【書きかけ】ヴェールヌイの帰還

深海さかな @dzurablk_kai

・・・その日は今でも覚えている、とてもよく晴れた清清しい朝だった 「んぅ～～・・・っっ」 起床ラッパが鳴る二十分前に目が覚めた響は、窓を開けると澄んだ海風を胸いっぱいに吸い込む 遠く薄雲にかすむ朝焼けは、とても綺麗だった #ヴェールヌイの帰還

深海さかな @dzurablk_kai

「んんん・・・」 顔に射した朝日がまぶしいのか、寝ぼけた暁がすぐ隣でうめく いつもと変わらない起床前、慌しくなる前のほんのひと時の平和な光景・・・ それは、響が愛してやまないものでもあった #ヴェールヌイの帰還

深海さかな @dzurablk_kai

願わくば、こんな平和な日々がずっと続きますように・・・ 頭の片隅で起床後の点呼と清掃の手順をなんとなしに考えながら、響はそんなことをふと考える ・・・数時間後にはそのいたいけな願いが打ち砕かれるとも知らず #ヴェールヌイの帰還

深海さかな @dzurablk_kai

「提督、コーヒーだよ！」 「悪いな あと、司令部内でその言葉遣いはやめろと言ってるだろ？」 困ったような口調の提督に川内はてへへと笑う ここは大湊警備府、地下司令部 揚陸指揮艦のような円卓の並んだフロアより少し高い位置にある、提督指揮所だ #ヴェールヌイの帰還

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「だって、どうせ私たちの仲はみんなにばれちゃってるんだし！」 そう言ってディスプレイが立ち並ぶフロアに目を向けた川内に、司令部要員の三水戦の駆逐艦たちが慌てて目を逸らす 「はあ・・・ せめて、敬語くらいは使ってくれ・・・」 「はいはい、了解しましたよーだ」 #ヴェールヌイの帰還

深海さかな @dzurablk_kai

拗ねたように口を尖らす川内に提督もクスリと笑ってしまう 「まあ、もうすぐ夜勤も明けて、海自から交代要員も来る そんなに気にすることは・・・」 そのときだった 司令部内に突如、激しいブザーが鳴り響く 「どうした？」 「敵です！！」 吹雪が声を上ずらせながら叫ぶ #ヴェールヌイの帰還

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先ほどまで恋人の会話をしていた川内の顔も、一瞬で指揮艦のそれに変わる 「状況！」 「さ、さっきまでこんなことは・・・」 吹雪は相変わらずかなり取り乱した様子だ 「レーダーには敵影は見られません！！」 と綾波 「友軍の艦艇ではないのか？」 「違うんです！！」 #ヴェールヌイの帰還

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こちらを振り返った吹雪の顔は、まるで死人と見紛うかのごとく青白くなっていた 「反応があったのは、警備府の耐震センサー類です 調べてみたらセンサーが沈黙し始めて・・・」 「川内、故障や誤報の可能性は」 「ありえません、自己診断プログラムが常時走っているんです」 #ヴェールヌイの帰還

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「それって・・・」 ことここに至って、吹雪以外の駆逐艦たちも自体を察したようだった 「・・・提督、非常呼集と総員に武装の許可を」 「許可する 三沢の空自と八戸の陸軍に通達は」 「すでに始めています！！」 「結構、民間人の避難誘導に一水戦を市街地に向かわせろ」 #ヴェールヌイの帰還

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途端に司令部内が、文字通り戦場のようにあわただしくなる きびきびと部下たちに的確に指示を飛ばす川内の横で提督は机にひじをつきながら、組んだ手のひらの下でぎりりと歯軋りをした 「・・・敵がすでに、警備府内にいる・・・だと？」 #ヴェールヌイの帰還

深海さかな @dzurablk_kai

ー大湊警備府内、軽巡宿舎前ー 「各分隊長は点呼終了を待たず、担当防衛指揮所へ向かい隷下駆逐艦を掌握！ 実弾は指揮所で配分される！！」 川内に告ぐ高錬度艦にして軽巡隊の長である那珂が、朝礼台から声を張り上げる 突然の非常呼集、それも訓練ではないとあって、 #ヴェールヌイの帰還

深海さかな @dzurablk_kai

軽巡たちも相当混迷を極めていた そのとき・・・ 突然の地響き、続いてどこかでガラスやコンクリートが崩れる音 「きゃあっ！？ な、なに・・・？」 咄嗟に朝礼台の柵につかまりながら振り返った那珂が見たものは、信じられない光景だった #ヴェールヌイの帰還

深海さかな @dzurablk_kai

宿舎前をつなぐアスファルトの道の桜並木のその向こう かつて駆逐艦宿舎として使われていた、取り壊し予定の「旧第一大隊学生舎」の、崩れ落ちた壁の向こうには・・・ 「戦艦・・・ル級！？」 この警備府内では決して出会わない、出会ってはならない敵の姿が、そこにはあった #ヴェールヌイの帰還

