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深夜特急(白昼夢)「白球」

24:00~25:00までTwitterで即興小説を連投するひとり企画「深夜特急」 今回は(白昼夢)と名前を付けての番外編。午前中から夜中までぽつぽつと、書きためた事前に書きためたものをアップしました。
書籍 文学 Twitter小説 演劇 脚本 小説 バレーボール
立夏◎10/23COZZAでたよ。 @ritsu1125
深夜特急(白昼夢) 「白球」 彼女は眠っている間にたくさんの夢を見るが、目が覚めた瞬間に覚えていられるものは殆ど無い。その多くは目覚めた瞬間には鮮明に残っているのに朝方の電車に揺られる時分にはすっかり忘れている。 #深夜特急24
立夏◎10/23COZZAでたよ。 @ritsu1125
2 それが興味深い内容だったことだけが頭の片隅には残っているのだが、では実際の内容はとなると、深い沼の中を探るようにあてがなくなってしまう。ただ、いくつかのものは一日中頭に残っていて、一日忘れなかったものは年月が経っても忘れることがなかった。 #深夜特急24
立夏◎10/23COZZAでたよ。 @ritsu1125
3 それはタンスの引き出しの奥深くに仕舞い込まれていて、多少取り出すのに苦労するとしても。 そのひとつの夢の中で彼女はバレーボールの試合に出場しようとしていた。間もなくゲームが開始する。しかし彼女は直前のアクシデントで足を捻っていて飛ぶことができない。 #深夜特急24
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4 そのことは良く理解しているのだが相手方にそれを悟られると自分のチームが試合に負けてしまうので、演技をしながら出場しようとした。 夢の中で彼女は彼女自身ではなく、バラエティ番組でよく見る男性芸人だった。 ゲームが始まった。 #深夜特急24
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5 結局芸人は足のことをチームメイトにすら明かさなかった。芸人は自分の演技力に自信があったので試合中くらいであれば相手の目を欺けると思っていた(チームメイトですら然りだ)。だが彼の足は骨が抜かれてしまったように柔らかくなってしまっていた。 #深夜特急24
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6 やがてセッターが彼の上空にボールをトスする。踏切ろうとする直前に、飛べるだろうかと言う思いが彼の脳裏に過ぎった。 飛べるに決まっていると言う絶対の自信が彼にはあった。同時に、この足では物理的に飛べるはずがないと言う事実を客観的に感じていることも同時に認識した。 #深夜特急24
立夏◎10/23COZZAでたよ。 @ritsu1125
7 認識の狭間にボールが落ちてくる。踏み切った彼の足は軟体動物のように直角に曲がる。 #深夜特急24
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8 試合が始まる前彼は相手チームを挑発した。特別何かを言ったわけではない。だが、相手チームと会場の廊下ですれ違った時に前に立ちはだかって相手キャプテンの進路を塞いだ。それだけだ。それだけだが彼はその行為を挑発として行ったし、相手もそれを挑発と受け取ったはずだった。 #深夜特急24
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9 廊下はコートにほど近かったので試合の声援が彼らの両チームの耳にも届いた。その時はちょうど敗者復活の試合の最中だった。 敗者復活戦は幾つかの大会において決勝戦よりも盛り上がることがあり、彼の参加している地区大会においても同様だった。 #深夜特急24
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10 理由は、敗者復活で決定する地区大会三位と四位の間には都大会出場権の有無と言う圧倒的な差が生まれる為だ。地区大会と言うのは結局都大会予選のことだ。その都大会も言ってしまえば全国大会予選である。次に進む事を一番の目的にするなら、地区大会一位と三位は同じである。 #深夜特急24
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11 対して、四位以下は最下位と変わらない。つまり次に繋がるか繋がらないかの運命を決する敗者復活がこの地区大会の最も緊迫した試合であり、僅かに入ったマスコミも撮れ高を敗者復活のドラマに期待している。視聴者の望むドラマはいつも、勝者の背中ではなく敗者の背中だった。 #深夜特急24
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12 彼のチームは決勝に進んだ。仮に決勝で負け二位になったとしたところで都大会に進めることはすでに決定している。しかし彼にとって都大会の切符のありなしはさして意味が無い。彼が一番誇りを持っているのは自らの率いるチームが勝つことだった。正確には、負けないことだ。 #深夜特急24
