黄昏町(柊)五日目

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@hiiragi_r_t_d

【五日目】 【魂8/力3/探索3】 【異形】複口(力+2、探索+1)、長指(力+1、探索+2) 【持ち物】犬笛(一度だけ町にいるプレイヤーの助けを呼べ、応じてもらえれば結果を無視できる/死亡で消失) #hollytk

2015-07-26 23:59:30
@hiiragi_r_t_d

直射日光を避けてガラクタ山の東側で眠っていたので起きるのが遅れてしまった。 夕暮れが続くこの町では物の東側というのはいつまでも光の当たらない陰の部分だ。 ひんやりと涼しく、薄暗い空間は押入に似ている。 01 #hollytk

2015-07-27 00:00:31
@hiiragi_r_t_d

「さて、と…」 一晩(?)過ごして分かったが、ここは必ずしも暮らしやすい場所ではない。 いくらトタンや傘で防水しても、後ろのガラクタ山から露が染み込んでくるのだ。 それにゴミ捨て場だから清潔とはいいがたい。 もう少し良い住環境を求めて旅に出ることとしよう。 02 #hollytk

2015-07-27 00:01:39
@hiiragi_r_t_d

持ち物は謎の笛だけ。 暇つぶしのお供に腕の口にはネジを一本放り込んでみた。噛み砕かないように手加減をしながら口の中で転がす。 03 #hollytk

2015-07-27 00:02:22
@hiiragi_r_t_d

それなりに疲れたので民家の陰に座り込む。 空はもう半分ほどがターコイズブルーに染まり、夜が近い事を示していた。 今日の収穫は特になし。そこらへんの民家に住めばいいのでは?という考えが頭をもたげる。 05 #hollytk

2015-07-27 00:03:58
@hiiragi_r_t_d

確かに私の腕にある口なら、大抵の鍵は噛み砕けるだろう。しかし、それはしたくない。 何故したくないのだろうか?死んでも死なないようなこの町でなおも倫理を守る意味とは? …………やめよう。疲れるだけだ。 06 #hollytk

2015-07-27 00:04:37
@hiiragi_r_t_d

カン、カン、カンと物音がする。 ひさしの上を誰かが歩いているのだ。 バケモノを想起した私は息を殺し、身を潜める。 07 #hollytk

2015-07-27 00:05:18
@hiiragi_r_t_d

「早く上がってこいよ!」 「急いで落ちたら危ないだろうが。お前もバケツを持って登ってみるか?」 良かった。人間らしい。子供の遊びか? 私は安堵のため息を吐き出すと彼らに話しかけるために立ち上がった。 「おーい!そんなところに登ってるとあぶな」 ばしゃり。 08 #hollytk

2015-07-27 00:06:18
@hiiragi_r_t_d

え? 何が起こったのか理解ができない。 いや、分かる。私を一目見た少年たちは害虫を見つけた主婦のような顔をして、手に持っていたバケツの中の液体を私めがけてぶちまけたのだ。 明らかな害意による攻撃。揮発した液体から立ちのぼる独特の匂い。ガソリンだ。 09 #hollytk

2015-07-27 00:07:11
@hiiragi_r_t_d

あれは間違いなく人間だ。この町に来て初めて会ったバケモノのような威圧感を少年たちは持っていない。すなわち、異形を持っていない。 ならなぜ?何故彼らはガソリンを私にかけた? 10 #hollytk

2015-07-27 00:08:15
@hiiragi_r_t_d

私の唖然とした顔を満足気に眺めながら少年の一人が懐からマッチ箱を取り出す。 「よぉ、これ分かるか、バケモノ」 「え…バケ、モ…ノ……」 彼が何を言っているのかが理解出来ない。 彼は誰に向かって話しているのだ?ここにバケモノはいないのに。 11 #hollytk

2015-07-27 00:10:51
@hiiragi_r_t_d

未だ状況を飲み込めない様子の私に苛立ったのか、屋根の上の少年は更なる言葉を投げつける。 「だから!そこでボーッとつっ立ってるテメエに言ってんだよ!このバケモノめ!」 もう一人の少年が冷たく言い放つ。 「今からアンタには燃えてもらう。バケモノには当然の報いだ」12 #hollytk

