スガ小説まとめ

夏休み特別企画!菅波栄純さん( @SuganamiEijun )のスガ小説をまとめました
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菅波栄純THE BACK HORN @TBHSuganami

#スガ小説 夏休み特別企画!明日から毎日夜11時に小説を投稿しまーす!5章からなる、100文字前後ずつ、全28回。北関東のとある町で、高校時代、軽音楽部の同級生だったダイチとカナデが久しぶりに集まるところから始まる青春小説!さてさてどんな物語になっていくのか。 #スガ小説...

2015-08-03 23:03:51

第1章

菅波栄純THE BACK HORN @TBHSuganami

#スガ小説 1-1「ダイチ、おばあちゃんの四十九日行けなくてごめんね」。カナデは僕のグラスにビールを注ぎ、指についた泡を何気なく舐めた。「気ぃ使わせて悪いね。葬式の時はありがと。あれ、先輩はまだ?」黒髪をかきあげ、電話のジェスチャーをするカナデ。なんか、こいつ色っぽくなったな。

2015-08-04 23:03:28
菅波栄純THE BACK HORN @TBHSuganami

#スガ小説 1-2「あたし、おばあちゃんのとうもろこし、好きだったなぁ。ってごめん。しんみりするよね」。いや、もう平気と言いかけた僕の後ろで、ドスの効いた声が聞こえた。「ダイチ!久しぶりだなあ、おい!」年季の入ったジョンレノン仕様のサングラスを外し、ジョー先輩がドカッと座った。

2015-08-05 23:04:38
菅波栄純THE BACK HORN @TBHSuganami

#スガ小説 1-3「こっち帰ってきたからよ、親の世話しようと思ってよ。ライブの音響?続けるよ。ロックは俺の生き甲斐だ」。ビールを瞬く間に飲み干して「ダイチ、おめえもだろ」。と言ってギターを弾く真似をした。「もちろん、と言いたいとこなんすけど、最近は」。

2015-08-06 23:03:52
菅波栄純THE BACK HORN @TBHSuganami

#スガ小説 1-4 なーんだ、もったいねぇなぁっ、ジャカジャーンと振った手がモツ煮をひっくり返して、カナデが慌てて拭いている。その光景があまりに昔のままで吹き出してしまった。「カナデがな、お前が元気ねえからって電話してきてな。話は聞いた。大変だったな」。

2015-08-07 23:04:20
菅波栄純THE BACK HORN @TBHSuganami

#スガ小説 1-5 上手く返せずに僕は慌てて言った。「あの、そういえばケイコさん。なんか忙しそうっすね」。カナデが店員におしぼりをもらいながら、「あたしこの間久しぶりに電話したんですよ。コーラスの仕事か何か無いですかって。そしたらあの曲のデモテープ送ってって言われて」。

2015-08-08 23:02:38
菅波栄純THE BACK HORN @TBHSuganami

#スガ小説 1-6 僕が軽音時代にカナデに歌ってほしくて贈った曲だ。クラスの奴らには馬鹿にされたけど、カナデだけが大きな瞳をまっすぐ向けて、いい曲だねって言ってくれたっけ。先輩は急に神妙な顔をしてグラサンをかけ直した。

2015-08-09 23:03:03
菅波栄純THE BACK HORN @TBHSuganami

#スガ小説 1-7「実は、伝言を預かっている。君達・・・、メジャーデビューが決まったよ」。僕らは目を見合わせた。「しかもケイコがマネージャーだ!」えー!先輩は立ち上がり僕らの肩を抱き寄せて豪快に笑った。

2015-08-10 23:04:10

第2章

菅波栄純THE BACK HORN @TBHSuganami

#スガ小説 2-1 憧れの音楽業界は蓋を開けてみれば、生き残りを懸けた戦いの真っ直中だった。僕らのデビューも、売れなければ一回の契約で捨てられる、数撃ちゃ当たる捨て駒だった。

2015-08-11 23:04:38
菅波栄純THE BACK HORN @TBHSuganami

#スガ小説 2-2 東京のスタジオで会ったケイコさんは、戦場で心身共にすり切れた兵士の様にがりがりに痩せて、長い髪の隙間からのぞく目は冷たく光っていた。「久しぶり。ダイチ。あの曲のアレンジ、プロに頼んで変えといたから」。

