【ミイラレ！第九話：学校の魔女のこと】（原文のみ）

鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

【ミイラレ！第九話：学校の魔女のこと】 #4215tk

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黄昏時の空の下、鬼女と悪魔が睨み合い、悪魔の後ろでは魔女が笑う。いかにも幻想的な風景。しかしそれを見上げる通行人はここにはいない。すでに異界の内だからだ。鬼女は油断なく相対する二人の怪異を観察する。部屋からわずかに感じられた視線の主は、この二人に相違あるまい。1 #4215tk

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魔女の前で黒い翼を広げ、殺気立った目でこちらを睨むのは悪魔。退魔師の情報が正しければ、名はトリル・クロスロード。自分から見てもその霊気は圧倒的。正面からぶつかっては、勝てるかどうか。……ついで巡は背後の魔女に視線を移し、眉をひそめた。妙な気配だ。2 #4215tk

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「私の顔になにかついてる？」おどけた態度で魔女が問う。「そうですねえ、仮面がついているくらいしかわかりませんが」巡は軽い口調で答える。道化を模した仮面の後ろで、魔女がくすくすと笑った。鬼女は眉根を寄せる。あの魔女、どうにも霊気の質が掴めない。3 #4215tk

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「何の用だ、虫ケラ」威圧的な態度で悪魔が唸る。仁王立ちのまま空中で静止。「わざわざ死ぬためにケンカ売りに来たのか？」「いえいえ、喧嘩だなんてとんでもない」にこやかな笑顔で巡は両腕を軽く上げてみせる。「不穏な気配がしましたんでねえ、見に来ただけなんですよう」4 #4215tk

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「へぇー！あそこからでも見てるのがわかるんだ」魔女が感心したように言う。「すごいんだねぇ」「昔からの妖怪を舐めてもらっちゃ困ります」悪魔から目を離さぬままに返答。「いえ、こちらもまさか『学校の魔女』殿とは思いませんでねえ。よければちょいと時間をいただけませんか」5 #4215tk

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「お話のお誘い？それは光栄！」魔女が弾んだ声を上げる。「面白いお話を聞かせてほしいなぁ」「怪談の類でよろしいんなら、いくらでも」飄々と返す巡の心中は、穏やかではない。悪魔が放つ重圧がいつ本格的になるかもわからぬからだ。「ですがその前に、少しご提案ができればと」6 #4215tk

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魔女が小さく首を傾げる。視線で促され、巡は先を続けた。「どうですかねえ。一度、うちの若旦那の元に御足労願えませんか」その言葉に、悪魔がわずかな反応を見せる。成る程、たしかにあの少年に執着があるか。それを視界の端に捉え、彼女は魔女へと視線を向ける。7 #4215tk

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「彼のところに？」「ええ、そうです。うちの若旦那はお優しい方でね、あまり切った張ったはお好みではないんで。ちょうどいい機会ですんで、少し話し合いの場を持てればと」「なるほどなるほど。魅力的な提案だね。ねぇ、トリル？」笑みを含んだ声で魔女が悪魔に問いかける。8 #4215tk

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悪魔は答えない。暗い視線で巡を見据えるだけだ。「けど、そっかー……うーん、どうしようかなぁ」魔女がわざとらしく悩みのポーズを見せる。ややあってから、彼女はあっけらかんと答えた。「うん。悪いけど、今日はパスするよ」「なんですと？」思わず巡は眼を見張る。9 #4215tk

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正直な話、彼女にとっては寝耳に水だ。悪魔の事情も考えれば、乗ってくるものと考えていた。「今日はパス。だってさあ」魔女が笑う。くすくすと。「そうしちゃうと、すぐに話がついちゃうもの。そんなのつまらないじゃない？」その言葉と同時。巡の後方に新たな気配が現れた。10 #4215tk

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「チィッ！」巡は舌打ち一つ残し、電柱の上から飛び降りる。もう少し話を引き延ばせれば、このような無様を晒しはしなかったというのに。回転しながら落ちていく彼女は新手の怪異を視認する。右手だ。何者かの右手だけが宙に浮き、巡の首があった場所を貫いて虚空に消えた。11 #4215tk

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「わぁ、すごいすごい！今の避けちゃうんだ！」道路の真ん中に着地した巡を見て、魔女がはしゃいだ声を上げる。「雑な不意打ち仕掛けてんなよな」悪魔は不愉快そうな呟きを漏らすのみ。そのままこちらを見下ろしてくる二者を、鬼女は鋭い目で睨み返した。悪魔が翼を広げる。12 #4215tk