2015-07-27 00:12:26
@hiiragi_r_t_d

「違っ……私はバケモノでは…」 「違わねえだろう?その腕!俺の親父を殺した奴と同じ腕ッ!」 ああ、彼らは誤解しているのだ。私はそんなことはしていない。 「そんな事をした覚えはない!」 「知るか!バケモノはみんないつか人を殺す!」 「殺さない!私は!誰も!」 13 #hollytk

2015-07-27 00:13:50
@hiiragi_r_t_d

「ッ………今更何を言ったって無駄だ!俺は絶対にテメエを火ダルマにしてやる!」 ああ、駄目だ。 彼らの過去に何があったのかは知らないが、得もないのに問答無用で殺すだなんて狂ってる。 誤解を解くことは不可能。 ならどうにかして逃げなくては。 14 #hollytk

2015-07-27 00:14:34
@hiiragi_r_t_d

走って逃げるのは間に合わない。気化したガソリンは既にかなり広範囲に広がっている。逃げ切る前に宣言通り火ダルマにされるだろう。 どうにか……どうにかしなくては!火は嫌だ!他の殺し方なら溺死でも感電死でも受け入れよう。だが炎は…炎はマズイ! 15 #hollytk

2015-07-27 00:15:13
@hiiragi_r_t_d

私の懸命の努力を嘲笑うように少年はマッチを擦った。 「これをポイ!でテメエはオシマイだ。分かるか?バケモノ」 「や……やめ………」 火を、そして避けようのない「死」を認識した私の思考が完全に停止する。 16 #hollytk

2015-07-27 00:16:46
@hiiragi_r_t_d

「ほらもっと叫べよっ!やめてください私が悪かったですってさぁ!」 「罪を償え。お前達の命で。」 「嫌…いや……うう…あ……」 「チッ、壊れちまったかぁ?テメエらには死ぬまで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで、苦しみぬいて死んでもらわなきゃならねえのによぉ…」 17 #hollytk

2015-07-27 00:18:46
@hiiragi_r_t_d

そうか……私はもう「あちら側」には、いられないのか。 バケモノに殺され、人間に拒絶されて……私はこの町で、一人ぼっちだ。 一人きりのバケモノもどき。仲間を探して歩き回っても、結局一人きり。 無意識のうちに握りしめた左手の中には、あの笛があった。 18 #hollytk

2015-07-27 00:19:35
@hiiragi_r_t_d

そうだ。この笛は遠吠えだ。いくら歩き回っても見つからなかった「同類」に出会うための、手段。 ならば私は吠えよう。たとえそれが月に向かって吠える孤狼の儚い夢だったとしても、喉が嗄れるまで、この命がある限り吠えてやろうではないか。 19 #hollytk

2015-07-27 00:20:16
@hiiragi_r_t_d

ピイィィィィィィィ……ピィィィィイィィィィ……… 20 #hollytk

2015-07-27 00:21:28
@hiiragi_r_t_d

力強く、物悲しい音色が黄昏の町に響き渡る。 「おい、あれなんだ?」 「…あれは多分、仲間を呼んでるんだと思う。早く始末しよう」 「仲間ァ?何人来ても同じだろ!全員燃やしてやるぜ!」 「それに」と少年は顔を歪める。 「誰も来なくて絶望してる顔も見てえしなぁ」 21 #hollytk

2015-07-27 00:22:16
@hiiragi_r_t_d

ピイィィイィィィィ…………ピィィィィイィィィ……… 私は焦っていた。 笛を鳴らし始めてから、急速に笛から何かが抜けていくのを感じる。笛の中にあるなにかを消費して、この音は奏でられているのだ。 おそらくあと30秒も鳴らせば音が出なくなる。その前に誰か…… 22 #hollytk

2015-07-27 00:23:10
@hiiragi_r_t_d

ピイィィィィィイィィィィイ………ピイィィィイィィイィィィィ……ピイィィィ……ピィィ………………………シューッ、シューッ。 虚しい呼吸音を吐き出す笛を握ったまま、私は虚空を見上げる。 諦めたか?否。 壊れたか?否。 23 #hollytk

2015-07-27 00:24:02
@hiiragi_r_t_d

音に聞こえずとも、目に見えなくとも、強大な「圧」がこちらに向かって全速力で向かってきている事を私の腕の異形が教えてくれたのだ。 私の遠吠えに、答える者があるのだ。 私の見立てではあと数秒。 24 #hollytk

2015-07-27 00:25:09