むやみに教えないこと、見守ること・・・センス・オブ・ワンダーの重要性

子どもにむやみに教えようとしない方がよい。しかしそばに一人、大人が寄り添う必要がある。そのことに気づかせてくれた3冊の本を紹介する。
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shinshinohara @ShinShinohara

むやみに教えることは子どもの意欲や想像力を奪うのでよくない。そう考えるようになったきっかけになった本が3つある。いずれも教育書ではない。しかし①むやみに教えようとしないこと、②しかし見守る大人の存在が大切であること、その2点がいずれも共通している。

2015-09-09 17:45:43
shinshinohara @ShinShinohara

レイチェル・カーソン「センス・オブ・ワンダー」。レイチェルは甥のロジャーを連れて雨降る森を探検したり、夜の海に波の轟きを感じたり、静かな夜に月を飽かず眺めたり。自然の神秘、不思議に目を瞠り、驚く感性(センス・オブ・ワンダー)を共に楽しみながら培っていく。

2015-09-09 17:46:26
shinshinohara @ShinShinohara

ロジャーは露にきらめくコケを「リスのクリスマスツリー」と呼ぶ。様々な生き物を、レイチェルと二人だけに分かる名前で呼んだりする。レイチェルは正式な名称を特に教えようとしない。名前よりなにより大切なのは、自然の不思議さに目を見張り、驚く感性を損なわずに育むことだから。

2015-09-09 17:47:16
shinshinohara @ShinShinohara

私は当初、奇妙に感じた。レイチェルは生き物の正式名称を「教えてはいけない」とまでは考えてはいないものの、特に無理して教える必要はない、と考えていた。それはなぜなのか。感性を育みながらきちんとした名前を憶えても別に構わないじゃないか。なのにどうして教えなかったのだろう?

2015-09-09 17:48:22
shinshinohara @ShinShinohara

その答えを別の本から見つけた。福永光司「荘子」。そのあとがきに、著者自身のエピソードが紹介されていた。「公園にあるあの曲がりくねった木、まっすぐ見るにはどうしたらよいか」そう母親に問いかけられ、福永少年は1週間考え込んだ。しかしその木は、どこからどう見ても曲がりくねっていた。

2015-09-09 17:49:24
shinshinohara @ShinShinohara

切って製材化してまっすぐにすればよい、なんていう答えを求める母親でもない。福永少年はついに降参して答えを求めた。母親の回答は「そのまま眺めればよい」。曲がりくねった木をそのまま眺めればよい、それが「まっすぐに見る」の答えとは、いったいどういうことなのか?

2015-09-09 17:50:29
shinshinohara @ShinShinohara

「まっすぐ見るにはどうしたらよいか」と問いかけられたとき、私たちは「まっすぐ」という基準(規矩、ものさし)を外からあてはめて木に押し付けようとする。すると木は曲がったようにしか見えない。「この木は曲がっている」という情報以外、その木から感得できなくなる。

2015-09-09 17:51:53
shinshinohara @ShinShinohara

しかしもし「まっすぐ」という価値基準を外からあてはめようとするのをやめて、木を虚心坦懐に眺めたとしたら。木肌から匂いが立ち、生命力にあふれ、曲がりくねった枝が耐えてきた風雪の厳しさを感じ取れるだろう。まっすぐに見る=素直に眺める。対象物をありのままに眺めよ、という問いだったのだ。

2015-09-09 17:54:25
shinshinohara @ShinShinohara

レイチェルは著名な生物学者の一人で、コケの名前だけでなく海洋生物の名前も逐一教えることができ、その諸性質も滔々と語ることができただろう。しかしレイチェルは甥のロジャーにそうはしなかった。「素直に眺める」ことができなくなってしまうことに気が付いていたからだろう。

2015-09-09 17:55:19
shinshinohara @ShinShinohara

図鑑を見れば、海辺の貝の名前や、森にあったコケの名前も分かっただろう。細々とした解説も学ぶことができただろう。しかし奇妙なことに、そうして子供が「物知り博士」になると、目の前の生き物から学び取ろうとするのではなく、図鑑で読んだ知識の引き出しを披露するのに熱心になってしまう。

2015-09-09 17:57:23
shinshinohara @ShinShinohara

「○○花は△△科の植物で、春ごろから咲き始め、関東以南に分布」…図鑑の内容を自慢げに語りだす。しかし目の前の花がどんな匂いを発し、雑草に負けまいと必死に背を伸ばす姿、共に咲く草花に気づかなくなりがち。文字情報にとらわれて、目の前の不思議に気づかなくなる。

2015-09-09 17:58:43
shinshinohara @ShinShinohara

文字にされていることは、過去の人がまとめた「過去」でしかない。しかも文字に変換した時点で、過去の人が感じたであろう感動や感性が消去されている。文字から受け取れる情報は無味乾燥なものでしかないのに、文字情報に注意が行き過ぎると目の前の不思議に気づきにくくなってしまう。

