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みかみ てれん @teren_mikami
今度、活動報告にでも書こうと思うんですが、わたしが「小説書いてみなよー。きみすごく小説書くのに向いていると思うよー、ねえ書きなよー」って勧めて、そしてついに書き始めたクラスメイトの子が、執筆歴5ヶ月でなろうの日間一位を取りました。わたしは恐ろしいモンスターを目覚めさせてしまった。
相生生音 @aioiion
その後、彼はめきめきと頭角を現しあれよあれよと言う間に商業デビュー。勢いは止まらず瞬く間に大作家の一角に仲間入りをする。その様に兄弟子であるテレンは「商業の暗黒面にのまれるな」と釘を刺すも、彼は次第に聞く耳を持たなくなっていく……。 twitter.com/teren_mikami/s…
みかみ てれん @teren_mikami
その子は書き始めてから延々と毎日更新を続け、ひとつひとつの小さな目標を定め、それを順々にクリアしてゆき、反省点が見つかればフィードバックして進化してゆきました。努力する天才さながらです。悔しいので「あなたもなれる! 5ヶ月で日間一位を取る方法!」とか出版して小銭を稼ぎたいです。
相生生音 @aioiion
@aioiion やがて彼の元に評議会からアニメ化の話が舞い込んでくる。自らの才能が認められたことから、ついに彼の自信は慢心へと変わっていく。すべては順調だった。……しかし、件のアニメの出来は例によって例のごとく、正直あまりよろしいものにはならなかった。
相生生音 @aioiion
@aioiion アニメへ向けられる酷評に次ぐ酷評。その罵詈雑言は、アニメのみならず彼の子供も同然である原作にまで及ぶ。なかでも、「原作は読んでいませんが」という聖言を掲げるワンスター教が彼と彼の作品に向ける言葉は、すでに批評でも感想でもなく、暴言の域に達していた。
相生生音 @aioiion
@aioiion なにこれも一時のこと、すぐに人々は作品の良さを思い出してくれる。そう彼は楽観するものの、物流と情報の中心地である惑星コノザマを根拠地とするワンスター教に刻まれた悪魔の烙印は、いくら時を経ようとも消えることはなかった……。次第に彼は精神の均衡を欠いていく。
相生生音 @aioiion
@aioiion 烙印は、彼の生み出す他の作品にまで及んだ。いくら新作を出せどもすぐにワンスター教が押しかけ磔刑に処される。中には好意的な感想を述べてくれるものや冷静な批評をしてくれるものもいたが、綺羅星と蠢く教徒たちの前には流れ星のごとく儚いものでしかなかった。
相生生音 @aioiion
@aioiion 孤独な戦いを強いられる作家である彼にとって、作品への感想は世界との唯一の接点であった。そこへ突如として滲み出してきたそれらは、彼を絶望させるに十分だった。そして、さらに絶望的なことにその悪意にはもはやどのような良作も届かない。ましてや翻意や反省も期待できない。
相生生音 @aioiion
@aioiion その事実に思い至った時、彼の中のスイッチは切り替わってしまった。……取り返しのつかない方向へと。  --ああ、いいだろう。これを、これらを駄作と呼ぶのなら、貴様らのいう『神作品』とやらは、逆説真に唾棄すべき塵芥だ。そんなものの存在は、断じて認めることはできない。
相生生音 @aioiion
@aioiion そして、そんなものを生み出すものたちも許容はできない。ならばーー 彼は、ラノベ作家狩りを開始した。ワンスター教の経典『星輝聖典』を元に、高評価の作家を襲った。無論、襲われたものたちに非はない。中には彼の憤怒や悲哀に共感を抱くものも少なくなかったはずである。
相生生音 @aioiion
