ラバウル珈琲農園 被告人は提督編

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赤肩 @fuyutuki67

本土の連中がうらやましい、ちょっとバイクを走らせれば欲しい物が手に入るなんて島暮らしの俺たちにゃ想像できない世界の話だ。こっちに来る時に持ってきた原付はもうヤブの中、走ったところでこの島からは出られやしない。監獄島たぁここのことかも知れない。 #ラバウル珈琲農園

2015-08-16 04:13:55
赤肩 @fuyutuki67

ラバウルの珈琲バカこと俺は今急場しのぎの座敷牢に放り込まれている。罪状は三つ、入荷リストに紅茶を入れ忘れたこと、便所掃除の当番を三回忘れたこと、そして便所で抜いてるところを目撃された罪だ。「テートクの罪はいい加減救いようがアリマセン」検事、金剛。 #ラバウル珈琲農園

2015-08-16 04:18:59
赤肩 @fuyutuki67

「弁護士が来るまで何も話さんぞ」座敷牢の片隅に体育座りしながら抵抗を続けるが目の前で行われている略式法廷には無力であった。何せ罪状の追求のみが行われすでに今法廷が開催された罪状からかけ離れ日頃の文句に変わっているのである。俺は祭りのヤギだ #ラバウル珈琲農園

2015-08-16 04:22:07
赤肩 @fuyutuki67

しばらく談笑が続き金剛が「喉が渇いたネ」とつぶやくと金剛型最良の妹を自称する比叡がすくっと立ち上がり給湯室へ向かう。できた妹はここが違うといわんばかりのドヤ顔である。俺の分はあるのだろうか。「ねぇねぇ、てーとくさん」棒切れを持った夕立が俺をつつく。痛い #ラバウル珈琲農園

2015-08-16 04:24:50
赤肩 @fuyutuki67

みじめだ、すごい俺みじめだ。夕立のほうを向くと時雨が容赦ない追い討ちをかけてきた「汚いから触っちゃダメだよ」「えー、なんか捨て犬っぽくてつつきたいっぽい!」人の心は長い棒切れで容易く折れるのだな。「なぁ夕立よ、俺をここから出してくれたらお菓子をあげよう」 #ラバウル珈琲農園

2015-08-16 04:28:22
赤肩 @fuyutuki67

「Hey」しまった、聞こえていたか。「お茶菓子は何がイイですカ?ケーキ?それともクッキー?」「両方!両方っぽい!」金剛は植民地統治のノウハウを人身掌握に使い夕立を容易く買収した。汚い、流石英国汚い。 #ラバウル珈琲農園

2015-08-16 04:31:01
赤肩 @fuyutuki67

「比叡が淹れた紅茶は香りがいいな」「ありがとうございます」静かな時間、人生の潤いは余暇の時間に表れるというがまさにその通りだ。他愛のない談笑の声、甘すぎずそれでいて果実の香りが効いたこの茶菓子はなんというのだろうか。こと紅茶に関連した趣ある事柄は流石金剛だ。 #ラバウル珈琲農園

2015-08-16 04:39:57
赤肩 @fuyutuki67

そうこうしているうちに紅茶が運ばれてきた。どうやら俺の分もあるようだ。「はい、司令官」今日のティーカップは金剛が個人(密)輸入したボーンチャイナティーセット、価格は不明だが素人目にも上品に映り価値ある一品であることを静かに主張していた。 #ラバウル珈琲農園

2015-08-16 04:36:27
赤肩 @fuyutuki67

「さて、提督」どうやら時間のようだ。「判決は有罪デス、償いは身体でしてもらいマス」「ほう」金剛はカチャカチャと座敷牢の鍵を開け、俺の前で屈んだ。「エロ本もスッキリするもの正直ドウでもイイです、けれども」白く細い、まさに先程の茶器のような腕が俺のむなぐらを掴む。 #ラバウル珈琲農園

2015-08-16 04:44:12
赤肩 @fuyutuki67

「茶葉だけは、茶葉だけは許すわけにはいかない。この上ない有罪、犯してはならないミステイク」金剛の顔が俺の顔面近くに迫り、紅茶の香りが僅かに残る吐息を吐きながら語りかける。「貴方は償わなければならない。己の愚かさに悔い、私の哀しみに代償を支払う必要がある」 #ラバウル珈琲農園

2015-08-16 04:48:20
赤肩 @fuyutuki67

「分かっている、これは俺の罪だ。俺以外の何者にも俺の罪をくれてやる気はない」顔が、近づく。「よろしい、久しぶりデスねテートク」「ああ、久しぶりだな」では、後ほど。金剛はそう言い残して帰って行った。俺は座敷牢を出た。シャバの空気はいいもんだ、自由の香りがする。 #ラバウル珈琲農園

2015-08-16 04:51:51
赤肩 @fuyutuki67

出所を待っていた今日の秘書艦、涼風は中腰に構えて自らの主を迎えた。「お勤め、ごくろうさんでしたァ!」古式に則った気合の入った出迎えが基地にこだました。 #ラバウル珈琲農園

2015-08-16 04:56:42
赤肩 @fuyutuki67

事務机に置かれた発注表にはすでに紅茶の銘柄と量、そして軍の特急便を使う旨とその割り増し料金がタイプされていた。「オジキがいない間、この涼風、なんとかここを守り通しました……!」彼女の交渉が無ければこれより酷い量だったのか。 #ラバウル珈琲農園

2015-08-16 05:01:30
赤肩 @fuyutuki67

「忠臣涼風ここにあり、大儀であった」「有難き幸せ!」発注表にサインし判を捺す。いつもの行為でありながら手は振るえ、冷や汗が首筋に流れ落ちた。この額、俺個人の借金なんだろうな。涼風は無言で発注表をファックスし、自らの主に任務完了を報告した。 #ラバウル珈琲農園

2015-08-16 05:08:20
赤肩 @fuyutuki67

「では、行ってくるよ」「へ?どこへですかい?」「金剛の部屋」涼風は持っていたボールペンを床に落とし、膝から崩れ落ちた。「いけません……そればっかりは、行かせるわけには……!」わなわなと震えながら声を絞り出す涼風。 #ラバウル珈琲農園

2015-08-16 05:11:30
赤肩 @fuyutuki67

「男にはな、行かなきゃならねェ時があるんだ」「それなら、それならあたいも!」涼風は部屋を出ようとする提督の足にしがみつく。「なぁ、涼風」「は、はい」「俺を、俺を男にしちゃあくれないかい」しがみついていた腕の力が抜け、涼風は涙を流しながら立ち上がった。 #ラバウル珈琲農園

2015-08-16 05:15:42
赤肩 @fuyutuki67

「珈琲の一杯でも飲んでくるんだったな」喉は渇き、震える手で部屋をノックした。返答あるまでの一秒に満たない一瞬が彼に自らの人生を思い出させた。今日まで、今ここに立つまでの一生が流れ、一人の男が過去から現代に返って来たその瞬間、部屋の鍵は開けられた。 #ラバウル珈琲農園

2015-08-16 05:26:15
赤肩 @fuyutuki67

「いってらっしゃいませェ!!」ああ、男冥利に尽きるじゃないか。静かに部屋を後にし廊下を一歩、また一歩と歩いていく。背後には涼風の泣く声。罪に涙、背中に背負ったものの大きさは今にもその男を押し潰そうとしていた。そして男は、金剛の部屋の前に立った。 #ラバウル珈琲農園

2015-08-16 05:21:10
赤肩 @fuyutuki67

「償いにきた」 「Come on, My Darlin ♥︎」 #ラバウル珈琲農園

2015-08-16 05:44:23