PODアフター ~少年騎士の帰還~

バアスデイ終了後、アジェンくんの未来への帰還
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シキ @orikadoyuki

@BB_rongesuki とある酒場の一角で、若い騎士とガンマンが同席していた。 テーブルの上には空になった酒ビンが、雨後の筍のように生えている。 「なんだあアジェン、酒が進んでないじゃあねえか。ほら、ジョッキよこせ。ビールを注いで…ほれ、もっかい乾杯だ!」

2015-09-09 00:33:04
美々丞 @BB_rongesuki

@orikadoyuki 「お、俺はもういいですよ…!」 ジョッキに溢れんばかりに注がれたビールを、苦い顔しながら見つめる。 「…というか、ハーレーさん飲みすぎじゃないんですか?」 そう言って心配そうにアジェンは、酒を注いでは飲んでを繰り返すハーレーを見た。

2015-09-09 00:56:57
シキ @orikadoyuki

@BB_rongesuki 「おれは嬉しいんだよ!ヒヅマにくっついてたあのちっこかった坊主が、こうやって酒に付き合ってくれるくらいデカくなったことがよお!」 グビグビとビールを飲み干して、次の酒に手を伸ばす。 「ヒヅマも喜んでるだろうなあ。そうに違いねえや。立派になったもんなあ」

2015-09-09 01:01:57
美々丞 @BB_rongesuki

@orikadoyuki 「え、あ、そうですかね…えへへ」 立派になったという言葉に少しばかり恥ずかしような、申し訳ないようなそんな気分になったアジェンはそれを誤魔化すために、ビールの泡に口をつけた。 あまり飲み慣れてないからか、頭がふわふわしてきた。

2015-09-09 01:15:09
シキ @orikadoyuki

@BB_rongesuki 「おー、いいな、飲めるなあアジェン!ローゼンベルグではヒヅマと晩酌したりしてるのか?」 尋ねておいて、答えも待たずに話を続ける。酔っぱらいだから。 「そういや、おまえさんはあっちでなにしてんだ?戻ったらなにをするんだ?」

2015-09-09 01:23:56
美々丞 @BB_rongesuki

@orikadoyuki 言葉を吐こうとしていたら、次の言葉を投げられて戸惑った。 ヒヅマさんとお酒なんて飲んだことはないし、そもそも自分なんかと飲むお酒なんて美味しくないだろうに。今、一緒に飲んでるハーレーさんだって。→

2015-09-09 01:29:31
美々丞 @BB_rongesuki

@orikadoyuki そんな言葉は飲み込んだ。空気を悪くしてはいけない。 「俺は…帰ったら訓練ですよ。一応あそこには騎士としてお金もらってるので…強くならないと」 金色に輝く酒の水面に見るからにしょんぼりとした自分の顔が映った。

2015-09-09 01:34:06
シキ @orikadoyuki

@BB_rongesuki 「おー、そうか、そうだよな。おまえさんは騎士だ。ここでの戦いで、何度も力を借りたっけなあ」 槍を構え、敵陣に切り込んでゆく少年の背中を思い出す。なんと勇敢なことか。 「おれがおまえさんくらいのときは、まだ家出する前か、した直後ってとこだなあ」→

2015-09-09 07:49:50
シキ @orikadoyuki

@BB_rongesuki 「ダメなやつでなあ。なんとか邪紋使いにはなってたんだが、如何せん才能がなかった。傭兵団に転がり込んだり、国に雇われてみたりしてみたんだが、失敗続きだ。そのうち逃げ癖もついちまって……ほんと、思い出すと顔から火が出そうだ」

2015-09-09 07:54:19
美々丞 @BB_rongesuki

@orikadoyuki 「そうだったんですか…」 遠くの何かを見つめながら語る男の、影を差した横顔を見て、この人にもそう言った過去があるのかと思った。 そして、まだ若い少年には「そうだったのか」以上の返答が思いつかずに、また誤魔化すように酒を口にした。

2015-09-09 15:14:38
シキ @orikadoyuki

@BB_rongesuki 「だから、おまえさんが羨ましいよ、おれは」

2015-09-09 21:36:15
美々丞 @BB_rongesuki

@orikadoyuki 「うらやましい、ですか…?」目を丸くした。 決して人から羨ましいなんて言葉が出るような人生とかそういったものなんて送ってないし、持ってもいない。 「そ、そんなことあるはずないですよ。羨ましいだなんて。つまらないの間違いだ」 少し強い口調で言った。

2015-09-10 13:58:49
シキ @orikadoyuki

@BB_rongesuki 「楽しいかどうかって話じゃあねえさ」 くく、と喉を鳴らして笑う。 「そういう意味なら、おれはガキの頃から人生楽しかった。やりたいようにやってきたし、いろんなイイ女とヨロシクできたしよ」 でもな、と言葉を継ぐ。 「強くなるための理由がなかった」→