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が。「トリルの出番はまだ後だよ」臨戦態勢を整えた仲間を制したのは、魔女。「もうちょっと楽しもうよ。せっかくの機会なんだから。ねえ？」「……ふん」悪魔がつまらなさそうに鼻を鳴らし、腕を組む。なるほど、この二者では魔女の方が立場が上か？巡は推測する。13 #4215tk

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その間にも布石は撒いておく。相手に悟られぬように。「そうだねえー、次は……」考える素振りを見せた魔女が、ややあって大きく頷いた。「うん、晒野ちゃん行ってみよう。カモン！」魔女の呼び声と同時、近くの曲がり角から派手なエンジン音！巡はそこに新たな怪異の存在を察知！14 #4215tk

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道路に悲鳴を上げさせながらバイクが突っ込んでくる。巡はそれを紙一重で回避！交錯の一瞬、彼女は乗り手の姿を捉えた。全身を包帯で覆った怪人。丈の長い学ランをマントのごとく靡かせ、それは向かいの曲がり角へと消えていく。「ふぅむ」巡は顎に手をやり思案した。15 #4215tk

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その数秒後、全身包帯の怪異が先ほど消えていった曲がり角から再びバイクを駆って出現！しかし巡は動かない。今度は避ける必要もない……「おォッ！？」突如、包帯の怪異がつんのめった。バイクが突然停止したからだ。巡はにやりと笑い、バイクを……それに絡まる蜘蛛の糸を見る。16 #4215tk

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彼女が撒いていた布石がこれだ。姿を消した手先の蜘蛛を放ち、陣形を作らせていたのである。「ぎりぎり整ったってことかねえ」巡は宙に投げ出された包帯の怪異を見やる。怪異は巡を一睨みし、空中で姿勢制御。彼女の頭上を飛び越えて反対側に膝をついて着地した。17 #4215tk

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「すごいすごーい！」ぱちぱち、と場違いな拍手の音。見上げると魔女が楽しげに手を叩いている。「今の、どうやったのかなぁ？トリル、わかる？」「……使い魔に罠を仕込ませてたんだろ。小賢しい手を使う」淡々と答えた悪魔が、包帯の怪異を見下ろす。その瞳が苛立ちに鈍く輝く。18 #4215tk

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「まだやれるよな？あんなくだらない小細工で戦えなくなったなんて、ふざけたこと抜かすなよ」「やれる」首の位置を整えていた包帯の怪異が静かに答えた。立ち上がったその手には抜き身の刀。「斬る」構えた怪異を、巡は懐手のまま見つめる。その口に薄い笑みが浮かんだ。19 #4215tk

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「なるほど、『トンカラトン』。ぽっと出の若造」嘲るように声を投げかける。「その取れやすそうな首とあのバイクからして、『首無しライダー』も取り込んでいると見た。なかなかの虚仮威し。名前だけは聞いてやるよ」「晒野 忍(さらしの しのぶ)」構えたままに怪異が答えた。20 #4215tk

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包帯の怪異が滑るように斬りかかってくる。さて、どうしたものか？それを紙一重で回避しつつ、巡は思案した。倒すのはさほど苦労しないだろう。だが、この戦いには観客がいることを忘れてはならない。相手の規模がわからない以上、手の内を晒すのは避けなければならぬ。21 #4215tk

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(結局のところ、泥臭い真似をせにゃならんわけか)殺意だけを漲らせて刀の切っ先が迫る。わずかに横に動いてこれを躱し、一歩踏み込んで相手の腹に掌底を叩き込む！「ぐッ！？」包帯の怪異が体をくの字に曲げて苦悶した。巡は怪異の体を片腕で掴み、後方へ力任せにぶん投げる！22 #4215tk

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放り投げられた忍はそのまま道路へ墜落……しない。その体がぴたりと空中で静止する。「おおー」魔女が興味深げに声を上げた。どうやら見抜いたらしい。忍を受け止めたのが、巡が蜘蛛を使って張り巡らせていた網であることに。もがく忍の周囲に、青い炎を纏った小蜘蛛が出現する。23 #4215tk

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巡が放っていた小蜘蛛たちが包帯の怪異へ殺到する。そのまま食い尽くす算段！それを見てとった忍が獣のごとく唸った。怪異は無理矢理に刀を持った手を網から引き剥がす。包帯が剥がれ、濃緑色の肌が露出した。それに構うことなく怪異は刀を振るい、小蜘蛛たちを斬り捨てる！24 #4215tk