秋山信将さんによる「国防」と「安全保障」

秋山信将さん(一橋大学教授、国際政治学、国際安全保障) https://hri.ad.hit-u.ac.jp/html/202_profile_ja.html が連投された国防と安全保障をめぐるコメントをまとめました。
政治 国防 軍事 秋山信将 安全保障 佐藤誠三郎
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nobu akiyama @nobu_akiyama
故佐藤誠三郎先生が1999年にお書きになった「『国防』がなぜ『安全保障』になったのか:日本の安全保障の基本問題との関連で」(『外交フォーラム』1999年特別号)という論文があります。最近の安保法制の議論を眺めていると、この「国防」と「安全保障」の区別できてるのかなと感じます。
nobu akiyama @nobu_akiyama
特に「抑止力」をめぐる言説を見ていて思うのですが、国防と安全保障のダイコトミーを使っていえば、日本の「国防」という視点から抑止の対象になるものと、「安全保障」にとっての抑止の対象というのは異なっていることを皆さん意識して話をされているのかなと。もっと言えば、
nobu akiyama @nobu_akiyama
自分が国防の話をしているのか安全保障の話をしているのか意識されているんだろうかと思うんですよね。今や、日本の安全保障は、単に他国による領土・領海や国民の生命・財産の侵害という、ある意味では狭義の「国防」だけでは確保できないということは、広く共有された認識となっていると思います。
nobu akiyama @nobu_akiyama
もしそうでなければ、これ以降の話は成り立たないのですが、一次エネルギーの96パーセント、カロリーベースで食糧の約6割を海外からの供給に依存し、その他の貿易、金融取引など、現在の日本そのものを支える活動のグローバルな基盤を維持することも安全保障政策の重要な役割ですよね。
nobu akiyama @nobu_akiyama
そうしたグローバルな基盤(インフラ)やコモンズ、そしてそれらを支える制度や政治的構造があって、今の日本のさまざまな活動があるわけですよね。んで、それをどう支えるか、みんなで考えないといけないと思うんですよ。「アメリカの言いなりになって、戦争に駆り出される」っていう単純なレトリック
nobu akiyama @nobu_akiyama
とかではなくって、そういう制度や政治的構造がどう維持されてきたのか、歴史をたどってみるとアメリカの役割の大きさに気づくわけです。それは、アメポチになるとか、言いなりになるとかそういうのとはまったく違った次元の話です。好き嫌いも別としての話です。それで、現状認識ですが、
nobu akiyama @nobu_akiyama
今、そうしたインフラやコモンズを支える制度や政治的構造が盤石ではなくなっている、それを揺るがす「脅威」の要因は何なのか、またそうした制度や構造が揺らぎそして喪失したあとに来るべき新たな国際政治の態様とはどのようなものなのか、といった不安が存在するわけです。
nobu akiyama @nobu_akiyama
ところで、皆さんご存知だとは思いますが、securityとは、ラテン語で不安という意味のcuraに「ないこと」という接頭語のseがついてできた言葉ですよね。つまり我々の生命や生活を不安がない状態におくことがsecurityの要諦なわけじゃないですか。
nobu akiyama @nobu_akiyama
それで、今の「不安」ですけど、例えばロシアのウクライナに対する攻勢は、直接的な軍事力の行使(つまり伝統的な戦争や武力行使)ではないけれども、そうした軍事力のアセットを別の形で活用したり、軍事力を背景にして政治的な圧力をかけたり、あるいは他の勢力を支援したりして政治的な目的を
nobu akiyama @nobu_akiyama
達成しようとしているわけですよね。それは、多くの人たちが想定している戦争の形態ではないわけですが、非伝統的な形で軍事力、insurgencyへの支援その他の手段を組み合わせる(よくhybrid threatとかhybrid warfareと形容されますが)という、
nobu akiyama @nobu_akiyama
