北欧の平和維持戦略

北欧諸国の歴史を遡って、それぞれの国がどのように戦争を避け平和を目指したか学ぶことができます。
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Flying Zebra @f_zebra
8月は戦争や平和について考える機会が多い。太平洋戦争終結から70年の節目に当たる今年はイベントなども多いだろう。平和について考えるのに戦争の悲惨さを語り継ぐ「だけ」では足りないという話を最近したが、少し生々しい話をしてみよう。
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日本のメディアではあまり紹介されることがないので明確なイメージのない人も多いと思うが、私にとっては個人的に馴染みの深い北欧諸国の国防に対する考え方を、2つの世界大戦以降の歴史を踏まえて紹介したい。直接参考になるものではないけど、それぞれの国が非常にユニークで興味深い。
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まずはデンマーク。ナポレオン戦争でフランスと同盟していた結果ロシアに敗れてノルウェーの支配をスウェーデンに奪われたり、プロイセンとのシュレースヴィヒ=ホルシュタイン戦争で領土を失った経験から、以降は中立を維持してなるべく周囲の大国を刺激しない道を選んだ。
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第一次大戦では中立を維持し、第二次大戦でも中立を宣言していたが1940年にナチスドイツから一方的に宣戦布告を受けた。ドイツにとってデンマークそのものにはそれほど戦略的価値があったわけではないが、イギリスに先に抑えられると困るので保護占領されたのだ。
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デンマークはユトランド半島がドイツと陸続きで、コペンハーゲンのあるシェラン島を含め全域がドイツ軍機の作戦範囲にの中に納まってしまう。しかも全土が平坦な地形のため防衛は難しく、組織的な抵抗をすることもなく開戦から数時間後に降伏し、ドイツの占領下に置かれた。
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現在もユトランド半島の海岸にトーチカが残っているが、これは駐留ドイツ軍が連合国の侵攻に備えるため築いたものだ。1944年にフェロー諸島、アイスランドが連合国軍に占領され、この年の5月に駐デンマークドイツ軍が降伏、結果的には大規模な戦渦に巻き込まれることなく開放された。
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この経験から自国の国力では単独中立は現実的でないと判断し、戦後は集団的安全保障を指向する。スウェーデンの提唱したスカンジナビア防衛同盟が頓挫した後は次善の策としてNATOに加盟した。EC(現EU)にも加盟しているが、ユーロには参加せず自国通貨クローネを維持している。
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デンマーク国防軍は法に定められたその目的に紛争と戦争の防止、デンマークの主権維持に加えて平和的開発の推進が明記され、平和維持活動などの国際的活動にも積極的に参加している。男子には兵役義務があるが良心的兵役拒否は認められ、必ずしも対象者全員が徴兵されるわけではない。
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18歳で受ける徴兵検査で合格すると「くじ」を引き、年度ごとの必要人員数だけが選ばれて訓練するという仕組みだ。私のデンマーク人の知り合いには徴兵検査不合格者や良心的兵役拒否を選んだ人はいないが、約半数は「くじ」で外れたため兵役を経験していない。
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兵役期間は4ヶ月(希望者は延長可能)で、私の知人(平均的デンマーク人からはかなり偏っている可能性あり)に関しては皆さん楽しそうに思い出を語っていた。私も住んでいた時に冬の寒い時期に野営訓練をしている一団を見たことがあるが、そこの若い兵士たちも朗らかだった。
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お次はノルウェー。デンマークと同じく中立を指向して第一次大戦では中立を守るが、第二次大戦でナチスドイツに占領される。デンマークと違って大西洋へのアクセスとしてドイツにとっての戦略的価値が高く、名目は保護占領ながら明確な意図を持って本格的な侵攻が行われた。
