【国境のハイライト】 福間健二 #k2fact127

福間健二 @acasaazul

少年が岸辺を歩いている。アンドレイ。勝手に名前をつける。みどりの水面の、精神的な努力への、風のあいさつ。うれしいけど、お腹が痛い。草のなかに身をかがめてまだ生まれない虫たちのメッセージを受けとめる。さざ波の、あたらしくない音楽とは別に。（国境のハイライト１）#k2fact127

福間健二 @acasaazul

苦悩、消す。色を抜いて。屋根の上に並ぶ石を見る。持ってくる約束をしたものを持ってきていないのを言いそびれる。木と木のあいだ。シャベルをもった手が指す方向に、Ｔシャツを干したロープがある。鳥もいた。別な種類の、手。まだ力が入りすぎている。（国境のハイライト２）#k2fact127

福間健二 @acasaazul

川のむこうは、別な国の朝だ。小さな家がいくつか見える。人の姿は見えない。植物の緑が明るい。わずかの差に滴をたらしながら、地球が鼓動を打っていると感じて、逃げ道の地図を頭に描く。力の抜き方も、言うのは簡単だ。文明論。晴れた空はつづいている。（国境のハイライト３）#k2fact127

福間健二 @acasaazul

理解できないおしゃべりが一瞬聞こえ、それからまたひとりになって思い出した。たいした証拠もなくナチスの協力者とされて殺された人たちのこと。ぼくが質問しなければボヤンは話さなかっただろう。ゆるい風。いつのまにか森の中に迷い込みかけていた。（国境のハイライト４）#k2fact127

福間健二 @acasaazul

ボヤンとクセーニャとケイコが待っていた。朝食のテーブル。ここから見える森も別の国だが、食べているあいだはそれを忘れる。ハムとソーセージ。チーズと生のパプリカとトマト。そしてスイカ。もっと。じゃあ、あと少しだけ。忘れる。花を。血を。轍を。（国境のハイライト５）#k2fact127

福間健二 @acasaazul

山の頂上に、二つの礼拝堂。スロヴェニアとクロアチアの国境だが、線はない。クロアチア側の礼拝堂は素朴。スロヴェニア側は現代アート。同じ聖女をまつる。その聖女の物語もボヤンから聞く。一本のハイライトを二つの国を行ったり来たりしながらすった。（国境のハイライト６）#k2fact127

福間健二 @acasaazul

地名をまちがえてばかりいる。何をしているのか。タバコをすい、ワインを飲み、肉と野菜とパンを食べ、訂正しながらの移動。力の入れ方、抜き方。健康すぎる。いま、イタリアをちょっと通った。黒い影を確認。たった数分の、雲を寝そべらせる権利の行使。（国境のハイライト７）#k2fact127

福間健二 @acasaazul

死んだように眠っている犬とポスト。日本の若い詩人への葉書を投函したあとでちょっと心配になる。空、痕跡のないパレット。国境とＪＫ。尾久くんの詩のタイトルが突然浮かぶ。ここにはＪＫはいないが、制服の女性警官がいる。そのうなじに水晶の粒を見た。（国境のハイライト８）#k2fact127

福間健二 @acasaazul

汗と埃の、どういう能動か。それぞれ身分証をもつ子どもたちの視線の先の拳銃、その重さと光沢。だれが握りしめた北十字星への距離を語るのか。ドーベルダン。こんにちは、のあとの起伏から突きでるフォークの先に目覚める動物。匂わないように手でつつむ。（国境のハイライト９）#k2fact127

福間健二 @acasaazul

告げなければならないこと。英語にすると簡単になって、遠くまで行かなくてはならない人のまなざしのなかをさまよう。列車のデッキで一緒にタバコをすった。彼は英語が巧かった。簡単にはあかない自動ドアのあけ方を教えてくれた。頭の上で手を振るのだ。（国境のハイライト10）#k2fact127