【矢矧と鎮守府の怪談】

いろいろ考える矢矧bot（かわはぎ @Sakawalove_YHG

さてさて改めてこんにちは、矢矧よ。 こうも蒸し暑い日が続くと嫌になるわね、なーんて話をしていたら皆で夏の怪談大会をやることになったわ。それも「じゃあ今からね」よ？　ほんとに急よね。　#矢矧と鎮守府の怪談

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ルールってほどじゃないけど、やり方も決めたわ。お話は実話・脚色・創作・即興怖いと思えばなんでもあり。ともかく話すネタのある娘が話すの。それが終わったら参加者に点数をつけてもらうわ。ああ、もちろん皆にはわからないようにね。　#矢矧と鎮守府の怪談

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別に律儀に百物語なんてする気もないし、皆いきなり今話せるわけもないから適当なところで切り上げるわ。そうしたらそこで点数を集計して、一番高得点だった艦娘が優勝。賞品はおいおい考えましょうかね。　#矢矧と鎮守府の怪談

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ああ、提督？　提督は「俺が階段から転んだ時の話だがな……」なんて言い出して別の意味で寒くなったから、お帰りいただいたわ。　#矢矧と鎮守府の怪談

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ろうそくや暗幕を用意して雰囲気は出そうと努力してみたけど、実際どれくらい恐い話が出るのかしらね……。駆逐艦の娘も参加したいって言ってたけど、そういう意味では余り怖がらせたくないから怖くないくらいがちょうどいいのかしら。　#矢矧と鎮守府の怪談

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ともかく、夏のちょっと特別な夜に、ちょっと特別な演出……私も考えてみたの。楽しんでもらえると嬉しいわ。 それじゃあね。　 *つづく* #矢矧と鎮守府の怪談

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部屋に暗幕を張って、ろうそくを立てて。草木も眠る丑三つ時、顔を突き合わせる艦娘たち。さあ、誰からいくの？ 「では、私から行きましょうか」 #矢矧と鎮守府の怪談

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浜風『犬の話』 最初は、私からですね。 この司令部に配属される前、私、浜風のいた司令部の話になります。 #矢矧と鎮守府の怪談

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先に言うと恐い話というよりは不思議な話かもしれません。 その司令部では犬を飼っていました。拾った柴犬。名前は韋駄天壱号、でも略して韋駄天と皆は呼んでいたわね。名づけ主？　私ですが何か。……何か！？ #矢矧と鎮守府の怪談

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韋駄天は、鎮守府に迷いこんでいた犬を、たまたま見かけた提督が哀れんで拾ってきたものでした。首輪がなくて身元不明というのもあって、持ち主がわかるまで預かる予定がなし崩しでそのままペットになった形です。 #矢矧と鎮守府の怪談

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韋駄天は人懐っこくて、すぐに人気者になって。私もよく世話をしてこう……頭の先から尻尾まで撫でていたものです。でも一番可愛がって傍にいたのは私……浜風ではありませんでした。 #矢矧と鎮守府の怪談

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龍驤でした。あの人が本当によく韋駄天を可愛がっていました。 #矢矧と鎮守府の怪談

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話が前後しちゃうけど、なぜ韋駄天と言う名前なのかというと逃げ足が早かったからです。すぐどこかに行ってしまう犬で、誰も追いつけなかったんです。よく私や龍驤が探すことになったのだけど、なかなか見つからなくて。 #矢矧と鎮守府の怪談

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でも龍驤によく懐くようになってからいつも龍驤が見つけてくるようになりました。だから世話も彼女に任せることが多くなりましたね。本当に龍驤と韋駄天はいつも一緒にいました。もちろん韋駄天がどこかに行ってないときですが。 #矢矧と鎮守府の怪談

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何度も言うけど、本当に龍驤は韋駄天を可愛がっていました。本当に……。それがあんなことになるなんて思いもしませんでした。 #矢矧と鎮守府の怪談

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ある日、こちらで預かっているらしい犬を返してほしいと言う人がきました。ブリーダーさんだったみたいですね。あの得意の逃げ足で出奔したそうです。それで近場にあった私達の鎮守府に身を隠したみたいです。 #矢矧と鎮守府の怪談

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ちょっと特別な事情でブリーダーさんのところにお預けしてる犬だったらしいんです、韋駄天は。だから本来の持ち主に返さなければならないという事情があったんですね。#矢矧と鎮守府の怪談

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妙にいい毛並みだったから、血統書つきだったのかもしれないですね。さらに言えばもともとの持ち主は軍令部のお偉いさんだったみたいです。 #矢矧と鎮守府の怪談

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捨て犬でもなかったし、こちらも勝手にペットにしていたので返さなければとなりました。私もちょっと抵抗はしたけれど、事情が事情だったから……皆もそうでした。でも、龍驤だけは絶対に譲りませんでした。 #矢矧と鎮守府の怪談

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……それでも、その日はやって来ました。韋駄天が連れて行かれる日。その日、韋駄天は何かを察したのかやはり司令部から逃げ出し鎮守府のどこかに身を隠したみたいでした。私と龍驤がまた探しに出たのですが、韋駄天の持ち主のお偉いさんが来る時間は刻一刻と迫ってきます。 #矢矧と鎮守府の怪談

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もう間に合わないかもしれない、というところで龍驤が泥まみれになってやって来ました。その手には暴れる犬というより泥団子のような生き物が居ました。相当無茶して捕まえたのだなと思いました。 #矢矧と鎮守府の怪談

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泥を落とす時間もなく私達は韋駄天を檻に入れて司令室まで直行しました。私達と犬の様子を見て軍令部のお偉いさんは顔をしかめましたが、事情を説明してわかってもらいました。 #矢矧と鎮守府の怪談

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そのときバツン！　と音がしました。半開きだった司令室の戸から泥団子が転がるように出て行きました。ちゃんとしめたはずの檻だったのですが、留め金がもろくなっていたのかしら、兎も角、ここまできてまた逃げられてしまったんです。 #矢矧と鎮守府の怪談