リデル・ハートのいう「戦争とは他の手段をもってする政策の継続に他ならない」をまさに現在において体現するような状態です。ロシア・ウクライナ関係は二国間の間の関係性の中での話ですが、そうした軍事的アセット等の利用によって、地域の秩序であったり、そうした秩序を支える規範や制度
nobu akiyama @nobu_akiyama
を脅かし、そして崩壊に導きかねない(国際政治における制度や規範は脆弱なものですよね)事態を抑止すること、それこそが実はいま議論されるべき「抑止力」に含まれるべきことだと思います。単に従来の概念の「戦争」の抑止ではないと思います。まあ安全保障をやっている人にはわかりきった話ですが。
nobu akiyama @nobu_akiyama
ついでに言うと、抑止力の三要素は能力、意思、そして認識です。安保法制に反対している人たちは、安倍政権は軍事力による抑止ばかり言って対話が足りない、というような批判をする方々がいます。どこかの学生さんも、相手とお酒を飲んで分かり合えば戦争は防げると行っていました。その心意気は◎です
nobu akiyama @nobu_akiyama
しかし、実は抑止(特に相互抑止)が成り立つためには、両者の間にそれなりに意思の疎通が成り立っていなければならないのです。相互に抑止が効いているという相互の認識があれば、ガルトゥング博士の言う「消極的安全保障」くらいは成り立つでしょう。しかし「積極的安全保障」の状態に至るには、
nobu akiyama @nobu_akiyama
単なる対話だけでは不十分で、共通の政策目標の共有であるとか相互の国益の親和性であったりが必要ですよね。果たして、今の東アジアにおいてそこまでの深い意思疎通ができているのでしょうか。というかそもそも相手は共通の目標、国益の親和性を望んでいるのでしょうか。
nobu akiyama @nobu_akiyama
もし、これらの疑問に対して確信をもってYESと答えることができないのであれば、まずは、国際安全保障の共通の言語である軍事力を通じた「対話」、すなわち軍事面での信頼醸成が現実的な目標として浮上してくるのではないでしょうか。しかし、私の限られた情報から理解する限り、
nobu akiyama @nobu_akiyama
我々が信頼醸成の対象としなければいけない近隣の国は、表面的には信頼醸成や対話を望むものの、実質的な理解が深まるような透明性の担保などには不誠実な対応しかしていません。私の研究している核軍縮、核不拡散、軍備管理では、かの国を相手にするのは非常にフラストレーションの溜まる事です。
nobu akiyama @nobu_akiyama
であるならば、観念的な平和論を全く取り下げるべきとは思いませんが、同時に現実的なリスクヘッジとしての安全保障政策の追求をするのは、責任のある政府の態度としては必要なことではないかと思います。 以前、原発事故に絡んで「絶対安全神話」という概念が取り上げられました。
nobu akiyama @nobu_akiyama
これは、あるべき姿を非妥協的に追求するがゆえに観念論的な安全性の議論に支配された空気の中で非現実的な政策選択を行った(選択した側からすれば、取り巻く環境によって選択を迫られたということかもしれません)結果でした。安全保障政策の選択においてあってはならないことだと思います。
nobu akiyama @nobu_akiyama
僕は、政府も、野党も、賛否両側の研究者も、市民も、日本を取り巻く国際環境と今の日本の活動を支えているインフラやコモンズ、あるいは国際的な制度の現状をしっかりと議論するというそもそも論(まあそんな時間はないんでしょうけど)をやったって罰は当たらないと思いますけどね…
nobu akiyama @nobu_akiyama
冷徹なリスク評価があって、リスク低減策とリスクヘッジがあり、残余リスクに対するミティゲーションを考えるという立論の手順をしっかり踏むべきだと思います。

コメント

Kazuto Suzuki @KS_1013 2015年9月3日
畏友の秋山さんの力作。安保法制賛成の人も反対の人も是非一通り読んでほしい。
Masahiro Kozuka @masa_koz 2015年9月3日
【禿げたくない】禿同としか言いようがない(^_^;)
うみ⋈グンマOUTPOST @umi_tweet 2015年9月3日
一つだけ。大学生にもなって、攻め込まれたら一緒に酒飲んで話し合って止めます。は心意気としてもダメだろとw