2015-08-12 23:03:37
菅波栄純THE BACK HORN @TBHSuganami

#スガ小説 2-3 え、と言う間もなくスピーカーから聞こえたのは、爽やかなハウス系の音だった。「何これ。全然違う。ダイチのギターも入ってないじゃん、ね」。カナデが僕に意見を求める。

2015-08-13 23:04:04
菅波栄純THE BACK HORN @TBHSuganami

#スガ小説 2-4「あの、いやあ、さすがプロっすね。こっちの方がカナデの持ち味活かせますよ。これでいこうぜ、な」。は?という顔をするカナデ。「何それ。そんなのダイチらしくない」。と食い下がるカナデを無視して僕は宜しくお願いしますと頭を下げた。

2015-08-14 23:04:22
菅波栄純THE BACK HORN @TBHSuganami

#スガ小説 2-5 その後も人気ブロガーに意見を聞いて売れ筋の歌詞に書き変えたり、カナデのゴシップを捏造して話題を集めたり、ケイコさんの手口は、しかし確実にヒットを出した。ある日ふと、満員の山手線に揺られながら思った。

2015-08-15 23:03:12
菅波栄純THE BACK HORN @TBHSuganami

#スガ小説 2-6 もし東京の地下にぽっかりと空洞があるとしたら、それは多分、僕の心の穴だ。僕は売れることが唯一自分達を守る事だと信じようとしていた。人気が出るにつれて少しずつカナデも変わり始めた。

2015-08-16 23:03:17
菅波栄純THE BACK HORN @TBHSuganami

#スガ小説 2-7 心ない一部の書き込みをまるで全てのファンの意見のように感じて、軽い人間不信に陥っていた。あのぐらいの顔ならいくらでも代わりがいるとか、地元で売春してたとか。こんなの気にする事ないよね、と言いながら暇さえあればチェックするようになった。

2015-08-17 23:04:27
菅波栄純THE BACK HORN @TBHSuganami

#スガ小説 2-8 そんな中、事件は起きた。ネットを見てたケイコさんが「ダイチ、これ」。と言った。「カナデは父親に犯されて、その父親を兄弟で殺して埋めた」。は?何だこれ。「高校の時、噂になったじゃない。みんな不幸が大好きなのよ」。

2015-08-18 23:03:05
菅波栄純THE BACK HORN @TBHSuganami

#スガ小説 2-9 SNSに言葉が増殖して爆発的に溢れ出してゆく。僕ははっとした。まさか、ここまでするか。ケイコさんは黙っていた。それはカナデが楽しみにしていた、フェス出演の前日の事だった。

2015-08-19 23:04:23

第3章

菅波栄純THE BACK HORN @TBHSuganami

#スガ小説 3-1 中止もあり得る雷雨にも関わらず大盛況のフェスの喧噪の裏側で、僕らの楽屋は耳鳴りがするほど静かだった。五分だけ、と言ってスタッフに席を外させたカナデは、僕の目を見ずに「あたしたち、終わっちゃうのかな」。と力なく呟いた。

2015-08-20 23:04:27
菅波栄純THE BACK HORN @TBHSuganami

#スガ小説 3-2 ステージの方からサウンドチェックが聞こえてくる。「ふふっ」。急に笑うから僕は怪訝な顔でカナデを見た。「今思い出したんだけど。あたしがダイチを初めて見た時の事。

2015-08-21 23:04:23
菅波栄純THE BACK HORN @TBHSuganami

#スガ小説 3-3 放課後、誰か騒いでると思って屋上見たらさ、ジョー先輩とダイチが暴れながらギター弾きまくってた。すぐ先生に引きずられていったけど、夕焼けの逆光の中できらきらしてて、何か羨ましいって思った。自由だなぁって」。

2015-08-22 23:03:22
菅波栄純THE BACK HORN @TBHSuganami

#スガ小説 3-4 自由。そんな言葉、長い間ずっと忘れてた。いや忘れようとしてたのかな。ぐぅっと何かがこみ上げて胸が苦しい。ふいにケイコが楽屋のドアを開けた。「さ、楽しい音楽の時間だよ」。

2015-08-23 23:03:00

第4章