深海さかな @dzurablk_kai

とたんに整列しかけていた軽巡たちは、パニックに陥る 何の情報もないままに集められ実弾も持っていないにも関わらず、最強クラスである「戦艦」がすぐ近くに現れたのだ、無理もない 悲鳴を挙げる者、今来た宿舎に逃げ込む者、その場にへたり込む者・・・ 舎前は混迷を極めた #ヴェールヌイの帰還

深海さかな @dzurablk_kai

「ちょ、ちょっと待って・・・！！ みんな落ち着いて！！」 那珂の叫びも虚しく、統制を失い瓦解しつつある軽巡隊・・・ 駆逐艦を統率し重巡の目となる軽巡が機能しなくなれば、この警備府が墜ちるのはそう時間はかからない 「みんな、私の話を聞いてーーー！！」 #ヴェールヌイの帰還

深海さかな @dzurablk_kai

那珂が泣きそうになりながら叫んだ、その時 朝の静謐な空気に鳴り響く一発の銃声 だが、戦艦の主砲のような音ではない、もっと甲高い小口径砲の・・・いや、軽巡の主砲の音ではない 突然のことに動きを止め静まり返る軽巡たちの間に現れたのは、けん銃から硝煙をたなびかせた #ヴェールヌイの帰還

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神通だった 「・・・なぜ、射程距離が短く命中率も低いけん銃が、私たち軽巡に配備されているかわかりますか？」 すぐ近くの敵になど目もくれず、神通は静かに口を開いた 「これは元来、言うことを聞かない部下に向けるために使われるものだからです」 #ヴェールヌイの帰還

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右足の太もものホルスターにけん銃を戻しながら神通は続ける 「私はあなた方にこれを向けたくはありません ですが、これだけは言わせてください ・・・お前達、それでも指揮艦か！！」 突然の神通の怒声は、朝日に輝く新緑を、鉄筋コンクリートの宿舎を、 #ヴェールヌイの帰還

深海さかな @dzurablk_kai

そして聞く者すべての心をふるわせた 「指揮艦が部下の掌握もせず、敵前で取り乱すなど言語道断！！ それともお前たちは、敵に背を向けるために訓練を積んで来たのか！！ ここには負け犬よろしく逃げ出すような腰抜けしかいないのか！！！」 那珂に並んで高錬度の艦隊次席、 #ヴェールヌイの帰還

深海さかな @dzurablk_kai

かつ駆逐艦を束ねる水雷戦隊の総元締めの言は、ついさっきまで怯え取り乱していた者たちの闘志に瞬く間に火をつけた 「伝達！ 伝達内容、計一点！ これより水雷旗艦軽巡は直ちに原隊に復帰、司令部の支持に従え！！ それ以外の者は、どんな手段でもいい、敵と戦え！！！」 #ヴェールヌイの帰還

深海さかな @dzurablk_kai

・・・そこから先は、簡単だった 夕張や由良、阿賀野型たち水雷旗艦が走り出すのを皮切りに軽巡たちはいっせいに、おのおのの職務のため動き出した 窓ガラスを割って破片をナイフ代わりにする者、椅子やレンガを手にする者、主砲の砲身を持って棍棒のように構えるもの・・・ #ヴェールヌイの帰還

深海さかな @dzurablk_kai

「私は駆逐宿舎に向かいます、那珂ちゃん あとは頼めるわね？」 神通からけん銃を手渡された那珂は、覚悟を決めた眼差しで力強く頷く そして敵の方に向き直った 「・・・さあて、んじゃいっちょ、死にに行くか！」 左隣には儀礼刀を抜いた木曽 #ヴェールヌイの帰還

深海さかな @dzurablk_kai

「やれやれ、仕事ってのはつらいねえ」 「大丈夫よ、私は北上さんを守るためなら、地獄まででもご一緒するわ」 振り返ると、魚雷発射管を担いだ北上とガラス片を掴んだ大井 大井の手先からは、血が滴っていた それを見た那珂は、深呼吸を一息、大きく息を吸い込むと、 #ヴェールヌイの帰還

深海さかな @dzurablk_kai

警備府中に響き渡る声量で叫んだ 「突撃ぃぃぃぃぃぃッッッ！！！！」 #ヴェールヌイの帰還

深海さかな @dzurablk_kai

警備府内の随所で戦闘が始まる一方 警備府の外でも、孤軍奮闘する部隊があった 「のう筑摩、今日はやけに海鳥が静かじゃのう」 「あら、言われてみればそうですね」 海軍歩兵第七航空騎兵連隊所属、利根・筑摩 哨戒任務を終え帰還の途についた二人は、違和感を感じていた #ヴェールヌイの帰還