90年代から00年代に代わる頃、成人のアタッチメントというのが熱いらしいという噂を聞きつけて、それらしき論文を読んだ俺は、AAIという面接法で個人差を測るのがクールなのだと知った。しかしAAIの手続きは、一部の質問項目と評価法以外、当時まだほとんど開示されていなかった。
2015-09-03 21:17:43来る日も来る日も論文を検索し、取り寄せ、読みまくった!その結果、AAIの中身は分からず、代わりにカリフォルニア大学バークレー校でレクチャー受けないと使えないという事実を突き止めた。今考えれば、留学してそれをしようと思うほどの情熱は備えていなかったのだろう。俺はすぐに諦めた。
2015-09-03 21:21:13代わりにAdult Attachment Projectiveなるものの存在を知り、わざわざ遠方の図書館まで印刷しに行ったが、それもAAIと同じく、刺激から何からほとんど非公開で、なんちゃら大学でライセンス取ってねという方式なのだった。
2015-09-03 21:23:41諦めた俺は、質問紙でええんちゃうかと思い始めた。当時はまだ「そんなもんでアタッチメントが測れるかよ!」とか、「質問紙で測ってるものは本当にアタッチメントなのか?」的な批判を目にすることが多く、なんとなくクールでない雰囲気だったのだ。しかもShaver達は恋愛を扱っていた!
2015-09-03 21:28:03当時まだハナクソ学部生だった俺は、恋愛研究に対して差別的な考えを持っていたから、そういうのは嫌だなと思った。また、彼らのアイデアは3類型に基づくものであり、DisorganizedやUnresolvedといった類型が話題になっていた当時のノリとは合わない、古い考え方だと感じた。
2015-09-03 21:31:47そこで登場するのがBarthoromew達だ。奴らのアイデアは、アタッチメントのワーキングモデルとかいう謎な概念をぶち上げていたボウルビィに忠実なもので(というか本人達はそう主張していた)、二次元によって描かれる四象限でもって、成人のアタッチメントを4類型に分けるものだった。
2015-09-03 21:36:36奴らのRQは、所定の計算式によって、その二次元それぞれの得点まではじき出せるスグレモノであった。なおRQはHazan達に倣った単項目尺度だが、RSQという多項目尺度も作ってやがったし、その妥当性検証としてなんちゃらインタビューというAAIの紛い物的サムシングまで使っていやがった。
2015-09-03 21:39:46ええがなええがなとほくそ笑む俺は、しかし、アタッチメントの質問紙尺度乱立地獄に堕とされることとなった。どれが良いんだよコレ!結局!そしてそれに対して「やっぱAAIじゃないとねー」批判的にドヤるAAIライセンス取得者達の測定法総説……俺のライフは限りなくゼロに近づいた!
2015-09-03 21:42:12乱立地獄に垂れた一本の蜘蛛の糸。それがBrennan達のECRだ。「どの尺度を使えば良いの?」という問い合わせの多さに辟易した奴らは、遂には現存する尺度を掻き集め、それらを一斉に実施、因子分析にぶっ込むという暴力的手法でこの尺度を作り、そしてアタッチメントの二次元性を支持した!
2015-09-03 21:47:14俺は質問紙で行くぞ!そう腹を決めた俺は、生き馬の目を引き抜きかねないほど凄惨だったあの測定法論議を生き抜くため、理論武装に努めた。内的作業モデルという謎概念について考え続けたあの時間に、果たして意味はあったのか。それは分からない。だが、遠藤利彦と佐藤徳がガチであることは分かった。
2015-09-03 21:52:16特に心理学評論に載っていた佐藤徳のレビュー論文は、内的作業モデルの神経基盤をモデル化するぜ!という偏執的なものであり、彼のレビュー屋としての狂気が発露したマスターピースである。この論文でたの、確か1998年かそれくらいの話だからな?あっちゃんはやっぱちょっと違う。
2015-09-03 21:55:50俺がようやっと測定法にまつわるストリートバトルで勝てるようになって来た頃、世界の第一線で何が起こっていたかというと、Mario Miklincerとかいうスーパーマリオ野郎が颯爽とシーンの中心に躍り出ていたのだ。奴の手口は、認知心理学的な概念運用と実験手法、そして高い生産性……。
2015-09-03 22:00:48それは無敵だった。破竹の勢いで論文を出しまくるスーパーマリオ野郎。シーンの地下で蠢いていた「な、内的作業モデルのこと、ちゃんと研究しません?」というレジスタンスは、奴の出現でもって一気にオーバーグラウンドしたのだ!やがて奴はモデルを打ち立てた。質問紙アタッチメントの金字塔を、だ。
2015-09-03 22:04:51奴らはそのモデルを携え、AAI方面からの完全なる独立を宣言したのだ!AAIがホンモノだと主張するメアリーメイン軍の言い分もわかる。しかし見てくれ。俺たちが偽物と罵られながら、質問紙と実験で積み上げた研究知見は、今日、こうして素晴らしきモデルに結実したぞ!そんな声が聞こえた!(幻聴
2015-09-03 22:08:23要するに、成人のアタッチメントには発達心理学系の流れと社会心理学系の流れがあって、後者は前者の亜流としか見られてなかった時代もあったんだけど、どちらにもそれなりの良さはあるんだから、これからは別物として考えましょう、という議論が進められたんですね。
2015-09-03 22:10:59その後、スーパーマリオたちがどうしたかって?うん。その話をしておこうか。質問紙と実験の知見でもってクールなモデルを打ち立てるという革命が華々しく成功した後、彼らはセキュアベーススキーマやらなんやらと、研究を続けた。臨床方面でも、治療効果の予測因として良いぞ!なんて話もあった。
2015-09-03 22:19:04それだけだった。いつしか革命の熱狂は失われ、JPSP等のトップジャーナルに掲載されるアタッチメント論文の数は目に見えて減少していった。脳みそがどうした、サイコセラピーがどうした、そんな声もあがり続けてはいる。しかし、もはやアタッチメントは時代の中心から外れていったのだ。
2015-09-03 22:22:19質問紙のアタッチメント研究は、俺らなりのアタッチメント研究という夢を追いかけた。それがモデルという形で成就したとき、「次、なにやればいいんだっけ?」という戸惑いに変わったのだと思う。モデルを適用すべき現実を持たなかったのか。乳幼児を観察せず、臨床にも直面してこなかったツケなのか。
2015-09-03 22:32:29スーパーマリオの旅は終わったのか。彼は今どこに居て、これからどこへ向かうのか。 ICP2016、横浜。 Mario Miklincer、待望の来日。 icp2016.jp/sp/program02.h…
2015-09-03 22:35:13