2015-09-10 19:10:57
シキ @orikadoyuki

@BB_rongesuki 「おれはさ、英雄になりたかったんだ。誰より自由にこの大陸を駆け回る、無軌道な風のような、英雄に」 けれど、手にした邪紋は自分に馴染まず、煮え湯を飲む日々が続いた。 強くなるきっかけ、その理由と、出会うことがなかったのだ。 →

2015-09-10 19:17:52
シキ @orikadoyuki

@BB_rongesuki 「おまえさんにはあると思うんだよ。おれが三十路になってから手に入れたそれを、その若さで既に持ってるんじゃねえかって」 それは生涯の理由ではないかもしれない。不幸な生い立ちに起因するのかもしれない。 しかし、それでも。 「それが、おれには羨ましいのよ」

2015-09-10 19:27:43
美々丞 @BB_rongesuki

@orikadoyuki 「手に入れた…持ってる…」 強くなるための理由。それが羨ましい。 ハーレーという男が発した言葉が、少年の中で重なって響く。 「お。俺の理由なんて…。大したものではないですよ…!」→

2015-09-10 20:42:23
美々丞 @BB_rongesuki

@orikadoyuki 「だって俺、ヒヅマさんに恩返ししたくて…!それだけのために強くなろうとか言ってる餓鬼ですし…」 我ながら周りが見えてないし、見ようともしてないのも分かってる。 なんならヒヅマさんさえ良いならって思ってるところ、少し歪んでる気がする。→

2015-09-10 20:49:10
美々丞 @BB_rongesuki

@orikadoyuki 「だから…その、あの」 否定したくて、自分の持てる言葉の引き出しをひっくり返す。しかし少年の気持ちをそのまま伝えるまでの言葉がなく、口籠る。

2015-09-10 20:53:26
シキ @orikadoyuki

@BB_rongesuki 少年は何かを言いかけて口を閉ざした。そのことに気づくには、こちらは酔いが回り過ぎていた。 「大した理由じゃない?くかかっ、なあに言ってんだよ。おまえさんがヒヅマのこと好きで好きでたまらねえって気持ちは、めちゃくちゃデカイじゃねえか!」→

2015-09-10 21:33:18
シキ @orikadoyuki

@BB_rongesuki 何度も戦場を共にした今だからこそ、思うのだ。この少年の目には、いつだってヒヅマが映っているのだろうと。彼の存在が、この少年の戦う理由の根っこなのではないかと。 「好きって気持ちはいいぞ。そいつらのためにやらなきゃ、って必死ンなれるからな」→

2015-09-10 21:39:42
シキ @orikadoyuki

@BB_rongesuki 「大した理由かどうかなんてどうだっていいんだよ。理由は、あるんだろ。無くはないんだろ。なら、それだけで十分だ。おまえさんは強くなるよ。おれなんかより、よっぽど早く、よっぽど強くなる」 酔っ払いの戯言と思わば思え。真偽のほどは、未来に行けばわかる。

2015-09-10 21:44:27
美々丞 @BB_rongesuki

@orikadoyuki 「本当に強くなれますか…?俺は…」 その声は縋るようだった。 「俺はヒヅマさんと並べるような、向き合えるようなそれぐらいになれますか…!?」 対等な力とはなんだろう。自分はまだまだだと知っている。でも、どこまで強くなれば届くんだろう。あの人の強さに。→

2015-09-10 22:01:42
美々丞 @BB_rongesuki

@orikadoyuki 「ヒヅマさんは俺を助けてくれて、一人の人間として突き放してくれて、でも戦いには出るなって優しくしてくれて、俺が武器を持ち始めた時だって叱らずに受け入れてくれて、武器を握る練習だって付き合ってくれました」 初めて憧れた。崇拝した人。→

2015-09-10 22:08:25
美々丞 @BB_rongesuki

@orikadoyuki 「どうしたら届きますか。守れますか。どうしたら…あの人みたいになれますか…」 言い終わったときには少年の顔は、酒が回りきって真っ赤になっていた。 はぁはぁと荒くなった呼吸をそのままにして、ぐっとジョッキを傾けてビールを飲み干す。

2015-09-10 22:12:30
シキ @orikadoyuki

@BB_rongesuki 「おおっ、なんだ、飲み比べか!?」 負けじとジョッキを掴んで一気に飲み干す。くはあ、と息を吐いて、アジェンに意味ありげな視線を送った。それはまるで、酒を飲むという行為になにがしかの意味があるとでも言いたげな目つきだったが、もちろんそんな意図はない。

2015-09-10 23:39:05