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立夏◎10/23COZZAでたよ。 @ritsu1125
即興小説深夜特急「家族の結晶」  終わりのない旅の果てに。  私の一番親しい友人から話を聞いたところによると、彼の姉が消えている、ということだった。  友人の言葉を正確に引用するのであれば「消えた姉が現れるようになった」ということになる。 #深夜特急24
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2:姉は自身が地元の中学を卒業した時から長い旅に出ている。目的地はここから随分と遠いのだと言う。 しかしその姉が友人の前にだけ、日が沈む前の数刻に限って彼の部屋に突然現れるようになったのだ。 #深夜特急24
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3: 彼の家族について: ・母ヒナ:保育園に勤務している ・父コウゾウ:印刷会社社長 ・姉サチエ:女学生。消えている ・弟:友人 #深夜特急24
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4: 姉のようなものの特徴: ・友人の部屋にのみ現れる ・実在の姉は遠いところに旅に出ているため戻ってくることができない ・見た目は姉と同じだがどこかが違う ・明確な見た目の相違点は不明 ・動く ・喋らないが、よく笑う ・食事をしない #深夜特急24
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5: ・友人と私は上記の「姉のようなもの」のことを「消えた姉」と呼び、実在の姉とは区別する #深夜特急24
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6:消えた姉は(あるいは姉のようなものは)、友人が学校から帰ってくると決まって友人の部屋の座椅子で彼を待っている。それから夕飯の時間になるまで友人と一緒に遊んでくれるそうだ。 ただ、遊ぶと言っても友人の部屋で思い思いに過ごすだけだ。 #深夜特急24
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7:たまにTVゲームで対戦することもあるものの、大概はそれぞれのお気に入りの漫画を読んだりだとか、そんなようなものだそうだ。 消えた姉といるとあっと言う間に時間が経つのだと友人は言う。 #深夜特急24
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8: 西窓の彼の部屋を落陽が濡らし始める頃、つまり夕刻の鐘が鳴り両親が帰ってくる時刻が近付くにつれ、まずは消えた姉の影は少しずつ短くなっていくのだった。  それは、影が延びて行く夕暮れの子供部屋の中で、消えた姉だけが影を持っていない風景である。 #深夜特急24
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9: いよいよ両親の足音が玄関に聞こえてくると、消えた姉(あるいは)はするすると自分の手の指を吸い込んでいく。それが消失の始まりの合図になる。  指は風を含んだ絹糸のように、柔らかな白いうねりになり消えた姉の口元へ吸い込まれていく。その口元は笑っている。 #深夜特急24
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10:手の指が終わると次は掌、肩となる。足の指、お腹もいよいよ飲み込んでいってしまったら最後には、まるで初めから姉などいなかったかのように友人の部屋から消えた姉すらも消えてしまう。 そうすると消えた姉がいた痕跡は一緒に遊んだプレイステーションの画面であるとか、 #深夜特急24
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11:もしくは開きの癖が残ったまま床に置かれた漫画雑誌とか、そんな散らばるものだけであった。 だが、散らばる痕跡の真中にいた存在はもうそこにはいない。友人の隣でムキになってゲームをしたり、漫画を読んで笑いを堪えて転がっていたり、 #深夜特急24
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12:ただ黙って友人のことを見つめていた姉のようなものはすっかり見えなくなる。 それらの段階がすべて済んでしまった頃にちょうど階下の玄関から「ただいま」と父と母の声が聞こえる。 #深夜特急24
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13:つまり彼の姉は二段階で消えるのだ。誰にでも見える実在の姉から友人にしか見えない消えた姉へ、そして消えた姉から、友人にすら不可視である本当の不在へと。 消えた姉と、彼女との夕刻までの遊戯は、そんな時限付き消滅過程とそれに付随する現象である。 #深夜特急24
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14: 実在と不在の間、昼間から夜の間。束の間に瞬く消滅。それが消えた姉だった。 私は彼の部屋を訪れ、消えた姉が好んで座るという座椅子に背を預けた。 彼の部屋は和室だった。新しい畳の爽やかな匂いがした。 #深夜特急24
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15: 彼の部屋について: ・和室 ・あるもの(少年ジャンプ、マガジン、プレイステーション3) ・ないもの(姉{実在}) #深夜特急24
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16: 彼と初めて会話らしい会話をしたのは一学期の理科の実験の時だった。 理科の実験は理科室で行われる。生徒たちは学期初めに定めた実験班に分かれ理科室の決められた机に座る。 実験の班決めだけは、他の授業とは異なるルールだった。 #深夜特急24
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17: 出席番号順で大抵代わり映えのないのが移動教室のセオリだが、理科室だけは様子が変わる。 同じ景色を私は退屈と感じた。しかし、同じものも分類のルールを変えれば全く違って見えてくる。 私は理科室の様子が好きだった。それは何より私の決めたルールだからだ。 #深夜特急24
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18: 私は彼の友人でありながら、同時に彼の学校の理科教師であった。   理科の班分けのルール: ・名前の総画数順 #深夜特急24
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19: 当時、理科の授業は元素記号に差し掛かっていた。それに合わせて実験では鉄を熱したり結晶を作ったりした。 理科の授業では生徒の理解を進めるために頻繁に実験と言う形態を取る。 #深夜特急24
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20:国語や算数に比べれば理科の方が目に見えるモノを扱っていると思うがそれらで実験がされるケースは聞かない。何故理科だけ実験を採用するのだろう。 国語の実験。想像だけで胸が踊るものだが。炎で炙ったり薬液を添付したり─そうやってこころを、取り出すことができたなら。 #深夜特急24
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21: 授業の後で実験に使用したビーカを洗いながら友人は 「姉さんは、俺の家の元素みたいなものなのかも知れない」と言った。 私は質問をする。 「あ、キミ、お姉さんいたの」 「いたよ」友人は言った。 友人は私を図書室に案内し一昨年の卒業アルバムを開く。 #深夜特急24
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22:友人が指す女性は足並みの揃わない八重歯と灰色の目元が彼に良く似ていた。姉は他のクラスメイトと明らかに違っていた。カメラに向かって微笑んでやろうと言う気概が欠片も感じられない写真であった。  「もう少し愛想よくすりゃいいね」と言って彼は笑った。 #深夜特急24
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23: 友人は多くの感情を笑うことで表現していた。それぞれの笑顔の表現に大した使い分けはなさそうだったが、私は私なりにそれぞれの笑顔の成り立ちを推察することができていた。 お姉さんはどの辺りを旅しているのか、手紙や電話は来るのかと尋ねた時も友人は笑っていた。 #深夜特急24
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24: 自分は遠いとしか聞かされていない。手紙や電話は届かない。彼は微笑みながらそう答えた。 つまりこの現状はやはり「姉が消えた」のではなく「いないはずの姉が消えた姉として現れた」なのだ。 友人と友人の姉との類似点: ・出っ張った八重歯 ・瞳の色 #深夜特急24
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25: 国語の実験: ・作者Aの気持ちをアルコールランプで熱した時に生成される結晶の名前を答えよ ひとつ訂正することがある。 私は卒業アルバムで姉の八重歯を見なかった。彼女は笑っていなかったのだから歯が見えたと思ったのは私の思い込みだった。 #深夜特急24
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「#演劇」

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