【ミイラレ!第十二話:古椿の小槌のこと】(原文のみ)

怪異に好かれる少年と退魔師の少女がなんやかんやするお話。正念場を乗り越えられるか? こちらは原文のみです。実況付きはこちら→ http://togetter.com/li/861908
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鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

【ミイラレ!第十二話:古椿の小槌のこと】 #4215tk

2015-08-17 19:02:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

四季は気圧されていた。確かに今の彼には大天狗たるながれが憑いている。が、彼自身が矢面に立って怪異と相対するのはこれが初めてといっていい。これほどまでに敵意のある怪異を相手にした経験が、彼にはない。四季は小さく唾を飲み、それでも包帯の怪人を必死に睨みつけた。1 #4215tk

2015-08-17 19:04:16
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

晒野忍……この『トンカラトン』たちの本体は、またなにか言葉を発しようとした。が、それより早く彼女はほぼ垂直に跳んだ。残された赤いバイクが、一瞬にして針だらけとなる!「そっか。お前が犯人か」横合いから聞こえた声に、四季は思わずそちらを振り向く。2 #4215tk

2015-08-17 19:06:16
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

ゆっくりと近づいてくるのは小雨だ。だが、その顔は彼が今まで見たことがないほどに冷たい。「……ちょっとやり方が汚すぎるね。子供に手をかけるなんてさ」「学校の怪談とはそういうものだ」着地した忍が、背負った刀の柄に手をやる。「あなただって同じようなものだろう」3 #4215tk

2015-08-17 19:09:13
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「そうかもね」小雨はあっさりと答えた。その腕が霞む。連続的な金属音が響く。慌てて怪人を見やった四季は、相手がいつの間にか刀を抜いていることにようやく気づいた。「お前みたいな悪ガキ相手には、特にね」「流石の実力だ」忍が唸る。その頬からどろりとした液体が垂れた。4 #4215tk

2015-08-17 19:12:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「血と油を絞り尽くさせてもらうよ。本当の木乃伊にしてやるから」威圧的に小雨が一歩踏み出す。忍が間合いを保ち、黒串で負った擦り傷を撫でた。すぐに新たな包帯が覆い、流れ出る血と油の混合物を堰きとめる。「……確かに。このままではそうなってしまうだろうな」5 #4215tk

2015-08-17 19:15:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

張り詰める空気に、四季はただ立ち尽くすしかない。が。「危ない!上!」彼は咄嗟に叫んでいた。上から何が来るのか?それを認識できたのは叫んだあとのことだ。こちらを押しつぶすような威圧感。小雨が咄嗟に背負った袋から蛇の目傘を取り出し、頭上で開く。そこに炎の華が咲いた。6 #4215tk

2015-08-17 19:18:18
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

爆風に四季はたたらを踏む。『いかん』脳裏にながれの声が響いた。爆炎が晴れたあとの小雨は、かろうじて無傷である。が、その傘は黒こげであり、もはや使い物にならないだろう。四季は頭上を仰いだ。月を背に夜空からこちらを見下ろす、赤い髪のそれと目が合った。7 #4215tk

2015-08-17 19:21:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

背丈に似合わぬ、巨大な蝙蝠の翼を広げた赤髪の怪異は、なにか言いたげに四季のことを見下ろしていた。ほんの少しだけ逡巡の素振りを見せたあと、それはよろめく小雨めがけて急降下する。『チィッ!』脳内に舌打ちが響く。瞬間、彼の体から小さな影が飛び出ていった。8 #4215tk

2015-08-17 19:24:24
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

無造作に振り下ろされた一撃を、小さな影が錫杖で防ぐ!瞬間、あたりに衝撃が走った。四季は思わずよろめく。「……ひっさしぶりじゃの、小童!まさかこうして顔を合わせることになろうとは思わなんだわ!」ながれの言葉に、四季は目を丸くした。知り合いなのか?9 #4215tk

2015-08-17 19:27:12
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「ああ、うん。その節は世話になったね」さして関心もない様子で、赤髪の悪魔は天狗を見やった。「世話になったついでに引いてもらえない?四季と少し話がしたいからさ」「断る。付き合える我儘にも限度があるでな」「あ、そ」悪魔が目を細めた。「じゃあ燃やす。覚悟してね」10 #4215tk

2015-08-17 19:30:19
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

戦場に風が吹く。天狗と悪魔はそれぞれ互いに弾き合い、距離を取っていた。ながれは眉根を寄せて悪魔を見る。その手に錫杖はない。トリルにもぎ取られたのだ。悪魔は奪った錫杖を少しだけ強く握る。錫杖全体が赤熱し、溶解。煮えたぎった金属が地に落ち、音を立てた。11 #4215tk