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13 都大会出場も全国優勝もその主義の後に付いてくるだけのことだった。負けることは考えられなかった。勝つのは実力や努力の上になりたつのではない。勝つ資格のある者が勝つのだ。自分は勝者に相応しい存在だ、と彼は信じていた。 #深夜特急24
立夏◎10/23COZZAでたよ。 @ritsu1125
14 決まっているのだ、勝負は。試合の前から、結局のところ。試合とは決定済みの勝者と敗者の区別を念押しで立証するための儀式にすぎない。決してそれまでの努力の積み重ねを披露する為の場所ではない。彼は生業でテレビカメラの前に何度も立つ内にそれを確信していた。 #深夜特急24
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15 その確信のために敵チームのキャプテンの進路を塞いだ。道を塞がれたキャプテンはゆっくりと顔を上げて彼を睨みつけた。身長のために相手が彼を見上げる格好となった。彼はテレビで見るよりも背が高かった。 #深夜特急24
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16 TVに出ているタレントは総じて身長が平均より高いため、画面に映る彼は一般人と慎重さが然程ないように見える。彼が司会をしている番組には隣に女性アシスタントがいるが、彼女と彼との身長差は10cmもない。しかしその女性がそもそも180cmなのだ。 #深夜特急24
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17 第一、と彼は思う。自分は芸人として道化の仮面を被り、笑顔を絶やさず、分不相応に人に笑われることを演じている。スタジオで彼を笑って喜んでいる共演者や観覧者を心の底で彼は見下している。プライベートでの彼は自分の喜び以外のために笑うことはない。 #深夜特急24
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18 相手チームのキャプテンは彼を見上げ、それが自分がよく知っている人物であることにやがて気が付いたようだった。だが何処でこの背の高い男と知り合ったのがしばらくは思い出せない。しかしその靄もあっという間に晴れた。テレビだ。テレビで見たことがある。 #深夜特急24
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19 今自分の眼の前にいる男は日曜日の夕食の時間に習慣で見ているバラエティ番組の司会をしている男だ。それが何故自分の目の前に決勝戦の相手のユニフォームを着て立っているのか。 彼はそのような相手キャプテンの疑問を見て取った。せいぜい混乱すればいい。 #深夜特急24
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20 そのまま集中力に支障をきたし願わくば試合中も、そうして、それまでの過酷なトレーニングのひとつひとつや「もしかしたら自分たちは優勝できるのではないか」と言う芽生え始めた淡やかな希望を─彼は彼自身のプレーで丹念に─壊していけたら素晴らしい、と。 #深夜特急24
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21 「今日はコントの撮影か何かですか」相手のキャプテンが言った。「ですから、これはなんの真似でしょうか」 #深夜特急24
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22 今頃になって全てが思い出される。セッターのトスは完璧だった。ボールが自分の打点で一瞬停止するように狂いなくデザインされた軌道だ。ボールの向こう側に体育館の天井が見えた。曲がった足に痛みはなかった。ただゴムのような不気味な気配だけが彼の感覚野に伝わっていた。 #深夜特急24
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23 そしてまったく動かなかった。体育館の天井には大きな電灯がいくつも設置されていた。電灯の周りにはセロファンに似た虹色の破片が吹雪のように舞って光を散らしていた。あれは一体何だろうと彼は思った。そうして自分がアタックをしなければならないことを一瞬忘れた。美しい。 #深夜特急24
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24 自分の視点がボールからゆっくりと遠ざかるのを彼は認識した。それから僅かに遅れ、ボールが推力と重力の均衡を崩し彼に接近する。ボールは彼の視界を覆いつつある。彼の瞳に注がれる電灯の光線をボールが塞いでいく。視界が薄暗くなる。子供の頃に見た日蝕の事を彼は思う。 #深夜特急24
立夏◎10/23COZZAでたよ。 @ritsu1125
25 それは美しい光景だった。そこには見たこともない種類の光があった。それはあっという間に終わった。後には水を打ったような静けさが残った。 #深夜特急24
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「#演劇」

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