@aioiion しかし彼にとってはそのものたちはワンスター教における聖人であり、すなわち敵であった。命乞いも憤りも疑問も同情も、聞く耳を持たず、すべて等しく沈めていった。そして、どれほどの数の『敵』を誅してきただろうか。彼が次のターゲットと決めた『敵』は、懐かしい兄弟子だった。
相生生音 @aioiion
@aioiion 「だから商業の暗黒面に呑まれるなと言っただろう、バカ者が……」 数多の作家の血とインクに塗れ、自分におぞましいまでの殺意を向ける彼を前にしてもなお、テレンの声は優しさを含み諭すような響きがあった。その声に、わずかながらに彼も理性を取り戻し手にした得物を躊躇する。
相生生音 @aioiion
@aioiion 「もう止めろ、戻ってこい。お前の指は刃を握り誰かを傷つけるためじゃなく、キーボードを叩きみんなを楽しませるためにあるはずだ」 かつて彼の才能を見出したテレンが、語りかける。 「大丈夫だ、檻の中だって創作はできる。お前を待ってる人だっている。いや、俺がその1人だ」
相生生音 @aioiion
@aioiion それは嘘偽りのない本心だった。テレンは彼の才能に惚れていた。自分を追い抜き成功のステップを瞬く間に駆け上がって行く弟弟子の姿に、初めこそ嫉妬したものの、彼の描き出す物語はそれを補ってなおテレンを魅了した。 「思えば、お前の最初のファンは俺だったんだよ」
相生生音 @aioiion
@aioiion ーーファン。 その言葉に彼のココロが止まる。今もなお荒れ狂う感情の嵐の中にぽっかりと凪が生まれる。どこまでも突き抜けるささやかな蒼天の下、郷愁めいた思いがココロのひだを優しくなでる。 ファン。それは、時に温かくて。時に誇らしくて。そしてかけがえのない、もの。
相生生音 @aioiion
@aioiion 頬を、涙が滑り落ちた。手にした刃まで落とさなかったのは、彼の意地か。  言いたいことはたくさんあった。  --星がひとつしかないレビューを見たことはあるか。読んでもいない連中にイメージだけで悪罵されたことはあるか。資源の無駄と言われたことはあるか――
相生生音 @aioiion
@aioiion あんたに何がわかるんだと叫びたかった。 今まで始末してきた作家たちと同じように消し去ってしまいたかった。……けれど、できない。 思い出してしまったのだ――あの日、拙い文章を人に見せたときのドキドキを。読みづらいだろうものを黙々と読みふけってくれた兄弟子の姿を。
相生生音 @aioiion
@aioiion 初めてだらけで右も左もわからないなか懸命になって仕上げた処女作を。少ないながらも書店に並んだ自著の姿を。いくつも書店を回りパンパンになった足を。偶然見かけた本を手にとってくれた人の姿を。初めてもらったファンレターのかわいらしい文字を。――思い出してしまったのだ。
相生生音 @aioiion
@aioiion 記憶の欠片が葛藤する。 刃が震える。それでも世界に悪意は絶えない。お前が省みられることはない、と。涙は訴える。それでも世界にファンはいる。お前が忘れられることはない、と。 温かい涙と冷たい刃がせめぎあう。 千々に砕け散りそうなココロの向こうで、テレンが言った。
相生生音 @aioiion
@aioiion 「お前の次回作、楽しみにしてるぜ」 ――それは。 『お前の次回作、楽しみにしてるぜ』 ――自分が作家という道を選んだすべての始まり。 心が彩を取り戻す。 口が勝手に開いた。言うべきことはわかっている。 「僕の作品が最初に読めるのは、テレンさんだけ、ですよ……」
相生生音 @aioiion
@aioiion 白い紙に墨をしるす。昼は頼りない西日、夜は裸電球一個の明るさの中、一心不乱に筆を振るう。贖罪と懺悔と、少しの誇りをのせて文字は記され文章はつむがれる。 それは名作かはたまた―― どこにいても彼は書き続ける。どこかに読んでくれる人がいる限り――Fin.
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