
漱石が「I Love You」を「月が綺麗ですね」と訳したという話、ほぼ確実にデマなのだけど、だれがそんなことを言い出したのかというのが気になる。どうも1970年代にはすでに言われていたらしい。
2015-09-28 20:39:31
口伝だけで100年前の発言は残らないだろう。漱石が言ったというなら、近い時代に誰かが書き留めていないといけない。
2015-09-28 20:42:06
漱石が本当に「月が綺麗ですね」と言った可能性については、英語教師としての漱石を論じた諸著作にも出てこないあたり、否定してもよいだろう。crd.ndl.go.jp/reference/modu…
2015-09-28 23:12:55
こちらのサイトによるとniguruta.web.fc2.com/kensyo_kirei.h…、1970年代から80年代にはすでに「漱石がI Love Youを翻訳した」という話が確認される。しかもそれは「有名な話」だというのだから、この話の成立はさらに前、ということになるのだろう。
2015-09-28 22:29:51
ただし、この時点では「漱石はI Love Youを『月がとっても青いから(or青いなぁ)』と訳した」となっていて、現在伝わっている訳文とは異なっている。これと関係があるかは不明だが、「月がとっても青いから」は1950年代のヒットソングである。
2015-09-28 22:32:51
この歌は「月がとっても青いから 遠廻りして帰ろう」という恋愛の機微を歌ったもので、I Love Youを「月がとっても青いから」と訳すのは、むしろこの歌を背景にしているのではないだろうか。
2015-09-28 22:36:06
「月がとっても青いから」についてはwikipediaの記載にもあるように、50年代に100万枚売上げ、同名の映画も作られている。
2015-09-28 23:03:56
「月がとっても青いから」はいつのまにか(80年代以降?)「月が綺麗ですね」に変化する。歌の存在が忘れられて、それでも意味が通じるように形が変わった、ということなのかもしれない。
2015-09-28 22:38:34
一方、漱石自身は何を言っていたのか。『漱石全集』のどこにも「I Love Youを~と訳した」という話は出てこない。ただし、「「漱石文庫」に残された漱石のメモ書きの中に、ジョージ・メレディスというイギリスの小説家の作品を取り上げて、(続
2015-09-28 22:41:01
承前)「"I love you,Signora Laura."―Vittoria p.113.此I love you ハ日本ニナキformulaナリ」と記した一節 がある」という。iscb.net/index.cgi?mode…
2015-09-28 22:41:41
要するに漱石は「I Love Youに相当する日本語はない」とは言っている。それが漱石独自の見解というわけではない(柳父章『翻訳語成立事情』などにも「Love」の翻訳をめぐる多くの試行錯誤が描かれている)が、漱石の知名度の高さも関連して、
2015-09-28 22:46:05
戦後においても伊藤整など多くの文芸評論家・文学者がこの問題に触れており、そのなかで誰かが(たとえば大学の講義で)こう言ったのではないだろうか。「I Love You」を「愛している」と訳すのは安直だ。「愛」という観念はキリスト教に由来するもので、日本にはもともと存在しない。
2015-09-28 22:50:06
このことは夏目漱石も指摘している。では何と訳すべきか。最近の流行歌に「月がとっても青いから」というのがあるが、これなんて良いのではないだろうか、と。
2015-09-28 22:51:12
「漱石もI Love Youに相当する概念は日本語にないと言っている」と「I Love Youは「月がとっても青いから」と訳してはどうか」という二つの主張が、ある時点で混同され、「漱石はI Love Youを「月がとっても青いから」と訳した」ということになり、
2015-09-28 22:53:39
あった。この論文の5枚目に、 I love you に関する記述がある。:漱石文庫のメレディス(二):慶應義塾大学学術情報リポジトリ(KOARA) koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/module…
2015-09-28 23:26:53
どうやらこの本に問題の書き込みがあるようだが、ウェブには画像などなしかな。 : InfoLib 漱石文庫データベース dbr.library.tohoku.ac.jp/infolib/meta_p…
2015-09-28 23:38:19
すっかり忘れていたが、『三四郎』に「Pity's akin to love」を「可哀想だた惚れたって事よ」(可哀想だとは惚れたという事よ)と訳す話が出てくる。訳した与次郎は「句の趣が俗謡だもの」といい、野々宮先生は「なるほど旨い訳だ」と褒めている。
2015-09-29 17:16:57