暗黒日記（２）

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予は将来、こうした無責任なる論者を指弾すべき責任を持つ。世界において斯くの如き幼稚愚昧な指導者が国家の重大時機に、国家を率いたることありや－僕は毎日、こうした嘆息を洩らすのを常とする。　昭和19年3月10日

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家内が嶋中婦人に聞いた話-真也君が世田ヶ谷の連隊に這入ったが、毎日擲られて顔の形ちが変った由。雪駄の裏で打つので生きずがたえぬということで、「地獄というかそれよりもグッと悪い」といったとの事。　昭和19年1月13日

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近頃、米国の攻勢を「焦って短期決戦を狙う結果だ」と言っているものが多い。そしてこれは米国の弱点の露出だというのである。これはまた自慰である。米国は最初から一九四三年の暮から攻勢を開始するといっていたではないか。　昭和１８年１２月１０日

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予に、もし専門あらば「米国」と外交についてである。世の約三十冊の書籍がそれだ。然るに米国を対手とする戦争において、予の言は全く封れて、国家に尽くす方法はないのである。その上に予の糧食を断つべく政策が行われている。かくて如何にして国内を動員できるのであるか。　昭和19年1月9日

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反枢軸軍はイタリー本土に、二日夜上陸作戦を開始した。ベルリン電報によると上陸兵力一個師団というが、その程度の兵力をどうにもできなくては、枢軸軍悲観の外なし。(...)東部戦線も悪くスモレンスク方面に激戦続く。世界大戦四周年目において、勝負は明瞭化した。　昭和１８年９月４日

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来るべき組織においては言論の自由は絶対に確保しなくてはならぬ。また議員選挙の無干渉も主義として明定しなくてはならぬ。官吏はその責任を民衆に負うのでなくては行政は改善出来ぬ。　昭和19年4月30日

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旅行中にクエゼリン、トラック両島の勇士玉砕を知った。その中に石橋湛山君の次男和彦君も居った筈。(...)和彦君は実にいい青年だった。　昭和19年3月8日

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紀元節だ。朝日さやけし。ああ、天よ、日本に幸いせよ。日本を偉大ならしめよ。皇室を無窮ならしめよ。余は祖国を愛す。この国にのみ生まれて、育ちて、死ぬ運命に結ばるのだ。　昭和１８年２月１１日

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日華事変六周年である。朝のラジオは「支那をあやつるのは米英である。蒋介石のみが取り残され、支那民衆は日本と共にある」といったことを放送した。この考え方は日支事変六周年を経て、まだ日本国民の頭を去らないのである。　昭和１８年７月７日

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午后の夕刊にて中野正剛の自殺を知る。僕は大東亜戦争勃発に続いてのショックを受けた。(,,,)僕はかれを憎んだ。かれの思想をが戦争を起したのである。だがかれの自殺を見て、僕はその罪を許してやる気持ちになった。けだし僕も日本的伝統心深く持っているのである。　昭和１８年１０月２７日

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晩、国民学術協会に出る。僕が「日本の現状は、これが普通なのか、悪いところが出ているのか」というと、和辻哲郎が「ウオースト」だという。三木清君は、国民の知的レベルが低いからだという。　昭和１８年９月１１日

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戦後問題に関する研究をなすように石橋君から頼まれる。書けない問題があるので困る。しかし日本も、あらゆる場合を考えて、自由に研究するような空気ができなければ、国家は危ない。現状は、左様な空気の結果だ。　昭和１８年９月６日

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「評論」という文字は、役人に対し「評」というのは怪しからんというので「言論報国会」としたそうだ。そして僕のところへは通知も参加状もこない。　昭和１７年１２月９日

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「中央公論」の小説「細雪」は評判ものだったが、掲載を中止した。「決戦段階たる現下の諸要請よりみて、或は好ましからざる影響あるやを省み、この点遺憾にたへず」と社告にある。　昭和１８年５月２４日

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反枢軸軍はイタリー本土に、二日夜上陸作戦を開始した。ベルリン電報によると上陸兵力一個師団というが、その程度の兵力をどうにもできなくては、枢軸軍悲観の外なし。(...)東部戦線も悪くスモレンスク方面に激戦続く。世界大戦四周年目において、勝負は明瞭化した。　昭和１８年９月４日

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精神主義の限界はある。精神に徹せよ、といっても、徹した後にいかにするかの具体的方法がなくては何にもならぬ。それで今行つまった。　昭和１８年４月３０日

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不思議なのは「空気」であり、「勢い」である。米国にもそうした「勢」があるが、日本のものは特に統一的である。この勢が危険である。あらゆる誤謬がこのために侵されるおそれがある。　昭和１８年６月２７日

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産業報国会の調査では男十三貫のものは一日千四百カロリーこれに通勤に要するカロリーを入れて一日千六百カロリーだ。然るにこれに対し現在の配給は一日千四百カロリーだ。　昭和１８年１１月９日

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玉砕主義は、この人々の生命をも奪うであろう。それが国家のためにいいのであるか。この点も今後必らず問題になろう。もっとも一般大衆にはそんな事は疑問にはならないかもしれぬ。ああ、暗愚なる大衆！　昭和１８年５月３１日(アッツ島玉砕の報に接してキスカ島のことに触れて)

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全軍、自殺の道徳観が、インテリからは無論であるが、軍自体より検討さるる日が来たるであろう。それは自己の利害に最も強く対立するからだ。また国家的損失である。　昭和１８年７月３日

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軍神を多く出しむるなかれ。山崎部隊長、山本元帥、佐久間艇長、ハワイ九軍神、いずれも悲劇ならざるはない。それは戦いの劇しさを示す。　昭和１８年５月３１日

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瞭の話し。吉田大尉という前の先生が来ての話しによるアッツ島では人間の肉を食ったそうだ。人間の肉を食うと口がはれる。それを見て「人肉を食ったろう」と上官が聞くと「食いました」と答えるという。　昭和19年3月17日

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米国では、毎木曜日に戦後経営について討議する会合ができた由。日本では戦後の事を話せば、総てこれデフィーテストそして批難され、或は罰せられもするだろう。　昭和１８年３月２０日

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この日、尾崎秀実の死刑決定す。僕は一、二回会見しただけだ。かれは果してスパイだったろうか。それを肯定も否定もする材料はない。ただその資料が公開されないのが、遺憾である。　昭和１８年９月２９日

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汽車の中、道の目星いところに警官が出張り、一々荷物検査するそうだ。富山県では、米二升のため自殺するものもあったとのことだ。警官は泥棒を捕えるためではなしに、良民を捕えるためのものになった。事実、その方が楽でもあるのだ！　昭和１８年１１月８日