「時をかける少女」の放送も終わって日付も変わったので、「バケモノの子」の感想でも描いてみようかな。まとまるかわからないけど。
2015-07-18 00:10:09まあ最初に「バケモノの子」の感想を村上春樹風にまとめると 「まったく、もしもアカデミー賞に『長編アニメーション9~17歳男子および中年熊男生活描写部門』というものがあったら、君は30年連続でオスカーを獲得するだろうな」 「羊なしでね?」 「羊なしでだよ」 というような映画でした。
2015-07-18 00:16:22正直言って導入部の印象はあまり良くなく、何しろ映画が始まるやいなやナレーションが延々と「この世界の設定」の説明をすべて言葉でやりはじめた時は面食らいました。その説明に登場する「宗師」という言葉一つ取っても「どういう字を書く、どういう意味なのか」という説明一切なしで「ソウシ」のみ。
2015-07-18 00:20:30「まあ君たち、当然日本テレビが社運を賭けてプッシュしている前宣伝番組と先行リリースされたボクの小説は読んで予習してきた前提で授業をはじめるけども」という特進コース的スタンスに「あれ、細田監督はもしかして若干調子に乗っていらっしゃるのかな」と思ってしまったのは否定しがたい事実です。
2015-07-18 00:24:56そんなこんなで導入部はしばらくがたつきます。母親を交通事故で亡くした主人公の少年が一人で生きていくことを決意し、バケモノの世界に入って行く描写と演出もスムーズとは言いがたい。そもそもが相当に無理のある世界観だから。でもこの映画、後半になるほどだんだん良くなっていくんだよね。
2015-07-18 00:30:51良くなるのは熊男のバケモノ「熊徹」が主人公の少年に「九太(九歳だから)」という名前をつけてはじまる同居生活の、それもちょっと経ってから。「ん~細田監督、単に最初からコレが描きたいがためにああだこうだ異世界設定をのべたり意味もなく本家の親戚を悪者にしたりしてたわけですね?」という
2015-07-18 00:36:13僕は細田守監督のことを「情報化社会の中で人間はどうしたら人生のリアリティを回復できるのか」ということにずっとこだわっている監督だと思っていて、サマーウォーズではそれを「田舎」、おおかみこどもでは「育児」、そして時をかける少女では「時間」に求める。一番上手く行ったのは「時間」かなあ
2015-07-18 00:41:32そして今回の「バケモノの子」で「現代社会の外部」を委託されるバケモノの世界というのは簡単に言えば「父性」ということになると思う。おおかみこどもが(擬似的な)母性についての「お母さんごっこ」の映画だったように、バケモノの子は父親を離婚で失った少年が幻想の異世界で父代わりを探す映画。
2015-07-18 00:48:05ただ細野守監督の恐ろしいところは「息を飲むほど繊細な感情表現」と「アゴが外れるほど粗雑な社会認識」が一つの作品の中で奇跡のごとく同居しているところで、それがひとつ間違えた時には本当に目もあてられないことになる。特に「おおかみこども」では「え~と、子供の人権は?」というような部分が
2015-07-18 00:53:30ぶっちゃけ「おおかみこども」はあの花という主人公の大学生の女の子が擬似的な子育てシュミレーションをして生の実感を取り戻すという映画であって、なぜ「彼氏も子供も狼なのか」というとそれが現実の人間ではない虚構のシュミレーションだからだと思う。ただそれが演出としてグダグダな部分がある。
2015-07-18 00:57:15物語をジェットコースターに例えるなら「花ちゃん号」にうまいこと乗れた、感情移入できた観客には「おおかみこども」は最高の感動映画なんだけど、その他のキャラ、特に「雪ちゃん号」に乗った日には「なあ細田、今地上30mから垂直落下したんだけどお前オレを殺そうとしたよな?」という映画になる
2015-07-18 01:03:28ただ今回の「バケモノの子」に関しては主人公の少年視点というのがはっきり固定される分、そういうのはないかな、と。安彦良和先生が「バケモノの子」を「近代社会に見捨てられた子供がヤクザの世界で育てられて、そして社会復帰する物語」として語ったけど、すごく的確な解釈だと映画を見て思いました