2015-08-18 19:45:25
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「小雨や」「う、うん?」ながれは小雨に声をかける。懐から羽団扇を取り出し、厳しい表情で悪魔を見据えたまま。「悪いが手伝え。本気で当たらんと敗れるのはこちらぞ」小雨が目を見張る。が、彼女はすぐにその事実を理解したようだった。諸手を上げる。周囲を霧が包む。12 #4215tk

2015-08-18 19:48:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

……三人の怪異たちが霧に包まれるのを、四季は見ていた。中から聞こえる轟音に、彼は息を呑む。「さて」その声に、初めて彼の意識は動き出した。慌てて向き直る。包帯の怪人へと。「これでお前の守りはなくなった」怪人……晒野忍は腕組みし、淡々と言った。13 #4215tk

2015-08-18 19:51:03
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「退魔師たちは手一杯。厄介な天狗と山姫も、まあトリル殿に任せておけば問題はあるまい」すう、と目が細められる。「つまり、あとはお前を捕らえるだけだ」「と、捕らえるって言われてもね……」ひとまず構えた四季はゆっくりと後退る。「斬られるのはちょっと、ごめんかな」14 #4215tk

2015-08-18 19:54:05
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「そうか。残念だな」ゆっくりと近づきながら忍。刀には手をかけない。「正直なところ、私としては自分の手でお前に包帯を巻いてやりたいんだ……そうするとより強固になるからな。わかるか?」「ああ、そう。そういうもんなんだね?」「そうだ。お前はぜひ同族にしたい」15 #4215tk

2015-08-18 19:57:04
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

ぎらり、とその目に一瞬だけ光が灯り、消える。「が、それをやったらトリル殿に何をされるかわからんのでな。なので今回、お前に限っては切った張ったはなしだ」「それは……ありがたいね」「代わりにこちらを使う」そう言って取り出したのは小さな注射器だ。中には緑色の液体。16 #4215tk

2015-08-18 20:00:34
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

あからさまに危険であるとわかるそれに、四季は思わず身を引いた。「待って。トンカラトンってそんなこともできるの?」「いや。これは取り込んでおいた『注射男』の力だな」怪人が口角を吊り上げ、一歩近づく。「なに、そう警戒するな。痛いのは一瞬だけだ。すぐに良くなる」17 #4215tk

2015-08-18 20:03:21
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「悪いけどお断りしますッ!」言い捨てて四季は背を向け全力疾走!ひとまず退魔師の誰かと合流しないことにはなにもできない!目の前には分身が立ちはだかり、背中から風を切って何かが飛んでくる。彼は反射的に横に跳ねた。見ると、先ほどの注射器が通り過ぎていくところだ。18 #4215tk

2015-08-18 20:06:05
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

ぶすり、と注射器が分身に突き刺さる。ひとりでに中の液体が押し込まれていく。びくん、と痙攣した分身が倒れ、泡を吹いた。『中身入り』だったらしい。「絶対やばい薬でしょこれ!死ぬよ!」思わず叫ぶ四季は、後方から風切り音を聞いた。それも、複数の。19 #4215tk

2015-08-18 20:09:05
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「うわーっ!?」体が勝手に動き、側転する。その度に注射器が通り過ぎていく!『あっぶねーなァ、本当もう!』『ナナ!?』脳裏に聞こえた声に、四季は驚く。あの小さな怪異の声が、再び頭に響いた。『天狗の姐さんから頼まれた!悪いけどしばらく体借りるぜ、大将!』20 #4215tk

2015-08-18 20:12:03
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

目まぐるしく視界が変わる。背後からは異常を察したらしい忍の怒号が聞こえた。それに応じてやってきた『中身入り』たちの手を、四季の体は器用に掻い潜っていく。『何度も言うけど!今の俺じゃ喧嘩は無理だからな!』弁明するようなナナの言葉に、答える余裕は彼にない。21 #4215tk

2015-08-19 19:36:02
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

そうして集まってきた『中身入り』たちへ青い反物が飛来。まとめて束ねるようにして巻きつき、動きを封じる!「四季!大丈夫!?」怜がこちらへ駆けてくる。四季もそちらに向かおうとして気づいた。忍が注射器を彼女に向け、投擲せんとしていることに!『オオオオッ!』22 #4215tk

2015-08-19 19:39:15
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

が、怪異の背後から迫った巨躯の青鬼が戦斧を振り下ろしこれを妨害!「チィッ!」忍が身を翻し回避!回転の勢いをつけ抜刀し、斬りつける!青い鬼神はこれを斧の柄で防いだ。金属音が鳴り響く。「させはしません……!」『前鬼』の背後で、顔をしかめた良子が呟いた。23 #4215tk

2015-08-19 19:42:14
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

四季は怜と合流する。「ありがとう、助かった!」「どういたしまして。……むしろこっちが礼を言うべきかな」周囲を油断なく見回しながら、怜。「四季を捕まえるのに『中身入り』が集まってくれたから。あとはたぶん気兼ねなく倒せる連中だけ」「そ、そうなの?」24 #4215tk

2015-08-19 19:45:06
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