怪談乱舞第一回・一夜目(@mudlotus個人ログ)『冬の蛍』

深泥蓮根@🍊🍵🍋 @mudlotus

@kai_bsr 子供の頃、家の中で蛍を観た事がある･･･と、言ったら笑われるだろうか。 無理もない。 なにせ私の実家は、アメリカの中でも寒いところで、冬には池も湖も凍り、子供たちがスケートに興じるのが風物詩となっている、そんな土地なのだから。 #kaidan_rnb

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@kai_bsr だが本当なのだ。 広くて薄暗い家の中で、真夜中、トイレに起きたときなんかに、 黄緑色の小さな光がちら...ちら...と蠢くのを、私はこの目ではっきり見ているのだ。 普通の白熱灯や、蝋燭や、蛍光灯なんかとは明らかに違う、仄暗い、小さな点を。 #kaidan_rnb

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＠kai_bsr それは季節を問わなかった。 一年のうち、ほんの何度か、夏だろうと冬だろうとお構い無しに、見えるのだ。 不思議なことに、飛んでいるのはいつも二匹だけだった。 二つの小さな光が、ほぼ等間隔を保ちつつ、薄暗い中を、つーっと駆けていくのだ。 #kaidan_rnb

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@kai_bsr 不思議なことをもう一つ挙げると、その蛍のつがいーつがいということにしておこうーは、 イースターの卵の隠し場所、ハロウィンのかぼちゃ提灯の横、クリスマスツリーの足元･･･ 要するに、子供が喜ぶような物が置いてある場所によく現れるのだ。 #kaidan_rnb

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＠kai_bsr だから幼い頃の私は、そういう子供が喜ぶような行事が、いつもほんの少し怖かった。 お菓子やプレゼントが貰える時に限って、そんな不気味なものが付きまとってくるのだから。 しかも、それは大人たちや、遊びに来た友人たちには見えていないらしいのだ。 #kaidan_rnb

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＠kai_bsr そんな年月が何度か過ぎた後のことだった。 私は、学校で、とある国のことを習った。 それは私の住むアメリカと最も関係の深い国の一つで、私にとってはそれは、 兄が乗る、ちみっこくて乗り辛いけどガソリンを食わないバイクの国、だった。 #kaidan_rnb

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@kai_bsr ちなみにその兄というのは、既に家を出て、遠くの、雪の降らない街の大学に行っていた。 そのバイクに乗った自分と恋人の写真を、自慢げに送ってきたものだった。 #kaidan_rnb

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@kai_bsr その友好国は、意外なことに、ほんの数十年前、アメリカと一時期戦争をしていたのだという。 向こうのほうが人口も少なく資源にも乏しいのに、全くよくやるよという話だ。 若い飛行機乗りが、自爆覚悟で突っ込んで来るのが本当に恐ろしかったそうだ。 #kaidan_rnb

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＠kai_bsr その国は、乏しい資源と少ない兵力の割にはかなり手強く抵抗したものの、 何度も空襲に遭った挙句、当時開発されたばかりの新型爆弾を落とされたこともあり、ついに、降伏したという。 その頃には、国中ボロボロで、国民は皆痩せこけていたそうだ。 #kaidan_rnb

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@kai_bsr 戦争に負けたその国は、しばらくの間、戦勝国に占領された。 占領軍のお偉いさんは、当時の国民を扇動し、こんな無茶な戦争に駆り立てたもの･･･およびそれに関係するものを、総て取り締まろうとしたそうだ。 具体的には、宗教とか、伝統的な思想とか。 #kaidan_rnb

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＠kai_bsr 自分の命も顧みずに突っ込んで来るような若い兵士を作ったのは、その国の伝統的な思想・道徳によるものが大きかったそうだ。 その基礎になったのは、かつてその国で、常に武器を持ち歩くことが許された、とある階級の心構えだったといわれている。 #kaidan_rnb

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@kai_bsr 主君や領土、家系や名誉を守るためならば、個人の感情も未練も捨てて、自らの信じるもののために身を尽くす。 常に己を厳しく律する。 それが、彼らの気風だとされていた。 そして、彼らの持っていた武器は、その魂の象徴とされたのである。 #kaidan_rnb

