間にチョコは手の中で溶けていく。さらに強くなる炎! ミヒルはようやく銃を抜いた。 101
2015-07-18 16:56:42「2級憲兵ミヒルより、帝都魔法ネットワークへ。発砲の許可を申請します」 返事は銃の安全装置の外れる音だ。銃声3発。全て魔法によって防がれる。いつまでも防ぎ続けることはできないし、テレポートを防ぐだけでいい。階下から憲兵たちの声。さらに銃声3発。やはり防がれる。 102
2015-07-18 17:01:17獣のような叫び声をあげ、炎を纏い突進する魔法使い。何か大がかりな魔法を使うつもりだったのだろうか、彼は魔法ネットワークに捕捉され、一瞬にして塩の柱となって絶命した。ミヒルは銃を下ろす。終わったのだ。見えない兵器はいまだ燃え続けていたが、火は弱くなっていた。 103
2015-07-18 17:04:232月の帝都は風が冷たく、唇が乾燥してすぐ切れてしまう。エリオはルーデベルメ工廠の研究室にいた。隙間風に負ける程度の暖房は信用していない。タオルにくるまれた携帯湯たんぽは机の下で優しく足を温めてくれる。エリオは別の特殊兵器の開発に移っていた。 105
2015-07-18 17:13:08結局見えない兵器の開発は中断された。例の事件で露呈した致命的欠陥。チョコ……というよりはチョコの中にある成分がステルス結界に反応して異常発熱する現象は解決が難しかったのだ。人生の全てをかけたと思ってはいたが、実際に瓦解すると案外受け入れられるものである。 106
2015-07-18 17:14:33見えない失敗、見えない挫折。それはあらゆる未来に確実に存在する。それは死ぬまで見えないままだったり、偶然露見したりする。未来は見えない。地雷原を歩くように人生は進んでいく。エリオは切れた唇を舐めて潤した。微かな血の味。それは挫折の味ではない。 107
2015-07-18 17:18:15どうせ挫折するか分からないなら、何度でも繰り返せばいいのだ。そのうちいくつかは、偶然挫折せずに完走できるだろう。チョコの糖分は見えないが、確実に栄養になる。失敗の数は何も残さないように見えるが、栄養になっている……そうエリオは思って次の発明に取り掛かった。 108
2015-07-18 17:21:43ミヒルは憲兵の詰所にいた。また憲兵庁の内部で配置換えが起こり、ミヒルは詰所のボスに任命された。同じ配置に1年以上勤めた記憶が無い。混乱することばかりだが、それもいつしか慣れていく。例の見えない兵器騒ぎから1年がたち、街は再びチョコだらけになってしまった。 109
2015-07-18 17:33:21例の騒ぎでミヒルはエリオと知り合い、半年もたったころ交際が始まっていた。初めてのチョコレート祭り。ミヒルはエリオからチョコを貰えることを期待していた。ミヒルは少し不満だった。エリオは研究が忙しく、デートすらまともにできない。 110
2015-07-18 17:38:03「もう2月も半ばだってのに何のアクションもないんだから……」 夜が更け、シフトの交換の時間になる。詰所を出たミヒルは、驚いて立ち止まる。寒い中、エリオが待っていたのだ。「ごめん、遅れちゃって。研究が長引いていてね」 そう言ってチョコの箱を渡す。 111
2015-07-18 17:42:26「きっと素晴らしいものが完成したんでしょうね」 「ああ、でも少し悲しいんだ」 エリオは目を伏せた。何かを言おうとして、思いとどまる。「俺の作品は秘密なんだ。君にすら、その存在を明かすことは許されていない。とても、とても凄いものを……」 「いいのよ」 112
2015-07-18 17:44:23「見えなくても、私には分かるんだから」 そう言ってミヒルはエリオの頬にキスをした。エリオは照れて、短く礼を言って歩き出す。「急いで店の予約を取ったんだけど、大丈夫だよね」 「ええ、もちろん!」 そう言って二人は並んで歩いていく。 113
2015-07-18 17:46:42