「ナイト・オブ・アイアン・アンド・ブラッド」

Ricardo Berenguer @entry_yahhoo

◇K@R@TE Entertainment◇

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鹿屋基地司令室。鹿屋基地における指揮官である長官の居城にして、嘗て戦場となった部屋。長官はこの日、己が居城で座しながら、酷く緊張していた。手汗が滲み出てくるのを自分でも感じていた。もしや、深海棲艦の一群に踏み込まれた時よりも緊張しているのかもしれない。長官は内心そう自嘲した。 1

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「それで…今回はどのようなご用件で…？」恭しく、長官は問うた。眼前に立つ女性に。「そうね」灰と黒に赤と白のラインの入った特徴的な衣装を身に纏った金髪碧眼の美女は、東の窓から入り込む陽光で勝気な美貌を輝かせながら答えた。そのバストは豊満である。「宿毛湾に用があってね」 2

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「宿毛湾に？」「えぇ、弟子がいるのよ。そこに」「成程」長官は深く追求しなかった。自身の隣に立つ電が不安げな顔でこちらを見た。粗相は許されない。何故なら今、目の前に居るのは…「で、連絡船に乗せて欲しくてね」「その位でしたら、お安い御用です」「Dankeschön」美女は笑った。 3

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「ですが、連絡船が出るまで暫く時間があります」「そう？」「えぇ、ですので」長官は電を見た。「彼女に基地内を案内させましょう。騒がしいところですが、何もしないよりは気が紛れるかと」「お心遣い感謝するわ、Großadmiral」美女は一礼した。電がおずおずと美女の傍に近寄った。 4

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「い、電です…よろしくお願いします」「あら、こんな可愛らしいFräuleinに案内してもらえるなんて、嬉しいわ」美女は電の頭を撫で、朗らかに笑った。「では、失礼するわ」「行ってきます、長官」美女は電を連れ、司令室から退室した。「フゥ…」長官は深く息を吐いた。額から汗が流れる。 5

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廊下から電と美女の足音が聞こえなくなる。「イヤーッ！」天井の一部の壁が開き、上から忍者めいて一人の少女が降り立った。「白雪君」長官は少女の名を呼んだ。「上からの情報は」「特に彼女の発言と矛盾はありませんでした」白雪は淡々と答える。 6

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「武勲によって彼の国の軍上層部から休暇が認められ、それを利用して日本にやってきたそうです」「弟子と、言っていたが」「心当たりがあります」白雪は言った。「もし彼女が、私の知る少女の師ならば、彼女の発言に一切の嘘は無いことになります」「本当に、私事で日本に来たのか」「そのようで」 7

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「焦った…何か国際的な取引でもしに来たのかと思ったよ…」「だとしても前線支援基地たる鹿屋に来る理由はありませんよ」「だとしても、さ」長官は弱弱しく笑った。「彼の英傑“鉄血騎士”に失礼があったとなれば、私も鹿屋も危ないからね」「そうですね」白雪は敢えて、淡々と受け答えた。 8

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「何も、無いといいんだがね」長官は備え付きの飲料水をコップに注ぎ、一気に飲み干した。 9

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「ナイト・オブ・アイアン・アンド・ブラッド」

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鹿屋基地内グラウンド。今この地には、多くの訓練兵達が集まっていた。皆、一様に同じ赤いジャージを着込み、一様に青褪めた顔をしていた。空は青天ではあるが、まだ日射病になるほどの日差しではない。皆至って健康である。…では何故？ 10

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答えは、彼らの眼前に立っていた。「今回は基礎訓練ですが…」紅いジャージを身に纏った神通が訓練生達を前に今回の訓練内容を説明していた。神通はこの鹿屋基地の教官。至って普通の光景であるはずだ。…不自然なまでに、ニコニコと笑っていなければだが。 11

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「皆さんの訓練なのですが、先日の抜き打ち体力テストでカラテ方面が全体的に悪いという結果が出てしまいました」神通は言う。訓練生達の顔が更に青褪める。「これは由々しき事態です。『ノーカラテ、ノー艦娘』と言う格言もある通り、カラテは艦娘にとって重要です」 12

