時雨さんの何か

探偵時雨さんの死んだ何か
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ろくせいらせん @dddrill

「『時雨探偵事務所』の名前の由来?うん……そうだね、僕が艦娘だった時の名前だよ」 「そう。白露型二番艦。よく知ってるね」 「探偵を始めた理由?昔から何故か、殺人事件に出くわすことが多かったんだ。気が付いたら探偵に……冗談だよ。本当は、提督を探すためかな」 「雨の日に失踪してね」

2015-07-22 20:18:45
ろくせいらせん @dddrill

「提督はどうなったかって?(目を伏せる)……まだ、見つかってないよ」 「遺書机から遺書が出てきんだ。おかしいよね、軍人ならみんな書いてるのに」 「……ごめん、それはちょっと言えないな。プライバシーとかあるし」 「……うん、おかしなことを聞くんだね」 「……帰ってくれないか」

2015-07-22 20:27:06
ろくせいらせん @dddrill

「インタビューの続き?僕はいいけど。この前とは違う人なんだね」 「……そうか。謹んでお悔やみ申し上げるよ」 「事件のことが聞きたい?守秘義務があるから、差し障りない範囲でいいなら」 「……あの村のこと?確かに、それなら話せるね。なにせ全員死んでいるから……嫌な事件だったね」

2015-07-22 20:36:22
ろくせいらせん @dddrill

「……うん、あの村のことだね。それにはまず、五月雨ちゃんのことを話さないと」 「ああ、僕と同じ事情だよ。艦娘の『五月雨』。僕が時雨だった頃に知り合ったんだ。勿論、血は繋がってないよ。昔は呼び捨てだったけど、本当は僕の方が幾らか年上だから」 「今は僕の事務所で働いてるよ」

2015-07-23 19:42:15
ろくせいらせん @dddrill

「……彼女の故郷だったんだよ」 「うん。僕らに家族なんてもういないけど。だからダム工事の話のせいで廃村になった、って彼女は今でも思ってる」 「だから、話すだけだ。もし記事にしたら、君になにがあっても僕は責任を持てない」 「……うん、わかってくれて助かるよ。水溜り?なんのことかな」

2015-07-23 19:46:14
ろくせいらせん @dddrill

「始まりは、今日みたいな雨の日だった。依頼の電話があってね。ううん……それは、無関係だったよ。ただ、予感がしたから断ったんだ。結局、探し人は翌日死体で……」 「話が逸れてる?ごめん。兎に角、電話が終わった後に来客があったんだ。時代遅れの編み笠と蓑を着込んだ、真っ青な顔の男だった」

2015-07-23 19:52:52
ろくせいらせん @dddrill

「……うん、人探しの話だったよ。思わず『またかい』って言っちゃったんだ。向こうはきょとんとしてた。そうしてるうちに五月雨ちゃんがお茶を運んできて、その人はまるで3日くらい何も飲んでないかみたいに飲み始めた」 「どうなんだろうね。『人探し』って言っても色々だから」

2015-07-26 00:21:23
ろくせいらせん @dddrill

「郷里の親が息子を探して欲しいって言ってる、って言われたね。もう歳だから、代わりに依頼するよう頼まれたんだって。こういう人探しは当時とても多かったんだよ。戦争が終わって間もない頃だったから」 「お金の払いは良かったよ。手付金で……これくらい。僕も久々に真っ当な仕事がしたかったし」

2015-07-26 00:29:05
ろくせいらせん @dddrill

「闇市がまだ沢山立ってた頃だから、聞き込みは困らなかった。公的な記録はあてにならなかった。戸籍の処理も曖昧だったし、僕達みたいな艦娘崩れもよくそこに付け込んで……ううん、なんでもないよ。忘れて欲しい」 「2日くらいで見つかったよ。場所は阿片窟だったけど」

2015-07-26 00:31:22
ろくせいらせん @dddrill

「ああ、戦中に軍が溜め込んでたやつ。どういう訳かそれが国内に入って、外国人が買い占めて流してたんだ」 「……うん、そういう噂もあるね。でも他所で言わない方がいいよ。艦娘のイメージを気にする人も多いから。僕の仲間に『海の運び人』が居たかは、ノーコメントとしか言えないね」

2015-07-26 00:36:33
ろくせいらせん @dddrill

「阿片窟で見つかった親不孝者の話に戻るよ」 「……だから、そっち話はダメだってば。轢死体で見つかることになるよ?」 「わかってくれればいいんだ。それで、ここが面白いところなんだけど、男は当然意識が朦朧としてた。でも、僕を見た途端に騒ぎ出したんだ」

2015-07-26 00:42:41
ろくせいらせん @dddrill

「最初は、僕が艦娘崩れだから騒いだんだと思ったんだけど。……うん、警察に再就職した仲間も沢山いるからね。どうやら違うらしいことがわかった。僕をお化けと勘違いしたみたいなんだ」 「うん、だからお化けの振りをして付き合ってやったんだよ。お皿を数えはしなかったけど」