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歴史的にイギリスとの関係が深く、開戦後はイギリス軍が上陸して支援した。2ヶ月ほど抵抗した後、国王と政府はイギリスに亡命して抵抗を続けた。本国ではフランスと同じようにナチス傀儡政権が成立した。占領中、フィヨルドのUボート基地はドイツ海軍の重要な拠点となった。
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なお、占領下のレジスタンス活動ではドイツが建設していた重水プラントを破壊している。これはドイツの原子爆弾開発に大きな打撃を与え、アメリカが原爆開発で先んじることに寄与した。ちなみに、現在ノルウェーは発電用原子炉は持っていないがハルデンにOECDの研究炉がある。
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戦後は中立政策を改めて集団的安全保障政策を採用し、NATOの原加盟国となった。冷戦期はソ連と国境を接する最前線であり、軍事面ではNATOとの関係を重視した。しかしEC、EUには加盟せず、当然ユーロにも参加していない。通貨は今もノルウェー・クローネだ。
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デンマークと同じく平和維持活動には積極的で、多くの海外派兵実績がある。徴兵制もあり、ヨーロッパでは唯一女子も徴兵対象となっている(今年から)。女子の徴兵はイスラエルも実施しているが、ノルウェーの場合は兵力の確保と言うよりは女性の社会進出促進が主な理由だ。
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続いてスウェーデン。スウェーデンは北欧諸国の中で唯一、2度の世界大戦で中立を守り抜いた。北欧最大の軍事力と軍需産業を支える工業力を持ち、戦後も冷戦期を通して重武装中立を続けた。長らく対外戦争をしていないため日本では平和国家のイメージがあるようだが、世界に冠たる軍事大国である。
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とは言え、ナチスドイツやソ連と正面から戦って負けないだけの軍事力を常時維持してきたわけではない。中立を守るためには外交上様々な妥協を強いられ、中立政策については他国からのみならず、国内でも強い批判があった。必ずしも一致団結して中立を守っていたわけではない。
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特に昔から関係の深い隣国フィンランドに対しては、ソ連との冬戦争・継続戦争で存亡の危機にあったフィンランドを中立に拘った結果見捨てることになり、両国の関係に大きなしこりを残した。そのため、戦後はフィンランドに対する配慮もあってNATOとは距離を取っていた。
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冷戦中はデンマークやノルウェーを介してNATOと密約を交わし、有事にはNATO側で参戦することになっていたことが明らかになっているが、建前上は冷戦終結まで中立を維持していた。両大戦とも義勇軍を派遣したり、対独レジスタンスを保護するなど、軍事力を背景に独自の外交を展開している。
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平和維持活動にはやはり積極的で、私の知人も従軍したコンゴ動乱では戦死者も出している。10代の若者には過酷な戦場だったようで、彼自身もPTSDに苦しんだと言っていた。もういいオッサン、というか爺さんだが、愉快な爺さんで今も良い友人だ。
Flying Zebra @f_zebra
冷戦終結後は事実上中立政策を放棄し、1995年にEUに加盟した。ただしユーロには参加していない。現在も国力に比べ強大な軍事力を維持し、武器輸出も積極的に行っている。自衛隊の装備にもスウェーデン製のものがある。徴兵制を敷いていたが2010年に廃止された。
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ノルマン(北ゲルマン)系の国としてもう1国はアイスランドだ。デンマーク、ノルウェー、スウェーデンは現在も立憲君主制だがアイスランドは共和制だ。第二次大戦当時はデンマーク国王を君主とする立憲君主制(事実上デンマークの自治領に近い扱い)であった。
Flying Zebra @f_zebra
余談だが、デンマーク人は今もアイスランドをどこか自国の一部のように思っている人が少なくないが、アイスランド人はもちろん面白くない。アイスランド語は北欧諸語と共通ルーツながらルーン文字に由来するアルファベットを今も残すなどやや特殊で、その響きは非常に美しい。
Flying Zebra @f_zebra
