学生さんが行ったスピーチに対するフェミニズム論者からの批判を契機として、フェミニズムと公の場におけるスピーチの関係が議論されており、現在なお議論は続いているようです。
2015-09-03 19:46:15この問題に対する私の立場はすでにツイートしたとおりですがtwitter.com/TAKASHIMA724/s… twitter.com/TAKASHIMA724/s… 今回の議論ではあまり意識されていない論点が1点、現在の法状況の誤解が1点あると思われますので、少し追加コメントしておきます。
2015-09-03 19:47:36従って、表現が名誉毀損等の何らかの理由で違法と評価されない限り、どのような事項をどのように表現しても全く問題はありません。同様に、他者の言明に対して批判を行うことも表現の自由に含まれますから、違法でない限り、他者の言明をどのように批判しようと、法律上は全く問題はありません。
2015-07-29 18:00:09むしろ、そのような相互の意見・相互の表現のぶつかり合いの中からこそ、新たな社会規範が生まれてくるのが通常ですし、私が今回の議論に関心を持ったのも、まさにこの点にあります
2015-07-29 18:00:54まず、今回の議論ではほとんど触れられていない論点とは、この事案が、複数の基本的価値が衝突する事案であるという点です。
2015-09-03 19:48:45道徳、条例、法令などの社会規範は、その趣旨をたどれば、かならず一つあるいは複数の価値原理に基づいています。そして、個々の事案において、しばしばこれら複数の価値が抵触する状況が生じます。
2015-09-03 19:49:26たとえば、安楽死やエホバの証人の輸血拒否の許容性を考えるうえでは、本人の自律原理(自己決定の尊重)と生命至上原理(生命の尊重)が抵触します。
2015-09-03 19:49:46同様に、堕胎の許容性を考えるうえでは、女性が自分の体をどのように扱うかについての自律原理と胎児の生命保護が対立関係にあります。
2015-09-03 19:50:04さらに、代理母の許容性を考えるうえでは、人的尊厳の配慮(女性の体や生まれた子供の商品化ないし物化、経済格差による代理母の事実的強制など)、代理母や依頼者の自己決定の尊重等の様々な価値判断が複雑に関連します。
2015-09-03 19:50:22ニュージャージー州最高裁判所が代理母契約を公序良俗に反すると判断したのに対し(ベビーM事件)、カリフォルニア州最高裁判所はこれを公序良俗に反しないと判断したのは(アナジョンソン事件)、価値抵触が生じる事案における判断の困難さを端的に示しています。
2015-09-03 19:50:48一見すると争いの余地がないような生命至上原理ですら、現実の社会との関係では、死刑制度,戦争による殺人,一定の要件を満たした安楽死,強姦による妊娠の場合の人工妊娠中絶などの例外が多数あり、その場合には必ずこれを正当化する別の価値原則があるのです。
2015-09-03 19:51:06このような価値原理の例としては、すでに触れた自律原理、生命至上原理、人的尊厳の保護原理のほかにも、平等原理、無危害原理、功利主義(最大多数の人々の利益の最大量を産み出す行為に価値を置く)、弱者保護等があります。
2015-09-03 19:51:24生命倫理学においては、このように複数の基本的価値が存在し、これらが相互に衝突する場合のあることは当然の前提なのですが、フェミニズムに関する今回の議論では、この点が意識されていないように思われます。
2015-09-03 19:51:48すなわち、フェミニズムに立つスピーチ批判は、当然に、両性の平等や人的尊厳等の価値原理に基づいており、このような観点からの批判が不当な現状を変えていく上で非常に重要であることはいうまでもありません。
2015-09-03 19:52:09しかし同時に、政治の場における個人スピーチという行為にもまた、表現の自由及び自律原理という基本的価値があるのです。
2015-09-03 19:52:26今回の議論では、私的には何を話すのも自由だが公の場ではスピーチ内容に配慮しなければならないとの見解があったと記憶しています。しかしこの見解は、表現の自由の意義を誤解しています。というのは、表現の自由がおもに念頭に置いているのは、まさに公の場における発言だからです。
2015-09-03 19:52:49政治的な場でこそ、表現の自由、言論の自由は最大限尊重されなければなりません。違法と評価されない限り、様々な個人の意見や個人の体験した個々の事実を表明する自由は、民主主義社会における議論の前提として必要不可欠です。
2015-09-03 19:53:08政治の場で自分の意思や事実の陳述が制限されることの怖さは、公の場における被曝被害の訴えに対し、正当な批判による対応ではなく様々な圧力やいやがらせが加えられてきたこと、そして場合によっては意見自体が削除されてしまうという現状に照らせば、すぐにおわかりいただけると思います。
2015-09-03 19:53:34注意すべきは、表現の自由も、自律原理も、表現の内容や自己決定の内容に価値があるとするのではなく、表現できるという状況、自由意思に基づいているという状況自体に価値を置いていることです。
2015-09-03 19:54:12言い換えれば、表現や自己決定の内容については、何らかの理由で違法と評価されない限り、原則としてその妥当性は問われないのが原則です。
2015-09-03 19:54:28表現の自由は多様な意見に基づく民主主義を成り立たせるために必要不可欠であり、フェミニズムに基づく主張もこの自由の上に成り立つことからすれば、その重要性は他の価値原理との抵触が生じる際にも、当然に考慮されるべきです。
2015-09-03 19:55:11従って、表現の自由及びスピーチする人の自律という価値を踏まえた上でなお、フェミニズムの立場からステレオタイプな家族観の危険性を指摘することにはもちろん意味があるのですが、今回の議論では、対立する基本的価値にほとんど言及のないまま、発言の不適切さだけが批判の対象にされています。
2015-09-03 19:57:21基本的価値の抵触という最も重要な問題を意識しないまま批判のみがなされた場合、意識的ではないにせよ、アプリオリに自己の正当性を前提にした議論になりがちであり、本来、批判によって達成されるべき社会意識の変化にはむしろつながりにくくなるのではないかと危惧しています。
2015-09-03 19:58:21