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＠kai_bsr そんなものがあるからあんな忌々しいことをしでかしたのだ、 取り締まってしまえ･･･ということで、当時まだその国に沢山残っていたその武器を、 占領軍の権限で大々的に召し上げていったという。 立派な年代物も、粗悪な安物も、お構い無しに。 #kaidan_rnb

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＠kai_bsr ちなみに現物だけではなく、その武器を使った立ち回りが見ものの娯楽映画なんかも禁止された。 とはいっても後にその禁は解かれ、挙句の果てにはそんな映画の筋を借りた西部劇が作られたりもしたそうな･･･なんて知ったのはずっと後になってからだ。 #kaidan_rnb

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＠kai_bsr その話を聞いた時、私はなんだか呆然とした気持ちで一日を過ごした。 ちみっこいバイクの国が。いつかテレビで見た、丸っこい顔の電車の国が。 少年の格好をしたロボットが飛び回る漫画映画の国が･･･ と思いながらその日はベッドに就いた。 #kaidan_rnb

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@kai_bsr その数日後、私はハロウィンの仮装の材料を探しに家の倉庫を漁っていた。 確か、軍人だか騎士だか、そういうのの衣装を作ろうとしていたのだと思う。 スポンジの剣なんかでは満足できず、もっと箔の付きそうな小道具を持ち出そうと考えたのだ。 #kaidan_rnb

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＠kai_bsr 全くバカな話だ。 いくら、人より狐や熊のほうが多い場所に住んでいたとはいえ、さすがにハロウィンの仮装ごときに銃を持ち出すなど、許されるはずもない。 結局諦めて、スポンジの剣に、絵の具で錆っぽい色を付ける程度で手を打つことにした。 #kaidan_rnb

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＠kai_bsr その夜。 作りかけの絵の具つきスポンジ剣を乾かすために広げたまま寝ていた私は、ふと眼が覚めた。 また、あの蛍だ。 スポンジ剣の周りをうろうろしている。 慌てて寝返って目をそらすと、不思議なことに、声が聞こえてきた。 (･･･違うよぅ) #kaidan_rnb

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＠kai_bsr 私は息を詰めて耳をふさいだ。 それでも声は続く。 (こんなところに錆なんか出ないよ。何も知らないんだなぁ) ･･･え? そーーっと寝返りを打ち、顔を手でふさぎ、両手の指の間からそちらを伺う。 蛍は刀の数十センチ上で止まっていた。 #kaidan_rnb

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@kai_bsr しばし息を殺してうかがっていると、しばらくじっとしていた蛍はすうっと少し飛び上がり、つーっと部屋から出て行った。 気のせいか、普段よりも動く気配が重かった。。 あくる朝スポンジ剣を見ていると、塗った絵の具が汚くなっていた。 #kaidan_rnb

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＠kai_bsr (え･･･何これ･･･もっと丁寧に塗ったはずなのに･･･どうしよう) しかし、気味悪く思いながらもその汚い絵の具を手直ししてみると、 ただの絵の具付きスポンジが、昨日までとは見違えるほどに、ボロボロの金属に見えた。 #kaidan_rnb

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＠kai_bsr 長いこと倉庫に転がされていたような、錆と刃こぼれの浮いた、年代物の剣に。 その年のハロウィンの仮装はやたらと褒められた。 剣だけが。 鎧は新品なのに、剣だけは家に代々伝わる伝説の武器を持ち出したようだ。とからかわれた。 #kaidan_rnb

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＠kai_bsr そうこうしてるうちにクリスマスが近づいてきた。 その年は、学校のクリスマス会で劇をやることになった。 ちょっとした昔話の劇で、私は王様を守る兵士の一人の役になった。 あるいは、ハロウィンの(剣だけ妙に立派な)仮装が効いたのかもしれない。 #kaidan_rnb

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＠kai_bsr 脇役とはいっても剣を振り回す真似ぐらいはするので、少し練習するように、と言われた。 学校で通り一遍の稽古をした後、家に帰ってからも自分の部屋で、件のいい感じに時代のついたスポンジ剣を振ってみたりした。 自分でもまぁこんなもんかと思えた。 #kaidan_rnb

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＠kai_bsr いつの間にか部屋も暗くなっていて、電気をつけようとしたその時、 (全然なってない) あの声だ。 ぎょっとして辺りを見回すも、部屋には自分しかいない。 と思ったら。 戸棚の上に、 テディベアの横に。 二つの、黄緑色の。 #kaidan_rnb