2015-09-09 17:59:25
shinshinohara @ShinShinohara

レイチェルはそのことが気になったのだろう。文字情報の受け売りより、目の前にある不思議に新鮮な驚きを感じ、目を瞠ってまじまじと見つめる。その感性は、過去の人も気づき得なかった新たな発見をもたらし、より豊かな文化を育む土壌になることを知っていたのだろう。

2015-09-09 18:00:28
shinshinohara @ShinShinohara

「センス・オブ・ワンダー」を読んで初めて、なぜレイチェル・カーソンが「沈黙の春」を書いたのか、疑問が解けたように感じた。レイチェルが公聴会で話している映像、とても穏やかで静かな語り口。化学物質を糾弾するようなヒステリックさは微塵も感じられなかった。

2015-09-09 18:01:36
shinshinohara @ShinShinohara

当時、レイチェル以外にも大勢の科学者がいた。異変に気付く生物学者もいた。しかし明確に警告を発する人はいなかった。レイチェルだけが「科学の進歩」を無邪気に信じる当時の風潮から距離を置き、疑問に思うことができた。なぜか。「自然の不思議に目を瞠り、驚く感性」があったからだ。

2015-09-09 18:02:32
shinshinohara @ShinShinohara

科学が語る能書きを額面通り受け取る科学者が当時は多かった。他方、レイチェルは生物学者だったが、身の回りの自然、生命の不思議に目を瞠り、驚いていた。だからこそその自然が刻々と変化し、生命が息絶えていく様子に、いち早く気づくことができた。能書きの文字情報にとらわれることなく。

2015-09-09 18:03:44
shinshinohara @ShinShinohara

当時の科学者は、科学者であるにもかかわらず「権威」に逆らうことができない空気に支配されていた。その分野の権威が右と言えば右だと斉唱しなければならなかった。自然の不思議が左だと訴えかけていたとしても、それには目をつむり、右と言わなければ排除されかねなかった。

2015-09-09 18:04:30
shinshinohara @ShinShinohara

レイチェルは別段、反骨の人ではない。科学者全員を敵に回して真っ向から戦おうなどと言う気骨があるわけでもない。それは彼女の公聴会での様子を見るだけですぐ分かる。静かで穏やかな性格。事を荒立てようという気持ちの欠片もない。ただ、自然が、生命が息絶えていくことが悲しかったのだろう。

2015-09-09 18:05:16
shinshinohara @ShinShinohara

「沈黙の春」の衝撃的な内容と、公聴会での穏やかな婦人像とのギャップ。なかなか理解できなかったのだが、「センス・オブ・ワンダー」を読んで氷解した。彼女は自然の不思議さ、神秘さに目を瞠り、驚く感性の持ち主だった。そして自然や生命が損なわれていくのが哀しくてならなかったのだ。

2015-09-09 18:06:15
shinshinohara @ShinShinohara

レイチェルは環境問題という新たな課題があることを人類に気づかせてくれた功績で、歴史に残るだろう。しかし同時に「科学に権威はいらぬ」ことに気づかせた功績も大きい。科学者が先生とするのは「自然」。自然から目をそらし、自説を押し付ける人物は、権威でもなんでもないのだ。

2015-09-09 18:07:26
shinshinohara @ShinShinohara

少し話がそれた。 むやみに教えようとしない、しかし見守る大人が一人必要。そのことを教えてくれたもう一冊が、「アルプスの少女」(私が実際に読んだのは「アルプスの山の娘 ハイヂ」という岩波文庫の絶版)。ヨハンナ・スピリが描くこの物語にも、興味深いヒントが隠されていた。

2015-09-09 18:08:13
shinshinohara @ShinShinohara

クララの学友としてアルプスの山から連れてこられたハイジ。しかし都会の生活に全くなじめず、家庭教師の粘り強い指導にもかかわらずアルファベットさえ覚えられず、家政婦のロッテンマイヤからは見放されつつあった。ハイジも「自分は勉強に向いていない」と思い込んでいた。

2015-09-09 18:09:00
shinshinohara @ShinShinohara

そんなとき、クララの祖母が現れた。ハイジが決して愚かな娘ではないことを見抜いたクララの祖母は、ハイジの話をじっくり聞き、その心に寄り添った。都会に来てからというもの、あれをしろ、こうするなと命令と禁止ばかり言い続けられてきたハイジの心は、ようやく解け始めた。

2015-09-09 18:09:39
shinshinohara @ShinShinohara

すると、ハイジはみるみる学習が進み始めた。アルファベットをあっという間に覚え、本を朗読することもできるようになった。クララの祖母が読み聞かせてくれる本には、アルプスの山々を思い起こさせる美しい世界が広がっていた。無味乾燥な都会生活の中で苦しんでいたハイジは、貪るように本を読んだ。

2015-09-09 18:10:18
shinshinohara @ShinShinohara

ハイジは都会に来る前に、すでにアルプスの魅力に取りつかれていた。走り回る子ヤギたち、ペーターと食べるおいしい弁当、風わたる草原の香り、夜にうなる木々、心地よいにおいのする藁のベッド。自然の不思議に取り囲まれていた。

2015-09-09 18:11:16