岩鼻・Monarch第1087前進基地 @sbinnn21 2015年9月3日
専門家や防衛省とかの担当者が「同時に現実的なリスクヘッジとしての安全保障政策の追求をするのは、責任のある政府の態度としては必要なこと」なのだけど、やはり1つの専門分野でしかなくて、与党野党市民の全員にその議論の土俵に立って追求に専念させるのは難しいと思う
岩鼻・Monarch第1087前進基地 @sbinnn21 2015年9月3日
「国家としての一貫性や安定性を求めて合憲性の追求をするのも、責任ある政府の態度としては必要なこと」とも言え、憲法の専門家などがそこを追求した結果、「この法案は違憲」が圧倒している。この状況で、合憲性追求は無視してリスクヘッジとしての安全保障を追求できる場合かというと、「安全保障だけえこひいきして議論する」としかならないのでは。
nobu akiyama @nobu_akiyama 2015年9月3日
解釈改憲についてですが、安全保障だけえこひいきしているというのは妥当でしょうか。憲法第89条と私学助成の合憲性をどう整合性を保つかという議論も、教育は「公の支配」に属するので合憲という、リベラルからすれば卒倒してしまいそうな論理によって正当化されています。もちろん、「公」の定義(「新しい公共」論にも通じるところはあります)にもよりますが。
nobu akiyama @nobu_akiyama 2015年9月3日
また、これから問題になりそうなのが、憲法第24条の「婚姻は両性の同意によってのみ成立し」だって、今の社会規範の変容のトレンドを考えれば僕は改憲か解釈改憲が必要になると思います。ということで、別に安全保障だけえこひいきしているわけではないように見えますがいかがでしょう。それぞれの政策領域において憲法が制定された時代の規範と現代の規範がかい離している現象はあるわけで、逆に第9条を取り巻く環境だけが普遍的で不変ということはないように思います。
なぎさゆり @nagisayuli 2015年9月3日
直感的に近い事を思っていたけどまとめのように上手くに説明する力が自分にはなかったので読み終えた時にスッキリした。敗戦後の安穏がこれからも続くを信じている点で反対派は9条を過信しているし、自主防衛の機運が高まらない点で賛成派は同盟関係を過信している。主権回復後ずっと国防に関わる議論をタブーにして封じてきたツケがまわってきたのが今の状態。
nobu akiyama @nobu_akiyama 2015年9月3日
umi_tweet 私もスピーチ聞いたわけではないですが、もともとは、攻め込まれないようにお酒飲んで話し合って止めます、という趣旨だったそうなので、そういう認識で書きました。私は、肝臓がいくつあっても足りなさそうではありますので実践すべきとは思いませんが、意図を善意に解釈すれば一応ポジションとしては成り立つとは思います。
ハドロン @hadoron1203 2015年9月3日
130万人に及ぶ海外在留邦人が居て、日本を支えている訳ですからね。紛争が起きて当事国の保護が受けられる見込みがない時に、彼らの安全をどう保障するかも重要な懸案です。 憲法といっても所詮は国内法でしかない。抑止力は武力のみならず金融政策や知財戦略の観点も重要で、権益が絡む多国間での調整は必須と考えます。
Ishida Brain Dam'd @tbs_i 2015年9月3日
本来、若い人が「一緒に酒のんで止める」とか言いだしたら、大人は「そう言うのはいいから」でスルーして、こう言うような話を彼らの目の前でして見せて、本来必要な議論の質と量というのを教え示す義務があるんだよなあ。
poyopoyo @nikukyu29 2015年9月3日
tbs_i 「無知な学生に、無知でいいんだ、行動の方が大事なんだといったメッセージを送る大人は、われわれ教師の敵です。」と、玉井先生は言われた。
poyopoyo @nikukyu29 2015年9月3日
tbs_i スルーではなく。最終的に双方とも和解を目指すのは当然持ってる意識だが、そもそもの和解の位置関係が攻めてる時点で違うのだ。いきなり飲んでどうすんねん。の上の「バカもんが」とした上で有無を言わさないで、このまとめの説教。という↓➘→◎ コンボがいいのかな。と。 まぁでも酒飲むとか言ってるのは、完全にアルコールじゃない「何か」に酔ってるから聞かないかも知れないが、冷静な周囲は理解出来るだろう。