2015-07-18 01:08:43この映画が父性の映画なんだな、とわかるのは、主人公の蓮が離婚した現実の父親と再開し、バケモノの熊徹との間で揺れ動くところ。現実の父親は熊徹と正反対の、暴力性を欠いた近代的なリベラル男性なんだよね。その優しい近代的父親と、異世界の幻想の父性の間で主人公の少年は激しく迷い、苛立つ。
2015-07-18 01:15:38主人公が17歳に成長したあたりからはこの映画はさらに良くなる。というか、やはりこの世代の思春期の迷える少年少女を描く時の細田監督というのは本当にわけのわからない謎の才能が発揮される。やや唐突に登場する感のあるヒロイン、広瀬すずが声を演じる高校生の楓も非常に存在感がある。
2015-07-18 01:23:04ショートカットで黒髪で真面目、というまあ「よくあるベタな理想のタイプね」というキャラ造形ではあるんだけど、この子が理想のタイプに見えるのはこの子の父親が自分の娘を自分のベタな理想にカタをはめて育てたからであって相当に面倒なことになってますよ、という所まで描けてる。ような気がする。
2015-07-18 01:27:50「神は細部に宿る」という言葉がありますが細田守監督の神はなぜ細部にしか宿らないのでしょうか?とりわけ社会意識や現実認識に関してはなぜ神どころかしばしばぬらりひょんとか泥田坊的な妖怪が宿ってしまうのでしょうか?と言いたくなるくらい蓮と楓のシークエンスはいいと思う。壁ドンは狙いすぎ。
2015-07-18 01:33:32最終的に主人公は小学生からの近代社会ブランクをとりもどし、高認試験を経て大学を志望するところで物語は終わるんだけど、これはおおかみこどもの冒頭のシークエンスの男女とほぼ同じなんだよね。近代社会から一度外れた少年がもう一度近代のレールに戻ることを決意するという。ここ見て満足しました
2015-07-18 01:41:02まあ映画として問題がないのかというと演出その他いろいろ破綻してるところはいくらでもあるんですけど。特にテーマとして「胸の剣が胸に空いた穴を埋める」というモチーフとか。あなたは三島由紀夫ですかっていう。でもなんというか、「少年映画」としては捨てがたい魅力のある作品だと思いました。
2015-07-18 01:46:40あと特筆するのは俳優陣の声の演技が素晴らしいです。特に役所広司さんの熊徹に関してはもう色々シーンとして無理のあるところをほとんど力業の声の説得力で乗り切っている部分がたくさんありました。アニメにおいて人間の声ってやっぱりすげえなと思う。
2015-07-18 01:50:30実を言うと予告編を見て勝手に期待していた「バケモノ=他者と人間=近代の対立と和解」という内容ではなかった部分もあったんだけど、これはこれでなかなかいいかなと思えるような映画ではありました。おしまい。
2015-07-18 01:54:58「バケモノの子」についてまだ余韻が残っていて色々考えるんだけど、特に物語の中で「心の闇」を背負う一郎彦というキャラクターについて。蓮と楓のキャラクターデザインや動作描写が実写ベース的に描かれるのに対して、一応同じ人間であるはずの一郎彦はすごくアニメキャラ的に描かれている。
2015-07-19 08:11:26声優も蓮(九太)と楓は染谷将太と広瀬すず(九太幼少期は宮崎あおい)という実写俳優が演じるのに対して、一郎彦は宮野真守さんというアニメ界トップ級の人気声優が演じる。クライマックスでは「一郎彦vs蓮(と楓)」という構図で心の闇をめぐる戦いが展開する。個人的にここが一番心に残っている。
2015-07-19 08:19:43もちろん「屈折したものと真っ直ぐなものの戦い」というのは大衆エンターテイメントの王道であって、『真っ直ぐなもの』が勝つに決まってはいるんだけども、その色分けに非常に細田監督のスタンスが出ているような気がしました。それは蓮と楓の青春シークエンスの描き方と表裏一体のものである気がする
2015-07-19 11:07:14個人的にはこの「ストレートな青春と虚構文化の対決」という構図には「小沢健二vsサブカルチャー」という懐かしい記憶が甦ったりして。意味不明だったら申し訳ないですけど。この細田監督のストレート志向的な部分が、彼の映画が設定の破綻や演出の無理をねじ伏せて大衆的にヒットする理由なのかなと
2015-07-19 11:10:39