2015-07-26 00:46:09
ろくせいらせん @dddrill

「こう、うらめしや~って。(笑う)怖いかい?」 「……うん、まぁいいよ。兎に角、幽霊のふりをしていると色々と懺悔し始めたんだよ。妹にしきりに謝ってたね。その時点で僕は事情を察したけど」 「わからないのかい?じゃあ、逆に質問するけど。艦娘はの『材料』はどこから来ると思う?」

2015-07-26 00:51:09
ろくせいらせん @dddrill

「うん、そうだね。孤児や障害を持った子供たちを『再利用』する。模範解答だ。でも、あれだけの戦争で。あれほどの艦娘が居て。本当にそれだけで足りたと思うかい?」 「……その顔は知ってる顔だね。そうだよ。海の上は、我が子に花を売らせるよりはマシな職場だった。それだけの話しだよ」

2015-07-26 00:55:04
ろくせいらせん @dddrill

「うん……珍しい話じゃ、なかったんだ」 「僕かい?僕は初期の組だからね。また話がだいぶ逸れているね。妹の話だ」 「青い瞳が似ていたらしくてね。うん……縁っていうのはあるものなんだなって思ったよ」 「察しのとおりだよ。だからそいつを、五月雨ちゃんに会わせる訳には行かなかった」

2015-07-26 01:03:31
ろくせいらせん @dddrill

「そういうわけで、僕はそいつを五月雨ちゃんの眼に入らないように送り届けなきゃいけなくなったんだよ」 「どうしたのかって?暇を出しても良かったんだけど、怪しまれると思ったから。しばらく泊まりで調査に出かけるって伝言だけして、ホテルをとったよ。結局そのぶんは赤字だったね」

2015-07-26 22:51:35
ろくせいらせん @dddrill

「……問題は移動手段だったよ。その時は、汽車の切符を押さえるのが本当に一苦労だったんだ。手帳を片っ端からひっくり返して、昔の伝手をたどって……結局、元艦娘で運輸省のお役人と結婚してた人が居たから、どうにか都合して貰えた。随分嫌われたよ」

2015-07-26 22:57:31
ろくせいらせん @dddrill

「後から考えてみれば、色々おかしな話さ。その時に気付くべきだったんだ。『奴ら』の目的がなんだったのか」 「だから退役した艦娘の特集が組みたいなら、まず厚生省を通してくれって言ってるだろう?……まぁ、僕も大概余計なことを喋りすぎたと反省してるよ」 「うん、わかってくれればいいんだ」

2015-07-26 23:02:02
ろくせいらせん @dddrill

「場所は知っての通り、東北の山奥の小さな寒村だった。勿論、先に電報で確認したさ。向こうは連れて来いの一点張りだったよ」 「別に。廃人みたいになっても息子は息子ってことなんだろう、って思ったよ。僕達には親の記憶なんて無いから、よくわからないけど」

2015-07-26 23:06:03
ろくせいらせん @dddrill

「まぁ、何処からお金が出てるのか不思議には思ったね」 「その辺は仕事だから。好奇心は猫を殺すって言うだろう。君も、肝に銘じておいた方がいいよ」 「そうだね、余計なお世話だったね。兎に角、汽車でそいつを送ることになったんだ。これも傑作なんだけど、新婚旅行のふりをしたんだよ」

2015-07-26 23:10:08
ろくせいらせん @dddrill

「長距離の列車は、まだ空いてる方だった。たしか特急がまだ復活する前だったから。時間はかかったけど。向かいの席は、大きな荷物を背負ったお婆さんでね。小さな箱を大事そうに抱えていた」 「会話は殆ど無かったよ。向こうは気を遣ったんじゃないかな。逃げないように手を繋いでたし」

2015-07-27 23:00:20
ろくせいらせん @dddrill

「禁断症状の心配はそんなに無かったよ。旅先でそんなことになったら大変だからね。面白くもない話だから省いたけど、数日間ホテルの部屋で柱に縛り付けて、耳元で囁いてたら『治った』よ」 「……ひどいことを言うね。僕だって一応傷付くんだよ?それに、探偵の仕事は薬物中毒者の治療じゃないし」

2015-07-27 23:06:46
ろくせいらせん @dddrill

「特高の拷問はそんなものじゃないよ」 「答えられない。一応軍機だからね。五月雨ちゃんも同じさ」 「……温厚な僕もそろそろ怒るよ?」 「うん。長い話だからいい加減退屈なのはわかるよ。道中の話はざっくり飛ばそう」

2015-07-27 23:12:32
ろくせいらせん @dddrill

「何も無かったよ。顔だけはよくみると美男子だったけど。あと……少しだけ、五月雨ちゃんに似た匂いがしたかな」 「さあね。今となっては確かめようも無いことだよ」 「……電車の後は馬。馬の後は結局歩きだった。雪深いところでね。外套は持っていたけどそれでも寒かったよ」

2015-07-27 23:20:52
ろくせいらせん @dddrill

「コートは陸軍の放出品でね。丈をだいぶ詰めてあった。山道は向こうの方が流石に郷里だけあって歩き慣れてる様子だったよ」 「意外と大きな家だった。他に十軒ばかりある集落で……うん、後からわかったんだけど、地主の家だったんだ」 「うん。後は依頼料をせしめて帰るだけだと思ったんだけどね」

2015-07-27 23:29:06