けーすぃ @ChrnoMaruQ 2015年9月3日
早い話、ソフトパワーだけでもダメでハードパワーだけでもダメっていう話に聞こえました 自分も同感ですね 安保法案に感情的に反対してる人は、ハードパワーがなければ、ソフトパワーの担保が出来ないことをもう少し理解すべきであると痛切に感じています
Hoehoe @baisetusai 2015年9月3日
もっともらしく聞こえるけど「些細なミスをついて相手を全否定する詭弁」の変形のように思えるんだよな
ワカゾー @WakazoMarine 2015年9月3日
日本の貿易で価格ベースなら約70%、重量ベースなら約99%が海運という事実を日本国民は認識すべき。つまり輸入原材料によって製造されているあらゆる製品の99%を構成するのが海運ということ。身の回りを見てみよう。どれだけ輸入原材料によってつくられているものがあるのか。
HANATARAY @hanataray 2015年9月3日
すでに禿げてるのでこころおきなく禿同
きんぐ @stand_up1973 2015年9月3日
ホントですね。ソフトパワーとハードパワーの二つがそれぞれ存在を示しての安全保障、広く言えば外交だと。日米安保条約と憲法9条が両輪として70年の平和を支えたように。そしてそのバランスも刻々と変化させてこそ平和が維持されるというものでしょうから、どちらかが欠けた議論に価値はないことになりますね。
Karasu @karasu15794066 2015年9月3日
人民解放軍に日本を「解放」して貰いたくて堪らないはてな詐翼がブクマで喚いてるな。
cafe氷 @plz_sebi 2015年9月3日
素晴らしい。中国の軍事パレードを見たあとだと余計に。
neologcutter @neologcut_er 2015年9月3日
国会前のデモで安保法制がどうのこうのなんて、明らかに内閣支持率下げ&政局狙いの工作でしかないよな。騒いでるメンツが #反原発 とほぼ同じだし。
neologcutter @neologcut_er 2015年9月3日
http://bit.ly/1KtlM9t 中国 大規模な軍事パレード←自称左派の人たちってこの件に関してガン無視だよね。 #SEALDs とか。
天気模様 @sakuratokiku 2015年9月3日
nobu_akiyama彼の発言全文を見ました。中学生以下だったら花丸をつけました。大学生であの思想は落第でしょう。彼自身が本当にそうしたいというのなら今だって実行できるんですよ。 南シナ海に赴いて軍事行動を諌めるか尖閣を挑発してくる中国船に酒持っていけばいい。でも彼は行かない。南シナ海や尖閣は遠いし許可が下りないので行けないというのなら中国大使館にでも行けばいい。でも彼は行かない。心意気があるのなら中国大使館前にでも行くはずだと思います。
bn2 @bn2islander 2015年9月4日
安保法制と防衛費の増額がセットで語られていないというのは不思議な話はしますわね。安保法制が自衛隊の役割の強化を目指しているのであれば、防衛費もそれに伴って上昇しないと意味が無いのでは。だから、安倍政権は「安保法制によって自衛隊の役割を強化します。それに伴って防衛費も上げます」と明言しないと不誠実なのではとは
岩鼻・Monarch第1087前進基地 @sbinnn21 2015年9月4日
えこひいきというのは、それぞれの専門家にとって「安全保障の議論は大切」「憲法の議論は何より大切」「日中経済が大切だ」など最優先事項はいろいろありまして、専門家でない人はそれをダイジェストで考えるよりないわけですから、現状で安全保障を全員の最優先事項にするのは難しく、不公平感も出てくるという意味ですね。ちょうど9条解釈をどうしようかという議論になったまさにそれで、今はまだ安全保障のプロさえ憲法解釈と改憲の是非を議論しているべき段階のように思えます。
マゴコロタロウ @taromagokoro 2015年9月4日
という話を安倍首相にもしてくれないかなあと思いながら、安全保障の基本概念についてとても参考になる考え方。
ひろっぺ@シン・十四松・フレンズ @hiroppe3rd 2015年9月9日
「-安倍首相にもしてくれないかなあ」 安倍首相は憲法も考慮に入れた上で安保法案提出している人物なんだが
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