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「そう言う訳で、今回は特別講師をお招きしました」神通は隣に居た男を、蒼黒の甲冑を纏った男を、訓練生達が強いて視界に入れようとしなかった男を紹介した。「リカルド提督です」「そう言う訳だ」リカルドは訓練生達を見た。「よろしく頼むわ」「「は…ハイ」」「声が小さい！」「「ハイ！」」 13

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「まずは基本的な面から見ていきたいな…二人一組！」「「ハイ！」」訓練生達が立ち上がり、二人一組になる。「3分」リカルドは指を3本立てた。「組手始め！」「「イヤーッ！」」グラウンドが一瞬でカラテシャウトによる喧騒に包まれる。リカルドは訓練生達の周囲を回りながら、その様を見た。 14

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「イヤーッ！」「イヤーッ！」「イヤーッ！」「イヤーッ！」勇ましい声が轟く。リカルドの視線は油断無く全ての訓練生達を見た。やがて、リカルドは訓練生達の周囲を一周し、3分が経過した。「それまで！」訓練生達のカラテシャウトよりも大きく、リカルドの声が響く。「全然ダメだな」 15

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訓練生達の間にざわめきが広がる。「そんなカラテでは実戦で使う前に死ぬ」リカルドは訓練生達を見竦める。「基本からやり直せ！カワラ割りからだ！」「ちょ、ちょっと！」訓練生達の中から抗議の声が上がる。「何だ？」「基本からやり直す必要があるほど私達軟じゃないわ！」声の主が前に出る。 16

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「それにカラテなんて。私達の武器は主砲と魚雷と艦載機でしょ？カラテなんて非効率なものいらないわ！」「ほう」リカルドは面白そうにその訓練生を見た。「活きの良いはねっ返りがいるじゃないか」「何よ！」「構えな」リカルドは威圧的に言った。「えっ」「もう一度言う。構えな」 17

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「艦娘とやり合おうっての？」訓練生は信じられぬ物を見たと言わんばかりに言った。「上等じゃない！イヤーッ！」訓練生は跳び掛かった！ハヤイ！常人では反応に遅れる速さだ！彼女には自信があった。船魂を憑依させ、超人となった自身の身体能力に！「イヤーッ！」右ストレートを振るう！ 18

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「イヤーッ！」「ンアーッ！」だが、気が付けば訓練生は背中から地面に叩き付けられていた。訓練生達がどよめく。神通が額に手を当てていた。「ゲホッ…何が」少女は起き上がろうとした。何が起きたかも理解できずに。「その程度か」リカルドは挑発的に言った。訓練生の表情が屈辱に歪む。 19

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「何よ…イヤーッ！」屈辱に身を任せ、訓練生は再び跳び掛かる！今度は右回し蹴りだ！ハヤイ！彼女は直撃を確信した。だが！「イヤーッ！」リカルドの左腕が、蹴りを受け止めていた。訓練生は目を見開いた。「嘘…私が先に蹴ったのよ！？」「つまりお前が遅いってことだ…イヤーッ！」 20

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「ンアーッ！」チョップ突きが訓練生の眉間を叩き、彼女は再び倒れた。「まだ…」少女はなお攻撃しようとした。リカルドが既に彼女を跨ぐように立っていた。「イヤーッ！」リカルドのカワラ割りが、訓練生の左横に落ちた。訓練生達は目を見開いた。その拳は地を砕き、幾分かめり込んでいた。 21

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「ア…ア…？」訓練生は唖然と、己の左真横に落ちた拳を見た。「カラテが不要だと言ったな」リカルドは拳をゆっくりと引き上げた。「違うな。カラテは重要だ。海上での身体制御。クロスレンジでの体捌き。上陸した深海棲艦への対応。全てカラテあってこそ成り立つ」リカルドは訓練生達を見渡す。 22