【まだ体温が】 福間健二 #2factory97
大学は静かだった。金持ちの子しか行かない学校みたいに。雨だけが抗議していた。最下等のたましいの暗喩にもならないボロ布を縫いあわせた装置は強気である。雨ニモマケズ、誤解する権利の乱用だ。アライグマくん、駅までの見送りとパトロール、お疲れさま。(まだ体温が1)#2factory97
2015-07-17 08:26:06爪とアート。どちらを隠すための穴だったか。その穴が見つからない。でも、あきらめてはいけない入り江だ。びしょ濡れの、ふたつの危険のあいだで生きる彼女たち。雨の舞台にいるのは、肌を見せるためでも笑顔をふりまくためでもない。バンドやりたいねん。(まだ体温が2)#2factory97
2015-07-18 09:11:10レッド、ブレス。煙の中からあらわれる夜警本部。気弱に育った男たち。ここではたいていの男がそうなのだが、その悪い例が集まって、水に映る月を、待つことに疲れた枝の先端のような指で、どうしたいのか。ひとりの女のシルエットを追うだけでは足りないのか。(まだ体温が3)#2factory97
2015-07-19 10:13:53美しい目をした人に会った。いま、何をしなくてはならないか。その目は語っていた。灰色の建物の入口。それを見つめていた。次に、ぼくは大勢の人間と一緒にいた。テーブルの上の、解凍されたパン。困ったね。魔法瓶のお茶、みんなに行きわたりそうにない。(まだ体温が4)#2factory97
2015-07-23 07:36:22だれの孫でも、だれの息子でも、布をしぼる。ばかなことを言い、ばかなことをして、滴、どうする。いばり放題の内輪にいても、小指の心臓を入れる口、なかに意地悪な舌が覗くのだ。つまり、舐められる。祖父や父の盗んだ素材と技術。その汁を吸ってるだけでは。(まだ体温が5)#2factory97
2015-07-24 10:08:05自信のなさといういびつな卵から扱いにくい怪物が生まれる。よくあることだが、舞台が大きいときは大変だ。実は、あやつられている怪物。いろいろとカンチガイして芸もうまくない怪物だから、痛々しい。人間のつくったもの。解くべき謎があるのは、それだけだ。(まだ体温が6)#2factory97
2015-07-25 12:16:44助けてください、助けてください、ジャックさん、とこいつらは言った。だから助けてやったんだ。ジャックは自分の殺した男と女を足で転がしながら言う。自分たちのクソのなかで溺れてるような穴底の毎日から救いだしてやったんだ。今度は梅干し入れなくていい。(まだ体温が7)#2factory97
2015-07-26 09:37:22出口はわかった。そう言ってこの世から消えていったやつらもいる。彼女は草のなかに落とした安物のイアリングの片方をいつまでも気にして、彼はぬかるみに足をとられ、さんざん悪口を言った。だれのかって、ひとりでいることに耐えられないすべての人間のだよ。(まだ体温が8)#2factory97
2015-07-27 08:47:09シモーヌは言う。この世界は閉じられている。それは壁です。拳で叩くしかない。でも音が通れば、通りみち。エミリーは言う。苦悩の顔が好き。それは本物。人はいつわらない。ケイレンと痛み。これも通りみち。怖がってはいけない。ぼくたちは歌いながら行く。(まだ体温が9)#2factory97
2015-07-28 10:40:40歌いながら。掃除機をかける革命詩人たちの、カオスに対抗する不屈さを思い出すのだ。まだ体温が。いいかげんにしてくれよと、どの窓の、酔いどれ出題者に言うか。大地の、小さな記号。人は恢復する。愛する者となって、対象への視線と呼吸 をひとつにして。(まだ体温が10)#2factory97
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