ラバウル珈琲農園　長門出所編

赤肩 @fuyutuki67

長門下着ドロ事件から三ヶ月、提督は暇を見つけては長門の面会に赴いていた。暑い日にはアイスを差し入れし、寂しいという日には面会時間ギリギリまで手を繋いでいた。そして今日、晴れて出所が決まった。　＃ラバウル珈琲農園

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「もう来るなよ」「お世話に……なりました」看守の天龍の眼は冷たかった。当然である、ラバウル基地開設以来初の下着窃盗犯だ、しかも駆逐艦の下着ドロだ。罪は償えても消えはしない、それは長門本人が一番理解しかみ締めていた。　#ラバウル珈琲農園

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提督に手を引かれ門をくぐり、シャバの空気と太陽の光を浴びると長門は大きく深呼吸をした。これが、一週間前の出来事である。「提督ー、このあとどうー？」袋詰めされた珈琲豆の検品が終わり、今日の仕事が片付くと北上は夕飯をタカってきた。　#ラバウル珈琲農園

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「ごめん……俺この後整体行かなきゃ」「えーまた？大丈夫なの？」腰を摩り、腕を摩り、提督はすっかり衰えてしまっていた。確かにこのところ事務仕事が続き運動不足だったことは否定できないがそれにしても身体が重い。彼は何かこう、温泉でも入りたい気分だった。　#ラバウル珈琲農園

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想像できるだろうか、戦艦クラス元気を誇る小学校低学年女子の遊びに付き合わされる日々を。長門は出所したその日、浜辺や民間地区の公園を走り回り、屋台のアイスをねだり、そして走り回った。　#ラバウル珈琲農園

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「最初は久しぶりの外を精一杯楽しんでいるように見えた。アイスも買ってやったしボールや一輪車が欲しいとねだってきたからそれも買ってやった。身長190越えが乗れる一輪車を探すことにはひどく苦労したがそれでも彼女の笑顔が見れた時、俺は満足できたんだ」　#ラバウル珈琲農園

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初めての一輪車に怯えながらも挑戦する長門を支え応援し、一人で走れるようになった時は一緒に喜んだ。まさに実の父と娘のような光景だった。ただ、提督は日に日に長門の様子がおかしいことに気づいた。何かが違う、大人の、入所前の長門と何かが確実に違う。　#ラバウル珈琲農園

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長門は長い独居房暮らしによって変わってしまった。提督が面会にくるとはいえ、長い間彼女を癒してきた駆逐艦分が急に遮断されて心のバランスが狂ってしまったのだ。結論を言おう、長門は自らを駆逐艦と思い込み、心を開ききってしまったのだ。　#ラバウル珈琲農園

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心はカメラのようなものだ。絞りを調節して外から来る光を適切な量受け入れなければ自分が感じるもの全てが狂ってしまう。長門は暗い独居房の中でどうにか光を得ようと絞りを最大限開いてしまった。そして長門は小さな恐怖に精一杯怯え、小さな喜びを精一杯喜ぶようになったのだ。　#ラバウル珈琲農園

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そう、まさに自分の足で広がっていく世界に希望と恐れを同時に抱き、それでもなお進む無謀にも見える小学生の夏休みのように。　#ラバウル珈琲農園

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提督の身体は限界を迎えていた。流石に三十手前の身体で全力元気一杯戦艦の夏休みダッシュの引率は堪えていた。しかし、自らの心にここで逃げてしまってはまた長門が犯罪に走ってしまうと言い聞かせ一昨日も明石の整体に通い、帰宅すると長門が寝るまで絵本を読んでやっていた。　#ラバウル珈琲農園

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「長門さんさ、なんか日に日に幼くなってない？」軽巡たちはこう噂している。小学校低学年の元気から未就学児童の元気、生きるパワーを毎日フル解放しているあの感じだ。普通の子どもですら大人がへばるのにそれを戦艦がやっているのだ。日向は呟いた、提督もそう長くはないな。と　#ラバウル珈琲農園

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身長195cmの女児と身長169cmのボンクラ、提督の飲む珈琲と栄養剤の量はすでに逆転し、コーヒーミルは埃を被っていた。長門が元に戻るのか先か、それともおむつが先か、ラバウル珈琲農園の片隅で失敗ペンギンたちはこの賭博に熱中していた。　#ラバウル珈琲農園