1940年にデンマークがドイツの侵攻を受け、その日のうちに降伏した。ドイツ軍のアイスランド侵攻を警戒したイギリスは先んじて少数の海兵隊を派遣し、アイスランドを保護占領した。アイスランド政府はイギリスに抗議したが抵抗はせず、事実上は協力した。
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連合国としてはドイツから大西洋に出る際のチョークポイントとなる「GIUKギャップ」の哨戒のため、アイスランドに航空基地を設けることには戦略上非常に大きな意味があった。駐留部隊は後にアメリカ軍に交代し、終戦まで米軍が駐留を続けた。終戦の前年、共和国として独立している。
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コメント

デムパ(Poisonous_Radio) @Poison_R 2015年8月16日
えげつないというか身も蓋もないというか。平和の獲得と維持って大変だ。
Yoshi_せんしゃぶ!連載中 @Yoshikun21c 2015年8月16日
北欧は面積の割に人口が少ないから防衛が大変。
TAKAMAGAHARA @SILVER_CAP 2015年8月17日
「汝平和を欲さば、戦への備えをせよ」を地で行く話だな
梵我一如 @nanji_sorenari 2015年8月17日
集団的安全保障って大事だわ
欠点’s @weakpoints 2015年8月17日
北欧全般で言えばソ連の邪魔も英仏(西側)の邪魔もしないで第3極目指してた感じする
マジライズ・オルタ @majrise 2015年8月17日
日本は周りに組める相手が少ないから(領土で揉めてる相手と組める訳ないやろ)選択肢は多そうに見えて多くなさそう。
Flying Zebra @f_zebra 2015年8月17日
weakpoints いわゆるノルディックバランスですね。当初は最大パワーのスウェーデンを中心に中立防衛同盟(北欧以外に対する中立と北欧内の同盟を両立)を目指しました。結局まとめ本文にある通りそれぞれの道を進みますが、1952年に北欧理事会(Nordic Council)を設立して協力と協調を図っています。デンマークとノルウェーはNATOの中にあっても他国とは一定の距離を保ち、中立国スウェーデンや建前上はソ連寄りのフィンランドと協調していました。
Flying Zebra @f_zebra 2015年8月17日
北欧理事会加盟国の中では互いの国民は公的な身分証があればパスポートなしで往き来できるなど、自国民に準じた扱いを受けます。一方で酒税の税率などは微妙に違うので、週末のコペンハーゲンが酔っ払いのスウェーデン人で賑わったりします。
Flying Zebra @f_zebra 2015年8月17日
フィンランドを除く4国はそれぞれ独自の通貨を持っていますが、名前はどれもクローナとかクローネで、王冠を表す言葉(英語で言うcrown)です。アイスランドは王国ではなく共和制なのですが、デンマーク国王を君主とする立憲君主制だった頃の名残りで現在もクローナを使っています(第一次大戦まではデンマーククローネ)。
たちがみ @tachigamiSama 2015年8月17日
巻き込まれたらどうする、困るとかそういう次元の我が国とはステージが違うな 戦争は巻き込まれるものなのだ、否応無しに
山元 太朗 @tarogeorge 2015年8月17日
近代戦争に限っても、三十年戦争のころからの百戦錬磨ですからね。
Aki @Aki_8ara 2015年8月17日
ソ連崩壊後、フィンランドは空軍に関しては急速に米国シフトしてますね。旧東欧圏の多くはNATO加盟後、空軍は米国かスウェーデンを導入してるは印象的。
こげぱん @kogemayo 2015年8月18日
問題はhttp://www.arsvi.com/b1990/9506ts.htmやhttp://www.arsvi.com/1990/990501iy.htmとも関係があるのかどうかなんだよなぁ…
欠点’s @weakpoints 2015年8月18日
f_zebra 軍事装備を独自の物にしたりとかねー、あと最近のPKOシフトとか国際協調というより自国軍の脅威度を対外的に引き下げる方向に見えたこともあったかな~
エリア83@讃州deおばけ屋応援民 @area83ontweet 2015年8月21日
ほんま第二次大戦期前後~冷戦期のフィンランドは大変だったろうなぁ…
まよいみち(すきだ)🍵🍆📸 @ma4i_michi 2016年2月22日
「平和について勉強する」なら、こういうこともちゃんと知っておくべきだよね。
五葉堂 @k_ma2 2016年8月31日
平和を求めるなら戦争を知れ、ってね。北欧に対する幻想に盲従したくなるのはわかるけどね。良い部分とそうではない部分も知らないといけない。
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